++「BRING ME TO LIFE」第二部・第三章(1)++

BRING ME TO LIFE

第二部第三章・監獄への脱出
(1)









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「クルーゼ隊長から送信された、警備プランだ。各自よく確認してもらいたい。特にバルトフェルド隊長には、地上警護の最高責任者として 部隊の指揮をお願いします」
「了解、勿論だとも。そのために僕はここへ来たんだからね」
「アスラン君、あなたは当然キラちゃんと一緒に宇宙へ上がるんでしょう?」
「あたしたちも一緒にな」
「但しカモフラージュのため、三機のシャトルに分乗してもらいます。俺とキラとニコル、それにアスハ大使が二号便、一号便には残る クルーゼ隊、平和大使の皆さんには三号便に、それぞれ搭乗を」
「あら、むしろ一機にまとまってくれたほうが守りやすいんだけど」
「しかし敵の目的はキラの拿捕のはずです。攻撃を仕掛けて来るといっても、実際にシャトルを撃ち落とすような真似はしないでしょう。 だからこそ、どこに目標があるのか曖昧にさせる手段は有効と判断しました」
「わかったわ。このまま進めて」
「で。敵というが、この場合その敵勢力はどこを想定している」
「地球連合軍、…に、カモフラージュしたエルクラークの私軍と見るべきかと」
「だろうな。俺達はそいつらの間をかいくぐってオーブに戻らなきゃならんわけだ」
「ま、正規軍も多少は混じっているかもしれないがね。しかし連合軍に扮してくれるなら、我々ザフトからすれば戦うのに何の遠慮も いらん相手だ。むしろ心配なのは君達のほうだが」
「エルクラークも地球軍も、今オーブとトラブルを起こすのは得策じゃない筈だ。フレイ達が乗るのは、ここに来る時にも使ったオーブ籍 の機体だ。戦闘が始まる前に離脱すれば大丈夫だろう」
「しかし油断は禁物だ。そっちには『鷹』もいるんだろう。護衛機の貸し出しくらい認めてやったらどうだ、アスラン・ザラ」
「勿論そうしたいのは山々ですが、ザフトの機体ではかえって危険です。かといって地球軍の機体、ましてやオーブ軍の機体を入手する ルートなど…」
「バナディーヤから搬入したコンテナの中に、一機くらいなかったかな。こんなこともあろうかと、以前戦闘の時に回収した スカイグラスパーを放り込んできたと思ったんだが」
「…あんた『虎』のわりに用意がいいな…」
「わりに、は余計だよ」
「すぐに確認させます」


 見える。聞こえる。
 …感じようと意識を飛ばせば、まさしく目と耳がその場へ飛んだかのように。
 アスランの髪の一筋の動きだって追える。

「…このままじゃ、いけないよね」

 部屋に零された言葉。それは、自分へ向けられたものではない。
 この部屋には自分しかいないけれど、もう一人。

『願いを、おしえて』

 自分の内側から、声は返ってくる。

「……僕もみんなを守りたい…」

 ふわ、と微笑む気配を感じた。

『守られるだけは、イヤ?』
「うん」
『うん。わたしも』

「僕に力があるのなら、その力でみんなを守りたい」

 破壊するための力。
 けれど、その力を制御するのが自分なら、それは守る力に変えることも出来るはず。
 今や医療等多方面の分野に欠かせない技術であるレーザーも、最初は兵器として開発されたように。使い方さえ、力の発露のさせ方さえ 変えれば、必ず守る力に変えることができるはずだ。
 そのためには、自分の力を知る必要がある。破壊を避けてそれを把握するにはどうしたらいいのかと、思い悩んだけれど。

 悩む必要などなかった。

 心を静めて。
 自分の中に眠る『力』を感じる。
 たったそれだけで、ああ、と何かがすとんと降りてきた。
 難しく考える必要なんてなかったのだ。
 願う心が、イメージが、想いが、『力』を得て、体の外へ出る。…そういうことなんだ。

『わたしも、ただ守られているだけは、いや』
「守りたい」
『うん。守りたい』

 ふふ、と微笑む。
 二人で。

『配置、おぼえた?』
「うん。大丈夫」
『敵、感じる?』
「…うん。来てる」
『わたしたちをおびやかす人達が、来てる』
 こくん、と頷くキラ。

「…守られるのは、嫌?」
『イヤなわけじゃない。でもそれだけはイヤ。守られるだけはイヤ』
「……そんなところ似なくていいのに」
『だって。パパがパパだし。ママもママだもの』
 クスクスクス、と小さな笑いが響く。

「じゃあ、一緒に守ろう」
『うん。一緒に守ろう』


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「っ…!?」
 出発の朝。
 ニコルによる最後の定期検診があった。
 採取されてきた異様な血液に、咄嗟に動きが止まってしまう。
「ああ〜…。そっか、だからみんなにやたらと顔色悪い顔色悪いって言われてたんだ」
 だが、当のキラはけろっとしている。
 昨晩自分の脈がないことまで思い知らされたのに、今更血が白いくらいでは動揺していられない。
 血の色が白いのなら、どんなに健康でも顔色は悪く見えてしまう。
「………」
「ってことは、別に僕貧血とかじゃないよね?」
「…は……、はい…多分………」

