冷たい海
エピソード1・裏切りものの人形
(4)
キラ・ヤマトは、ほとんど生活の匂いを感じさせない少女だった。
自分はいつもと変わらず、キラのいなかった昨日と同じ規則正しい生活を継続している。いつもの時間に起床し、いつものように自分で
朝食をとって、後片付けをし、あとは軍本部へ向かうか、議場へ向かうか、部屋に戻ってデスクワークか。どれになるかはその日の
スケジュール次第。
今日は、いや昨日からは、キラを引き取り保護監視を行わなければならなくなったため、在宅で済ませられるデスクワークの仕事ばかり
になってしまったが。
とにかく、それからいつもの時間に夕食をとり、後片付けをして、適当な時間に床につく。
自分のペースを激しく乱されることは、今のところない。
一つ気になるのは、眠ると悪夢を見て魘されているらしいこと。そして、食事をしている様子が見受けられないこと。
全く眠れていないわけではないようなので、悪夢のほうはとりあえず横へ置いて。
流石に保護監視の任を負っている以上、栄養失調で倒れられたりしたら自分の責任が問われる。これ以上あの女に煩わされることだけは、
我慢がならない。
「…お前、食事はちゃんととってるんだろうな」
何を思ってかリビングで座っていたキラに、そう声をかけた。
だが彼女はこちらをゆっくりと振り返ると、答えるでもなく、そのまますうっと首を前に戻してしまう。
「…」
睨んでいると、ふらっと立ちあがり、台所からコップを取って水差しから水を取る。
こく、こく、と飲むと、きちんとコップを洗って、水気を拭いて元のように棚に戻した。
そのまま、すぅ、と幽霊のような足取りで部屋へ戻って行ってしまう。
「………」
ムカつく。イライラする。
キラの態度がいちいち苛立たしい。
さらに癇に障ることに、携帯が鳴った。…アスランからだ。
「…なんだ」
『イザークか? …その、キラの様子は』
「生きてるよ」
『あっ、当たり前だ!! だから…様子はどうなんだ。議場でのあいつ…別人みたいだったから…』
別人、ね。
まあ、まさか昔からずっと、あんなでくのぼう一歩手前みたいな状態だったとは思えないが。
「お前に答える義務はない。まだ仕事がある、切るぞ」
『イザーク!!』
食い下がるアスランを無視して切ってしまおうかどうしようか、一瞬迷ったが。
『様子がおかしいって言ってるだろう! …気をつけてやってくれ』
「……………」
なにをどう気を付けろというものやら。
ちゃんと食事をとっているか、風呂に入っているか、眠っているか、…そんなことをいちいち気にかけろというのか。
「オレは介護まで請け負った覚えはない。じゃあな」
今度こそ、さっさと電話を切る。
そう、キラ・ヤマトの介護を引き受けた覚えはない。
だが彼女をあのままにしておいては、体を壊してしまうだろう。
近いうちにホームドクターを呼ばなければならないか。
「チッ!」
胸に溜まったもやもやを舌打ちで処理して、イザークは自室に戻った。
「…?」
自室のパソコンの前に座り、作業を再開する。が、すぐに手が止まった。
何か、違和感を感じる。
「…なんだ?」
言葉に出してみても、わからない。
漠然とした違和感。
「………」
開いている画面が違うわけでもない。カーソルの位置が違ったということもない。
何か。
……………やがて、その正体がわかった。
ほんの少し、処理速度が早くなっている。僅かに軽くなっているのだ。
「…?」
特に作業速度が変わるようなことをした覚えはない。外から侵入された形跡もない。
キラ・ヤマトは………このコンピューターに触れるはずがない。
この部屋のロックシステムは、セキュリティにも繋がっている。もし彼女がこのパソコンを触っていたとしたら、まず部屋の扉を開けた
時点で警報が作動しているはずだ。
…結局よくわからないままだったが、仕事を滞らせるわけにもいかず、イザークはそのまま作業を続けた。
後で原因を調べておかなければならないな、と思いながら。
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
こちら超久々更新となりましたm(_ _;)m
とりあえず、なんでキラがこんなになっちゃってるのか…とかは、一応ちゃんと考えてありますので。
…イザークがそれを知ろうとしてないから話題に昇らないんですよね…。
昇っても大した興味がないから追及せずに終わっちゃう。
…違うな。興味がないというより、「ストライクのパイロット」が、
こんな状態になってるっていうことがとにかく許せない、って感じかな。