+-「Promise in Spiral」2−1-+

Promise in Spiral
種族融合計画
(1)








 中央に立体スクリーンを配置した、小会議室のような部屋だった。立体スクリーンを囲んで円状に座席が配置されている。
 全員の入室を確認すると、ラクスは扉に入念にロックをかけ、室内のモニターをカット。
「随分厳重なんだな」
「ええ。これからお話することには、軍上層部にも伏せてある情報局トリプルAクラスのシークレット・データも含まれていますから」
「え…っ」
「但し、あくまでも話の主役はキラだけどな」
 あっさりとラクスが放った爆弾発言に驚く一同にクギをさしてから、ぽんとキラの肩を叩き、部屋の一番奥のシートを座りやすいように 回転させてやるミゲル。
「…ありがとうございます」
 律儀に礼を返してから座る。ミゲルはその隣に、アスランは反対側の隣に、ラクスはキラの正面、部屋の一番手前の席に。
 残る四人は、ミゲルの隣に座ったラスティの隣にニコルが、アスランの隣に座ったディアッカの手前にイザークが座った。
「…何からお話致しましょうか」
「…うん…。では、僕がストライクの中で『死んで』からの、歴史を」
「わかりましたわ」
 カチカチッ、と手元の入力デバイスを操作するラクス。それはシートの肘置きの先端部にあり、卵を縦に半分にして寝かせたような 独特な形で、縦にキーが配置されたもの。
 ヴン、と立体映像で巨大な装置が投影された。
「これが友軍の惑星破壊砲です」
「!!」
 はっ、とキラの顔色が変わった。
「今から百十二年前、…あなたが一度生命活動を停止させてから、わずか十年後のことです。コーディネイターもナチュラルも、実用に 踏み切りました。現在、友軍に三基、敵軍に三基、合計六基の惑星破壊砲が存在しています。既に十二もの惑星がこれの使用によって消滅。 そして、恒星破壊砲によって三つの星系がこの宇宙から消えました」
「………っそんな…」
「十二の惑星の中には、敵・ナチュラルの母星が、三つの星系の中には、わたくし達コーディネイターの母星のあった、 第一星系が含まれています」
「…!!」
 大きく見開かれた瞳からは、驚愕と、絶望が、ありありと示されている。
「そ………んな……………」
「わたくし達は…コーディネイターとナチュラルは、確実に滅亡への道を走り始めています。次の戦いが、恐らく最後の戦いになるでしょう」
「……最後の…戦い……」
「おい、ちょっと待て!!」
 呆然と呟くニコルの憂いを振り切るようにイザークが立ち上がり、ラクスへと身を乗り出す。
「まだ最後と決まったわけじゃない! この戦いに勝つことができれば、まだ望みはある!!」
「この戦いに勝者は存在しません」
「っ…」
 しかし、まるで裁きの女神が裁断を下すかのように、ラクスははっきりと宣言した。
「…この戦いに、勝者など存在しないのです。両者が宇宙から消え去るまで続く…」
「…お…おい、ちょっと待てよラクス」
「確かに危険な情勢ではあるが、なにもそこまで…」
「お前ら、俺達の任務は何だ」
 戸惑い、イザークに助勢するディアッカとアスランだが、その言葉をミゲルが遮った。
「…第九星系に存在する知的生命体を総統母艦から隠匿すること、それから…その知的生命体を生み出したと思われる、ミッション21の 解明。だろ? 何だよ今更。しかもめっちゃ論点ズレてるじゃん」
 ムスッとしながら答えるラスティに、ふっと微笑むミゲル。先生のように続ける。
「ミッション21とは、つまり?」
「だから! 種族融合計画!! 何なんだよさっきから回りくどいな」
「この戦争に勝敗のつく希望があるなら、なんでそんな計画が出た? しかも、百年以上も前に」
「考えたくないことだが、我々コーディネイター側が敗者となった時のためだろう」
「ならなんでスターシード計画が実行されなかった? コーディネイターという種の保存なら、こっちのほうが確実だよな。イザーク」
「…それは…」
 確かに、コーディネイターという種を次世代、次次世代以降へ受け継ぐために人工的に保存するのが目的なら、わざわざ敵である ナチュラルとの融合などする必要はない。

 スターシード計画。
 彼らコーディネイターのDNAと、初期構成に必要な各成分とを種状にセットにして、保護カプセルに包み、宇宙へ放つという計画が あった。
 それは確かに、今後の戦局如何によってはコーディネイターという種の生き残りが危うい事態も起こり得ると判断したからこそ、 立案されたものと言えるだろう。
 だが、その計画は結局実行に移されることなく中断。すぐに代替案として、種族融合計画…通称『ミッション21』が提唱されたのだ。

 敵であるナチュラルとの、融合。
 何の為に? 何故?

