++「fate」(10)++

fate

(10)







line




 …話を戻そう。

 両陣営のシナリオを知ったキラは、急遽アラスカにいるAAに連絡を取り、ここで起こる筋書きの全てをマリュー達に話した。
 そして、彼らは決意する。
 その筋書きに逆らうことを。

 キラ=ヴェルトールを経由してオーブと連絡を取ったAAは、カガリの推進する戦争終結運動に協力を約束。サイクロプス作戦の裏を かくために、表向きは地球軍守備隊としてアラスカに潜伏した。
 バスターのパイロットが捕虜として拘束されており、バスターも回収されていると知ったキラは、マードックにバスターの修理を依頼し、 ディアッカとも話をした。
 そこで地球軍とザフトの思惑を知ったディアッカは、オーブにというよりも、キラへの協力を約束する。

「ザフトはサイクロプスを知っていて、そこでわざと罠にかかって戦力を落とされたと見せかけ、油断しているパナマにグングニールを 撃ち込むつもりだったんだ」
「…突入したオレ達がやられるのも知った上で、か…」
 苦々しく顔を歪ませるイザークに、アスランは複雑な視線を向ける。
「…俺は特務部隊に転属され、ジャスティスでサイクロプス影響範囲外から遠隔攻撃を行うはずだった。それが、父の計画だった」
「えっ? そんな計画があったの?」
 顔を上げたのはマリュー。
「ええ。そして、悲劇を目の当たりにした俺が残存部隊を率いてパナマへ向かう…というシナリオだったようです」
「…そうだったの…」
「けどさー、びびったぜ。あのプラントの歌姫がMSに乗るなんて聞いた日には」
「そうですわね」
 にっこりと微笑むラクス。
 プラント穏健派シーゲルは、密かにオーブと連絡を重ね、戦争終結運動に協力していたのだ。
 当然、その娘であるラクスも。
 ただ、カガリとラクスが直接顔を合わせたことはなかったのだが。
「最初はキラをフリーダムに乗せるつもりだったんだろ? ラクス」
「ええ。…以前のわたくしが乗れば、きっとフリーダムは鬼神と化していたでしょうから」
 美しい声で語られる言葉は、穏やかな表情と釣り合わない内容。
「『SEEDを持つもの』として、戦いの鍵を握る存在である事は自覚しておりました。けれど、わたくし自身が戦場に出れば、おそらく 戦いを生み出すすべてのものを破壊し尽くしてしまうまで、止まる事はできなかったと思いますわ」
「…物騒な歌姫だな」
 小さくこぼしたナタルの感想に、ラクスはふふっと笑う。
「わたくしは…戦いを憂う余り、どこかで…総てが終わればいいと願い望んでいました。ナチュラルもコーディネイターも、争いを生み 出すものでしかないのなら、なくなってしまえばいいと…。でも、キラがわたくしにその心を託して下さったから、だから…。 剣を取る勇気を下さったこと、感謝しています。キラ」
「ラクス…! 僕の方こそ、君まで巻き込む事になってしまって…僕の方が謝らなくちゃいけないのに」
「で、さ。結局、その『SEEDを持つもの』ってのは何なんだ?」
 フラガの問いに、ラクスはくすっと微笑み、人差し指を唇に添えた。
「それは秘密ですわ」
 ん、と片眉を吊り上げるフラガに、クスクスと笑うラクス。
「今度マルキオ導師が来られる時に聞いたらいい」
 隣のカガリからフォローが入って、やれやれと溜息をついた。

 一通りの話題が一段落ついたところで、料理が冷めきってしまうとのカリィの苦情から、やっと一同は料理に手を伸ばす。
 いつもならカリィが行っているキラの食事の手助けも、今日はアスランの仕事で。

