++「fate」(7)++

fate

(7)







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 降り注ぐ弾光。
 行き交うミサイル。
 爆発、爆発、爆発。


「メインゲートを落としたぞ!! 中で隠れている連中を叩く!! 続け!!」
 意気込むイザークの声。颯爽と侵入してゆく、デュエルに、周囲のジンが従うように続く。
 戦局は、地球軍が圧倒的劣勢である事は明白。



「ふん、ここまでやれば、特務部隊の出番はないかもしれんな」
 隊長クラスの男が、そう呟きながら信号弾を放つ。
 紅い戦神を呼ぶために。

 だが、そこに誘われてきたのは、六枚の羽根を持つ堕天使だった。既に薄い灰空色の種は弾けて、その能力を思いのままに発露させてゆく。
「!? あ、あれは……」
 男の乗るMSが握っていた突撃機銃をビームソードで払い落として、そのまま信じられないスピードで戦場へ突っ込む。
「なっ、バカな!! 何をする気だ!! サイクロプスに巻きこまれるぞ!!」
 男の言葉が通信回線から聞こえているのかいないのか、堕天使はその翼を広げて、地球連合・ザフト両軍の機体から、戦闘能力だけを 殺ぎ落として行く。
「うわっ!?」
「な、なんだあれは!!」
「クソッ、見境なしか!? 冗談じゃない!」
「一体どっちの機体だ!」
 困惑する両者。

「――――――――双方退きなさい。この戦いは茶番です」

 凛として響いた声は、女性のものだった。


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 本部内部へ侵入したイザークは破壊活動を行いながらも困惑してた。
「何だ…!? もぬけのカラだぞ…!!」
 苛立ち、舌打ちをして、更に奥へと侵入してゆく。

 ピピッと計器が反応する。
「!! 何っ!?」
 そこに現れた『GAT−X103 BUSTER』のシグナル。そして、目の前の床から超高インパルスライフルのエネルギーが縦に放射された。
「!?」
 そして通信が繋がる。
「イザーク!? イザークか!?」
「…ディアッカ!! お前っ、どういうことだこれは!?」
「それはこっちのセリフだバカ野郎! 何やってんだこんなとこで!!」
「なっ、なんだとぉっ!?」
 言い合っている内に、ぽっかりと開けられた穴の下からバスターが現れる。
「散開しろ!!」
「何!?」
「死にたいのか!! 早く!!」
 一瞬遅れてばっと散らばるジン。そして。
『―――――アークエンジェル起動!!』
『ローエングリン一番、出力50%! 撃てぇっ!!!』
「なっっ、足付きだと!?」
 奥から突然現れた識別信号とエネルギー反応。そして、ついさっきまで自分達が集合していた場所を、陽電子破壊砲のエネルギーが 一直線に伸びてゆく。まるで、……退路を確保するように。
『機関全速! 周囲の全戦闘機を誘導しつつ、離脱する!!』
『艦尾ミサイル発射管にアンチビーム爆雷装填。ヘルダート、イーゲルシュテルン起動! 当てるなよ! うまく追いたてろ!』
『軍籍その他のデータ書き換え、確認しました。予定通りです!』
「……足付きィィィっ!!!」
 一瞬呆気にとられたものの、一目散にその退路から逃げてゆこうとするAAに攻撃を仕掛けようとするデュエルだが。
「やめろイザーク!」
「なっ」
 その前にバスターが立ち塞がった。
「周囲のザフト軍に伝えます」
 イザークがディアッカを責める前に、マリューの声が響く。
「こちらは、オーブ軍所属艦アークエンジェル。この基地周辺はあと十数分でサイクロプスシステムの餌食になります。直ちに離脱しなさい。 本艦が誘導します」
『イーゲルシュテルン追尾プログラム、ヴェルトール・アルバ回線に直結確認!』
『基地外部のデータ、同じくヴェルトール・シグマから到着!』
『フリーダムとジャスティスの位置は!』
『予定通りです!』
『フラガ少、いえ、三佐より入電、AAの進路前方に輸送機2機が発進待機中、回収されたし』
『了解したと返信して。受け入れ用意!』
「聞こえただろイザーク。やりあってる場合じゃない! 早く離脱するんだ!!」
 言いながらバスターもAAを護衛するかのように続く。
「………ふ……ざけるな!! 貴様! 裏切ったか!!!」
「バカ野郎!! 裏切られたのはこの場に居るオレ達全員だ!! 地球軍もザフトも、オレ達を捨て駒にしやがったんだよ!!」
「なっ……バカな!」
「疑うんならその穴の下見てみろ!! できるだけブッ壊してやったけど、サイクロプスの威力はまだ半分近く残ってる!」
 デュエルが振り返るより早く、確認と興味本位で浅く潜っていたジンが血相を変えて戻ってくる。
「か、確認しました! サイクロプスです!!」
「な……っ」
「何をしている!! 我に続け!!」
「イザーク来い!! 無駄死にする気か!!」
「……………くそおぉっ!!」
 混乱する頭。だけど、一つだけわかっている。
 このままここにいれば、数分後には確実に、死ぬ。


