fate
(3)
「…失明? …キラが?」
部屋を出たところで、キサカからそれを聞かされるカガリ。
「…嘘だろ…? …そうだ、あいつコーディネイターなんだから、何か特別な治療法があるかもしれない」
「あったとしても、本国では手に負えない。アルヴァニスタに行けば、まだ何かあるかもしれんが」
「じゃああたしが連れて行く!!」
アルヴァニスタとは、オーブの所有する医療技術研究用プラントである。確かにそこでなら、治療は可能かもしれないが。
「カガリ。今の彼はまだ地球軍の少尉だ。わかっているだろう。本来なら軍属の人間はオーブに入国できない決まりだ」
「っ………」
基本的には、軍属の人間が中立国に入ることはできない。
ザフトであろうと、地球軍であろうと。
「それに、治療を受けるかどうかも、彼の意思がなければ我々で決めることはできない。…違うか」
「そんな! 治したくないやつなんかいないだろう!?」
「………………目が見えなければ、ストライクにも乗れない」
硬いキサカの声に、はっと顔を上げる。
「彼は、解放される。…もしそれを望むなら、治療は放棄するだろう」
「……………」
確かに…視力と引き換えに、自由を再び手に入れる事はできるのだ。
しかし、その代わりに、今まで必死に守り続けてきた者達と決別する事になる。
不自由な自由か。…自由な、不自由か。
再びカガリがルームコールをかけた時には、最初にアスランを送り出してから二十五分近く経っていた。
「入るぞ」
そう言い置いて入室すると、どうやら二人共落ちついたようで、ベッドに座ってお互いの肩にもたれ合っていた。瞳を閉じて。
ひとつ溜息を落とし、椅子に座る。
「…決着はついたのか」
静かに尋ねると、そっとアスランがこちらを見た。
「………つかないさ…決着なんて」
また一つ溜息をつき、さっきから連続で溜息をついている事にふと気付くカガリ。
「……とりあえず!!」
二人を、というよりも、自分を奮起させるように机の上に置いておいた食事のトレイを一つ取り、アスランの膝の上に置く。
「食事だ! とにかく食べないと、怪我も治らないし、考えるエネルギーも出ないだろ?」
腰に手を当てて熱弁するカガリに小さく笑ってしまうアスラン。その隣で、キラもふっと笑った。
「…カガリらしいや」
ぼつりと言って、見えない瞳を開く。
…澄んでいたアメジストの瞳は、少しくすんで見えた。
痛々しい目を間近に向けるのを躊躇って、カガリは反射的に視線を逸らした。その動きをごまかすように、残る二つのトレイから一つを
自分の膝に乗せ、蓋を取る。
ほぼ同時に、アスランも蓋を取った。
「…え!? なんだこれ……」
「……」
目を丸くするカガリと、同じ理由で絶句するアスラン。
しかしアスランは、すぐにぷっと吹き出した。
「そりゃそうか…怪我人向けメニューになってるわけだ」
「なになに?」
顔を動かさずに尋ね、くん、と匂いをかいでみるキラ。
「オートミールだよ」
「うぇっ、オートミール〜!? なんでそれが怪我人メニューなんだよ」
「スプーンだけで食べれるからだろ。俺だって今フォークとナイフ出されたら困る」
「…アスラン…腕、そんなに酷いの?」
「…まあ、フォーク持つだけなら、ちょっと痛いくらいかな。使うのは辛い」
「………」
押し黙ったキラに、カガリはそれを尋ねようかどうか迷ったが、しかし。
「…キラ。…目。全然、見えないのか」
確認をしてみる。
小さく目を伏せるアスランと、苦笑するキラ。
「…何て言うか…明かりのない、真っ暗な部屋にいるみたいな感覚なんだ。だから、注意して集中したら、影が濃いか薄いかで…
なんとなく、そこに何かあるっていうのはわかるんだけど…」
『それ』が何かを判別する事はできない。
「……そうか」
静かに答えて、トレイの中にあったスプーンでオートミールをすくう。
キラに近付き、食べさせてやろうと思ったのだが。
「キラ。口開けて」
「って、おいコラ! そういうのはあたしの役目だぞ!」
さっさとアスランが彼の鼻先にオートミールを運んでいて、ムッとしてしまう。
「いいんだよ。昔からキラの世話は俺の役目なんだから」
「そういう問題じゃないだろ? ほら、キラ!」
ずいっとアスランの反対、キラの左側へ座り、対抗するようにオートミールのスプーンを差し出す。
だが、その気配に気付いたキラは後ろへ逃げた。
「いっ、いいよ僕は。二人とも先に食べなよ」
「遠慮するな! 大体お前、普段から食が細すぎるぞ。こんな時くらいちゃんと食べろ!」
「そんな事言われても…」
「ひょっとしてキラ…まだオートミール嫌いなのか?」
「何? 好き嫌いか!?」
「ちょっ、アスラン!」
「あのなあ! 子供じゃあるまいし、わがまま言うな!」
「そんな事言ったってっっ」
「ここはカガリが正しい」
「アスラン!」
「ほら、口開けて!」
「観念しろキラ」
「え!? え!? え!?」
ずいずいと二つのスプーンが近付く気配に、後ろへ後ろへ逃げて。
ぱたり、と仰向けに寝転がってしまう。
壁に頭をぶつけるんじゃないかと、首をひっこめながら。
「………」
「………」
ぷっ、と。
誰からともなく笑い出した。
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
本編では「ザフトの軍人では連れて行けない」って言い方でしたけど、
中立っていうからにはザフトだけじゃなくて地球軍だってダメだよねぇ…と思い、
勝手に立入禁止にしちゃいました。
…本編ではしょっちゅう地球軍の人出入りしてた気がするので、
あんまり関係ないような気もするんですけどね…。
それとも表向きはダメだけどAAやGシリーズの事があるから特別に出入りできたのか…??
でもオーブに入港した後、表向きには「きてまっせ〜ん」って発表してたから
やっぱりダメな気がする。
…ビデオ残しときゃ良かったよ…ただでさえハマるの遅くて後悔する事しきりなのに…。
………ちなみにオートミールは海原が大変苦手としている物です。(クッキーとかなら平気)