「…そもそもなぜ種の保存を目的とした計画が次々立案されたのか。…キラなら、知ってるはずだよな」
 えっ、と一同の注目が一気にキラへと集まる。
「それとも、まだ頭がボーッとしてるか?」
 ミゲルの言葉に、キラはしっかりと首を左右に振った。


「…M.A.D.…相互確証破壊」


「…………何だって?」
 眉間に皺を寄せてイザークが問い返す。
「当時の情報局のマザーコンピューター、『ZGMF13・プロヴィデンス』に、敵味方全てのデータとこれまでの戦闘記録を入力し、 この戦争の結果を弾き出すためのシミュレーションを行ったんだ。…その結果だよ」
 アスランの瞳も見開かれる。そんな話は初耳だ。
 ラスティ達の間にも、動揺が走った。
「だけど…惑星破壊兵器、そして恒星破壊兵器の完成さえ容易く予期できる状況下で、そんなシミュレーションを行う事自体が無駄 だったのかもしれない。………そんなことをしなくたって、答えはわかっていたんだ」

 それでも、行わずにいられなかったのは。
 一縷の希みでも、縋りたかったからだ。
 まだ方法はある、まだ何か突破口がある、まだ戦争を終わらせる糸口がどこかにあるはずだ、―――と。
 けれどそんな彼らの願いとは裏腹に、コンピューターは残酷な回答を突き付ける。
 例え何度繰り返しても、返ってくる答えは同じ。新たな動きがある度にそのデータを追加してシミュレーションしたが、予想期日が 早まるばかりだった。
 どんな角度から、どれだけのパターンをシミュレートさせても、最終的には同じところに辿り着いてしまう。

「勝者のいない、相互破壊…。それを具体的に突き付けられたからこそ、そうなる前に何らかの形で我々の子孫を、意志を継ぐ存在を この宇宙に残す作業が求められたのです。それがそもそもの発端でした」
 ラクスがその続きを引き受ける。
「だ…だったらなんで、スターシード計画が実行されなかったんだよ。わざわざナチュラルと融合なんて、バカげてるぜ」
「それでは、問題の解決にならないからです」
「え?」
 眉を顰めるディアッカに、ラクスは小さく苦笑した。
「スターシード計画は、時間と場所を移動させるだけ。しかもそれが可能なら、敵ナチュラルも同じ事を行うでしょう。問題なのは、 現状を超えること…。新しい存在を創り出すことだったのです」
「…新しい、存在…。それで種族融合という発想になったわけか…」
 アスランの言葉に頷いて、ラクスはスクリーンに新しい画像を表示させた。それはコーディネイターとナチュラルの特徴を比較した レポートの一部。
「コーディネイターとナチュラルの外見的特徴は、一見しただけでは判別不可能な程に酷似しています。けれど、コーディネイターは 極端な不妊から、DNA操作と人工子宮を用いた人工出産施設によって種の維持を行わざるを得ません。そのかわりに、病気に罹ることは なく、自己再生能力も高いため治癒が早く、延命処理も容易に可能です。逆にナチュラルは自然出産の多産が主流。環境適応能力が高い ため、つがいで生存していれば比較的容易に種の保存は叶いますが、致命的なほど抵抗力が弱く、病を発症し易い。また自然治癒能力も 弱く、今のところ脳組織の完全移植以外に延命処理法がありません」
「両者それぞれの短所を補い合い、長所を伸ばし合って、全く新しい存在を創り出す。それが種族融合計画だ。……ここから先は、キラ。 お前の話も聞かせてもらわなきゃならなくなる」
 ミゲルの言葉に顔を上げるキラ。ミゲルは、彼独特の勝気な笑みを浮かべていた。




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