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「サイクロプス……あの悪魔の兵器を、上層部は核の代わりにしようというのか……!?」
「そうだ。そしてそれを、ザフトも知っていて止めようとしない! そんな戦いが茶番でなくて何だ!!」
 呆然とする地球軍の声を聞きながら、紅い戦神は次々と無人攻撃機を破壊してゆく。
「さっさと離脱しろ!!」
 呆けている通信回線の相手を叱咤して、身を翻す。
 種が弾けて澄み切った翠色の瞳が、モニター越しにアラスカ基地の全景を見渡した。
 地球軍の兵士達に密かに行った情報操作が功を奏しているのか、アスラン達の全方位通信による呼びかけに反応して、地球軍の兵士達は ほぼ疑いなく逃げ出してゆく。むしろ意気込んで攻めているザフト兵のほうが戦い続けようとしているが、そちらへの情報操作も抜かり ない。そろそろ全軍に撤退命令が通達されるはずだ。
「キラ、どのくらい残っている」
『殆どの人はフラガ三佐が誘導してくれたけど、まだ第十七ゲートに五人取り残されてる。瓦礫で閉じ込められて、動けないみたいだ』
「く…少し遠いな」
『アスラン、シグマに照準をリンクさせて。こっちでやるよ。瓦礫さえどうにかすれば、射出式脱出ユニットがある』
「わかった」
『アークエンジェル! ジャスティスの荷物、受け取って下さい!』
『了解』
 キラの言葉が終わらない内に指示通りに設定し、ロックオンを確認してビーム砲から一閃。中に居る人々を傷つけることなく瓦礫を 粉々にしてしまう。
「早く脱出ユニットへ!」
 放送回線を乗っ取ったキラの声が、第十七ゲートに響いた。
 射出された脱出ユニットをジャスティスが受け止めたところで、その近くに空いた大穴からAAが姿を現した。
 開かれたカタパルトへユニットを放り込むジャスティス。同時に、バスターとデュエルの姿を確認する。
「イザーク! 無事だったな!」
「アスラン、貴様もか! なんだその機体は!!」
「話は後だ。キラ、フリーダムは」
『フリーダムの方はもう大丈夫。だから急いで』
「わかってる」