 ……女は強し。母は更に強し。
 ニコルの脳裏にそんな言葉が飛来した。


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「…そっか…。カズイ、オーブに戻ることにしたんだ」
「うん。平和大使も降りるって。…責めないでやってくれよ、キラ」
「わかってる。…こんなことに巻き込んじゃって…僕の方が…」
 少し淋しげに俯くキラの肩に、ぽんとサイの手が乗せられる。
「…出る前に、会える?」
「………」
「合わせる顔がないみたいよ。カズイの方は」
 こちらは少々呆れたようなミリアリアの声。
「逃げ出すみたいで怒られるのが怖い、ですって。まったく、ペソペソしちゃって男らしくないんだから」
「…今はちょっと、会わないほうがいいかもな。カズイのほうが、多分引き摺る。あいつはあいつで、色々考え込んで落ち込んでるから」
「………。わかった。…それじゃ、伝言、頼んでいい?」
「ああ」
「いいわよ。何?」
「全部終わって、戦争も終わって、オーブに帰れたら…その時は、また一緒に遊ぼうって」

 色々あったけれど、カズイだって大事な友達に変わりはない。それに、元々優しくて臆病な気質だったのに、こんなところまで引っ張り 出して、巻き込んでしまった。そのことは、本当に申し訳ないと思っている。
 ヘリオポリスを襲撃され、やむなくアークエンジェルに乗り込みはしたものの、平穏を切望する彼は戦争などに巻き込まれることに 恐怖し、本当はずっとずっと戦艦を降りたがっていた。それをここまでズルズルと巻き込んでしまったのは、自分だ。
 だから、今度こそカズイが平穏な毎日を取り戻せる今、ちゃんとそのことを謝っておきたかったのだが。

 そのことさえもまた彼の負担になるというのなら、せめてこの気持ちだけでも。

「…わかった。お前も気をつけてな」
「サイ達こそ…地球軍本部なんて、敵の本拠地みたいなところなのに…」
「ほんのちょっと前までは、味方の総本山だったはずなのにね」
 クスクス笑うミリアリアに、そういえばそうだな、と苦笑するサイ。
「なんにせよ、キラを戦争の道具になんか、絶対にさせないから」
「うん。僕も、みんなを守る」
 まっすぐに絡み合う視線。

 平和を望む、同志として。そして、かけがえのない親友として。
 思いやり、労わり、心配して、そして信頼もしている。
 過剰な言葉はいらない。ただその視線だけが、すべてを語っているから。

「キラ!」
 そこへ、フレイが駆けてくる。この後すぐにオーブへ向かうためか、しっかり身だしなみを整え、メイクまで済ませているようだ。
 だがそのメイクにも、変化が見て取れる。いかに自分を美しく見せるかを追求した、けれど厚化粧になるような下品なものではない、 イマドキの女の子なメイクだったのが、社会人の身だしなみといった様子のナチュラルメイクになっている。きつく自己主張の強い甘い 香りを好んでいたフレグランスも、上品で落ち着きのあるフレーバーに変わっていた。
 美しい赤色の髪、そして元々産まれ持った美しい顔立ち。これだけでも充分に人目をひくことを普段から自覚していたからこそ、 こうやってすぐにメイクを切り変えることもできるのだろう。
 たったそれだけの、けれど大きな変化。平和大使の制服が、やっとぴったりと彼女に似合うようになった。今までは、きちっとした 印象を抱かせる服と、本人の華やかなイメージとがうまくかみ合わず、少し浮いてしまっていた。
 こういうのを、板に付いてきた、というのだろうか。
「フレイ…」
 迷いなく駆け寄るフレイに、軽く腕を開く。そのまま彼女は、その腕の中に収まった。
 キラの負担にはならないように、でもしっかりと、抱き締めてくる。
「待ってて。私が必ず、あなたを守るわ。私の想いで…あなたを守ってみせるから」
「…うん…ありがとう」

 今ならこんなに素直に、キラを守ると断言できる。とても晴れやかな気持ちで。
 今ならこんなに素直に、フレイの気持ちを受け入れられる。嬉しささえ自然とこみ上げるくらいに。

 二人の関係は、もう偽りの感情で結ばれたものではない。心からの、素直な愛情。



「…フレイ。もう行かなきゃ」
 そっとサイの声が急かす。自分達の出発が遅れれば、その分この後始まる戦闘に巻き込まれる確率が高くなってしまう。オーブの国旗を 出して中立のアピールはしても、キラを何としてでも手に入れようとする連中相手にどこまで効果があるか。
 バルトフェルド達迎撃チームを煩わせないためにも、キラを安心させるためにも、出発は早ければ早いほうがいいのだ。
「…それじゃ…キラ」
「うん。気をつけてね、フレイ。サイ、ミリィも」
 頷いて、サイやミリアリアも一緒に、微笑み合って。
 名残惜しい気持ちを叱咤して、背中を向ける。
 時間が許す限りはと、見送るキラ。

「キラ」
 しかし、不意にフレイが振り返った。えっ、ときょとんとした顔を無防備に返してしまうと、彼女は少し悔しそうに微笑んだ。
「……………あの人と…もう、ケンカしちゃだめよ」
「…フレイ………」
 思わず熱いものがこみ上げる。父を殺した仇だと、あんなに自分に怒り、アスランを嫌っていたのに。
 滲む視界の中で、彼女はどこかすっきりしたように晴れやかに微笑む。そして今度こそ、その背中は振り返らなかった。
 とても清々しく、ぴんと背中を伸ばして歩く彼女を、サイとミリアリアも笑顔で受け入れて。何やら話しながら角を曲がり階段を降りて いく三人。その姿が見えなくなっても、キラはしばらくそこから動くことができなかった。




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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
随分長いことお待たせしてしまいました。申し訳ありません!!

ものすごく久しぶりにフレイを書いたらなんだか目頭が熱くなってしまいました。
言っても詮無いことではありますが、やっぱりフレイとキラは生きて再会してほしかった…。
よりが戻るかどうかとか、そういうのは置いといて。
生きて、言葉を交わしてほしかったな…と。