「………よかったわね」
 優しいアスランの瞳にマリューが零し、隣でイザークが複雑に視線を落とした。


line


 次の予定が迫っているカガリとラクスが、最初にヴェルトールを発つ。そのシャトルで、ディアッカも戻ると言い出した。
「お前から預ったメッセージ、早くミリィに見せてやりたいからな」
 キラの作ったメッセージディスクをポケットにしまって、ニッと微笑む。
「…ディアッカ、本当にいろいろありがとう」
「え? 何だよ、改まって」
「僕は…ニコルさんを、殺してるのに…」
「あー、ストップ。それは散々聞いたからもう言うなって。カガリの親父さんの言う、『憎しみの連鎖』ってやつ、やっと絶ち切って いけそうなとこだろ? …終わったんだよ、もう。ニコルだってちゃんとわかってるさ。きっとな」
「…」
 キラとアスランの後ろで意外そうに目を見開くイザーク。
 それに気付き、ウィンクなど返して。
「じゃあな」
 シンプルに別れを告げて、カガリとラクスの待つシャトルへ。

「…少し変わったな。ディアッカ」
 小さく呟くアスラン。

「………あなたは?」
 キラは手元のカメラを操作しながら、イザークを振り返る。
「イザークさんは、僕を…赦してくれますか」
「………」
 イザークは一つ溜息をつくと、カメラに自分の顔を向ける。
「わかるだろう。この傷は、お前にくらわされた傷だ」
「…」
「それ以来オレはストライクを、お前を倒すことを目標にして戦ってきた」
「イザーク」
 止めようとするアスランを手で制して、キラはイザークの言葉に耳を傾ける。
「そして、ニコルはお前に殺された」
「………はい」
「お前を赦すつもりなど、ない」
 はっきり告げられた言葉に、しん、となってしまう。

「………だが」
 やがて穏やかに続けられた言葉に、はっとして顔を上げる。
「………………お前を憎む気持ちも…今は…ない」
 その表情は穏やかというよりも、どこか覇気がなくて。
「イザーク…お前……」
「ニコルを殺したストライクはアスランが討った。パイロットのお前は盲目になって、それでも終戦にこじつけた。ディアッカもそれに 協力して、……取り残されてるのはオレだけだ」
「…」
「自分の気持ちに決着をつけたくて、お前に会いに来た。…正直、まだよくわからない。だが、今日来て良かったとは思ってる」
「イザークさん…」
 ふっと一つ息を吐き出して、くるっと踵を返す。
「…次に会うときは呼び捨てでいい。キラ」

 不器用なイザークに、アスランは苦笑してしまう。
 キラは彼の背中に、小さくありがとうと返した。


line


「なんでお前までこっちのシャトルに乗るんだよ!」
「私は一旦ウズミ氏の元に戻らなければならない。方向は一緒だと思うが?」
「…おい、一つだけ言っとくぞ。マリューには手を出すな」
 大真面目な顔でそう言う双子の兄に、クルーゼは思わずふっと笑ってしまう。
「わかったわかった」
 クックッと笑いながら歩いて行く。

 平和にクサナギまで戻れそうにはないな、と、フラガは小さく口の端を引き攣らせてしまった。

「………それじゃあ、ナチュラルへの偏見は、薄れたということかしら?」
「さあな。相手次第だ。…あんたは認めてやってもいい。艦長」
「あら、それは有り難う、イザーク君」
「……」
 その呼び方だけは承服できんとばかりにじろっと見るが、マリューはにっこり微笑んでいる。
 毒気を削がれて、ふんと視線を逸らす。
「ナタル。あなたも…コーディネイターだからってむやみに敵意を向ける事は、なくなったわね。少し前なら信じられないけど」
「………。ヤマトしょ………いえ、彼にあれだけの裏を見せられれば、価値観を改めざるをえませんから」
 まだいまいち感情はついていかないが、という様子で告げるナタル。

 そこに、フラガとクルーゼが合流して。



 集まった人々は帰路についてゆく。






BACKNEXT
RETURNRETURN TO SEED TOP


UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
…ヘタレイザークですみません…。
この話では彼、中途半端においてけぼり食わされた形になるので、なんかこんな事に…。
ええと、話変わりまして、予告です。
今度こそ、次回で最終回となります。