 蜘蛛の子を散らすように、MSが、MAが、戦艦が、アラスカ基地を放棄して去って行く。



 そして。
 巨大な電子レンジは、中身がカラのままスイッチを入れられた。




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 サイクロプスを起動させ、滞りなく作戦は成功したと思っていたサザーランド大佐の元に、音声回線で作戦失敗を伝えたのは、カガリだった。
「ザフトの戦力の八割、そして大西洋連合にとって都合の悪い部隊を一掃できたと喜んでいたんだろうが、残念ながら被害は最初に 戦い合った時の戦死者だけだ」
「な……っ」
「当然、お前達が密かに基地に拘束していた地球連合軍諜報部内部調査員達も無事だ。我々が救出した」
「!!」
 ぎくっ、とサザーランドの顔色が変わった。その場にいる、何人かの他の将校達も、動揺を隠しきれない。
「…サ、サザーランド大佐? どういう事かね、基地に拘束していた諜報部とは」
 共にサイクロプスを起動させた男が、サザーランドに怪訝な視線を送る。
 だがサザーランドはいやな冷や汗を一筋たらしただけで、口を開かない。
 そこへ、カガリがとどめを刺す。
「…言えないだろうな。大西洋連邦からブルーコスモスにあらゆる情報と物資が供給されていた、その事実が内部告発によって露見しよう としていたから、アズラエルと共謀して、基地に閉じ込めてサイクロプスで殺す気だった…なんて事は」
「なっ、なに!?」
 ざわっ、と一同が激しく反応する。
「言ってみれば仲間割れか。ま、確かにみっともい話だからな。仲間内にも隠しておきたかったんだろ」
 ブルーコスモスと大西洋連合とは、公的には関係はないことになっている。盟主のアズラエルを産業理事に迎えてはいるものの、それは それ、これはこれだと言い張ってきたのだ。
 だが、現実にはそうではなかったことが、公にされようとしている。…よりによってこんな形で。
「…な、なぜ…オーブの娘が、そんなことを」
「シィッ!」
「…フ、フン、偽善国の小娘が…一体何を証拠に」
「証拠も証人もこちらの手の中にある。すぐに欲しいというのなら、この場で読み上げてやるが、いいのか?」
「っ………」
「…話し合いをしようじゃないか。終戦と、プラントとの和平協定締結にむけて」
 主導権はもはや、カガリにある。
 サザーランドはぎりっと奥歯を噛み締めた。


