++「冷たい海」2−3++

冷たい海
エピソード2・人形の目覚め
(3)









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 第三世代の出生率は低下しているとはいえ、全く存在しないわけではない。
 午後一時半。緑地帯にある公園には、親子連れが繰り出していた。滑り台やブランコ、砂場、木を組んで作った遊具。まだ義務教育も 始まらない小さな子供達がはしゃぎまわり、ベンチに座った保護者達は井戸端会議に花を咲かせている。

 家からエレカを走らせること、五分。近くの駐車場にエレカを止め、緑地帯の公園に入った彼を出迎えたのは、そんなほほえましく 賑やかな光景。
 だがイザークはその公園にはとどまらず、林の奥へと続く小道へと足を進めた。軽い起伏のある小さな遊歩道のようなその小道は 舗装されておらず、まさしく地球の自然の再現というこの緑地帯のコンセプトに沿ったもの。所々に外灯は設置されているが、外灯と 外灯の間の感覚は広い。
 林の中を縫うように、その小道は続く。
 やがて道幅がぐぐっと膨らんで、公園に出た。
 公園といってもこちらには遊具はなく、ちょっとした空間がひらけて、そこに外灯と時計とゴミ箱とベンチがあるだけの、ひどく シンプルなもの。



 その時計の下で、彼は既に待っていた。

 緑地帯入り口の公園は親子連れで賑わっているだろうと予想したイザークは、アスランの様子から第三者がいないほうが都合が良い のだろうと思い、こちらの公園のほうを待ち合わせ場所に指定した。どうやらその判断は正解だったらしく、公園には他に人影はない。
 アスランのほうへ歩いていくイザーク。アスランもまた、イザークの姿を認めるやいなや、怒りを満面にたたえてずんずんと歩み 寄ってくる。
「? おい」
「イザーク!!!」
 その様子を不審に思い足を止め、不機嫌に眉を寄せたその瞬間。アスランは自分の名を強く呼んで、おもむろに拳を振り上げた。
「!?」
 咄嗟にその拳を受ける。だがアスランは勢いのままイザークの胸倉を掴むと、そのまま彼を地面に叩きつける。
 受身を取り、後頭部を強打することは避けたが、アスランの剣幕は衰えない。イザークを抑え込んで、何度も殴りつけようとする。 これではまるっきり馬乗りだ。
「――――――っ、くそっ!!」
 なんとかアスランを跳ね飛ばしてこの体勢をなんとかしたいのだが、悔しいことに殴られないように防御するだけで手一杯。そうだ、 アカデミーでは体術でも結局アスランにはかなわなかったのだった。辛うじて射撃で勝てただけ。しかもその日アスランは発熱していた というハンデ付きでやっともぎ取れた勝利。
「おい!! オレは貴様に一方的に殴られる覚えはないぞ!! どういうつもりだ!!」
「覚えがないだと!? ふざけるな!!!」
「それはこっちのセリフだ!! 何なんだ一体!!」
「とぼけるな!! どういうことか説明しろ!!」
「だから説明って何だ!! わけがわからんぞ貴様!!」
「まだしらをきるつもりか!? キラのことだ!!」
「あぁ!?」
 あの女の何をアスランに説明しなければならないというのか。主治医がついたことまで調べられるのなら、大概のことは調べれば知る ことができるだろうに。
 だが、怒り狂うアスランが続いて怒鳴り返した言葉は、イザークの想像を超えるものだった。
「キラとの婚約を議会に承認させたっていうのは、どういうことなんだ!!」
「…、…………はぁ…!?」
 思いっきり眉間に皺が寄り、傷跡が歪む。
「……昼間っぱらから酒でも呑んでるのか貴様は」
「とぼけるな!!」
「ハッ、馬鹿馬鹿しい」
 呆れ果ててもう怒鳴り返す気にもなれない。一気にテンションが下がった。
 吐き捨てるように言うと、アスランを押しどかそうと肩を押す。…癪に障ることに、びくともしない。
「これ以上貴様の被害妄想に付き合ってられるか。おい、退け」
「………」
 とりあえず、といった様子でイザークの上からどいて立ちあがるアスラン。イザークも立ち上がって、砂埃を払う。
「まったく、いい迷惑だ。一体どこからそんな発想になったんだか…大方自分とラクス嬢の話とでも混同したじゃないのか。戻ってもう 一度よく確かめ……」
 途中で苦情が途切れたのは、アスランがジャケットの内ポケットから出して示してきた紙切れの見出しに目がとまったから。
 モニターに映し出された表示をそのままプリントアウトしたらしいその紙には、「重要戦犯キラ・ヤマトとザフト軍部隊長イザーク・ ジュールの婚約承認に関する記述」と表題がつけられていた。
「…今朝父から渡された文章だ。発表はまだだが、議会で正式に決定した事だと」
「何?」
 顔を顰めてその紙を奪い取ると、そこには確かに、自分とキラとの婚約を承認し、今後キラの回復を待って改めて彼女を軍事法廷に かけその処罰を決定する、但し以前の判決と今回の婚約を考慮に入れ極刑は下さないことを前提とする…という内容の事柄が記されている。 わざわざもう一度裁判をやり直すのは、ひとつは彼女の刑を軽減させ結婚するのに差し支えのない状態にさせるため。そしてもうひとつは、 軍の隊長職にあるイザークの伴侶となるからには、特A級戦犯というキラの罪状をどうにかしておいたほうがよかろう、という軍部の 思惑が絡んだからだろう。
 日付は昨日。ザラ議長の承認サインもしっかり入っており、しかも婚約についてはイザークから議会へ是非にと申し込まれたと経緯を 説明してある。
「…おい、冗談じゃない、なんなんだこれは! 事実無根もいいところだ!!」
 ばしっと紙を手の甲で叩いて、アスランに怒鳴りつける。
「何だってオレがあの女と婚約なんかしなくちゃならない!?」
「だから、さっきからそれを聞いてるんだ! お前から議会へ持ち込んだ話だろう!?」
「こんなフザけた話、誰が持ち込むか!! 誰だそんなことを言い出したヤツは!」
「だから、お前が!」
「違うと言ってるだろうが!! 第一オレはあの女が来てからずっと家にいるんだぞ!! 実際に議会で提案したのは誰だ!!」
「お前の代理人としてジュール議員が提案したと聞いている!」
「はあっ!?」
 母上が何故そんな話を持ち出すというのだ。
「…………………本当に身に覚えがないのか?」
「さっきからそう言ってるだろう!! 一度言ったら理解しろ!!」
「………」
 ぐしゃっと紙を握り締めるイザークと対照的に、今度はアスランのテンションが下がる。
「……………そうか…」
 顔をそらし、地面を睨み付けるアスラン。
 イザークは激昂した副作用で息が上がり、紙をぐしゃぐしゃと丸めて地面に叩き付け踏み付けてしまうと、やっと落ち着こうという ところまで辿り着いたらしく、息を整え始める。




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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)

突如婚約。話がぶっ飛んでいます(^^;)
ていうか、肝心のキラがあんな状態で、本人の意思確認もできないのに勝手に決めてええんかい!
………良くはないですね、勿論。
このお話のザラパパにとってキラは目の上のこぶというか、アスランについた悪い虫。
その上アスランがあんな調子なので、それじゃ、とばかりにキラのほうに相手をあてがった形になります。
そのあたり、詳しくは後ほど本編内で出てくる予定です。