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 そして混乱しているのは地球軍だけではなかった。
 当然プラントでも、サイクロプス起動の報に上を下への混乱の渦中。しかも、スピットブレイクの攻撃目標が現議長パトリック・ザラの 独断によってパナマからアラスカへ変更されていた事もあって、情報は錯綜していた。
「とにかく確認を取れ!! アラスカが壊滅したのは間違いないんだな!」
「は!」
「降下部隊はどうしている!! クルーゼとの連絡は!」
「そ、それがまだ…」
「では特務部隊は!! ジャスティスのパイロットが何者かをフリーダムに乗せているだろう! 身元は割れたのか!」
「いえ、それが、警備カメラ等のあらゆる情報がカットされておりまして」
「そんなバカな!」
 唸ったところに、シュンッと扉が開く。
「ザッ、ザラ議長閣下!」
「どうした! 情報か!?」
「そ、それが……」
「……何だ! 報告ははっきり行え!!」
「失礼致します」
 飛びこんで来た兵士の背後から自信に満ちた声が響き、数名の男達がザッと入室してくる。
 中に居たザフト軍情報部員や議会関係者らは、その迫力に気後れし、あとずさった。それに道を開けられるような形で、彼らはデスクを 挟んでパトリックと向かい合う。
 パトリックはその筆頭に立つ少年の姿に、眉を顰めた。
「…それは何の冗談だ」
 じろりと視線を上下に走らせる。
 彼が纏っているのはザフトのエリートの証である赤ではなく、白。無論、地球軍の将校のものではなく、それはオーブ軍の制服だった。
「冗談ではありません。私はスピットブレイク発動時間直前にザフトから除隊すると共に、オーブ国籍を取得。現在、オーブ自衛軍特佐 として、戦争終結運動を行っております。『ザラ議長』。後ろの者達も同様に移籍しました」
「そんな事を聞いているのではない!! 何の真似だ! アスラン!!」
 激昂してバンと机を叩く。
 だが、彼はもうそんな事では動じない。
「…貴方を、告発する為に参りました」
 ぴくり、とパトリックの片眉が上がる。
「プラント最高評議会での承認なく、独断でオペレーション・スピットブレイクの攻撃目標を変更した事。変更先のアラスカ基地の地下に サイクロプスが仕掛けられている事を知りながら、スピットブレイク参加者にはそれを伏せた事。ニュートロンジャマーキャンセラー開発 に関係した癒着、汚職、賄賂。そして…貴方が今期の議長へ選任される為に行われたあらゆる裏工作について、告発致します」
「馬鹿な! 気でも違ったか!!」
 斜め後ろに控えていた青年から書類を受け取り、無造作にデスクへ落とす。
「っ………」
 紙の書類が広げられれば、その内容は嫌でも目に付く。
「驚かれましたか。抹消したはずの記録がこうして残っている事に」
「……お前…………」
「勿論これはごく一部です。同じ物を、今議会へ提出しました。貴方の議長職解任と糾弾は、免れないものとお覚悟下さい」
「……………裏切ったか…レノアの事も忘れたのか、お前は…!!」
 もはや憎しみに近い程の怒りの視線。
 だが、アスランは冷静に首を横に振った。
「忘れてなどいません。勿論、『血のバレンタイン』を起こした連中にも、相応の報復が為されている頃です。しかし、貴方は忘れて います」
「何?」
「我々の本来の望みはナチュラルを滅ぼすことではなく、不当な迫害を受ける事なく、人間らしく幸せに生活できる権利を得ることだった はずです。戦うことだけに囚われた人々が、それを捻じ曲げてしまった。憎しみの連鎖に囚われたままでは、それを手にすることは 出来ません。私は、戦いの中でそれを学びました」
「…オーブに毒されたか」
「それを仰るなら、貴方は権力と金に毒されたようですね」
「っ、私を侮辱する気か!」
「その答えはその『証拠』にすべて記されています」
 ぐっ、と詰まってしまうパトリック。
「……後日、地球軍代表者とプラント最高議会との和平会談のご案内をさせて頂きます。その頃には、既に議長職を追われているものと 思いますが、一応それまでは貴方がプラントの代表ですから」
「………!!」
 すっ、と踵を返してゆくアスラン。だが、扉の手前でふと足を止め振り返った。
「ああ、それから。グングニールの標的をオーブに変えようとされても無駄ですよ。グングニールは、既に機能停止しています」
「!? お前、何故グングニールのことを………」
 言葉は途中で途切れる。
 …これだけの証拠を集めることができるのなら、秘密兵器グングニールの事など、筒抜けのはずだ。
 一体、どこから、どうやって。
 今度こそ去って行くアスランに、パトリックは声をかける事ができなかった。






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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
…えー…あと二回くらいで終わる〜とか言ってましたが、ごめんなさい。
まだもうちょっとかかりそうです。もう二回か三回くらい…かな。
だらだら長い。海原の悪い癖。つかわかってんならどうにかしろ。
…仰る通りです。ごめんなさい。
とりあえずもう完全に大団円の方向です。悪役になったのはサザーランド&大西洋連邦とザラパパだけかも。
クルーゼもいい人の仲間入りするかも…???
後半はイメージソングが全然合わなくなっちゃったな…。
え、それに戦闘シーンに緊迫感がない?
…はは。下手の横好きってヤツですよ…。ほんとはこういうのめっちゃ好きなんで、
MS戦シーンとかガンガン出てくるようなのも書きたいんですけどね。


2003/08/27ちょっと補足説明。
ナタルさんの「てぇーっ!!」という掛け声、小説中では「撃てぇっ!!!」と表現していますが、
これは字面的に「てぇーっ!!」だとちょっとイマイチだな…と思ったからこう表現しただけで、
掛け声が「うてーっ!」に変わっているというわけではありません。
声はTV本編のままご想像下さい。