++「冷たい海」2−4++

冷たい海
エピソード2・人形の目覚め
(4)









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 やがて二人ともきちんと落ち着きを取り戻した頃、アスランが先に口を開いた。
「……そうなると…父の策略、ってことか…」
「策略?」
 怪訝そうに聞き返すと、苦々しげに頷く。
「俺とラクスとの結婚も、勝手に話を進めて…」
「はっ。そいつはおめでたいことで、ザラ特務隊長殿」
「俺が一生傍にいたいのはキラだけだ」
 いやに攻撃的な口調に、傷跡を歪めながら見返すと、そこには真っ直ぐなアスランの瞳。
 射抜くほどの強さで、イザークを見据えている。
 まるで、その願いを阻む敵を見るかのように。
「俺が愛しているのはキラだけだ。今までも、これからも、ずっと」
「……………」

 癇に障る。
 自分のものに手を出すなとでも言うかのようなその視線が、これ以上ないというくらいに癇に障る。気に入らない。気分が悪い。 苛々する。
 何がどうして、こんなにムカつかなくてはいけないのか。


「……この婚約に、お前の意思がないことは分かった。俺はジュール議員に話を聞いてくる。…お前はどうする」
 無残に扱われ砂まみれになった紙を拾いながら、アスランは淡々と尋ねてくる。
「………」
 不愉快さにまかせて睨み付けていると、アスランは紙を広げ、パシパシと叩いて砂を払う。まだ公にされていない議会の決定事項が 記されている、一応極秘資料ということになるからだろう。公園に備えられているゴミ箱には捨てず、折り畳んで元のとおりポケットへ 収めた。
「…部下に任せているとはいえ、あまり長く家から離れるわけにはいかない」
 ましてやエザリアを直接問い詰めようと思えば、今彼女が滞在しているアプリリウスワンまで出向かなくてはならない。アセルスには 人と会う約束だけだからすぐ戻るという話で留守を預かってもらっているのだ。彼女もそのつもりでいるだろうし、夕刻からは予定がある ような事も言っていた。
 何がどうして婚約などということになったのか調べ、無効を訴えたいのは確かだが、今日これからすぐ動くのは難しい。上官命令として アセルスを家に留まらせてしまえば問題なく動けるのだろうが、命令動機を考えれば公私混同であることは明白。
「オレはオレで事の成り行きを調べて撤回を申し出る」
「…そうか。…さっきはいきなり暴力に訴えて、すまなかった。それじゃ」
 律儀に最初突き倒したことを謝ってから、アスランは足早に去っていく。

 アスランと一緒に公園を出る気になどなれる筈もなく、イザークはしばらく林の奥を睨み付けるようにして、その場に立ち尽くしていた。



 数分経ったのか、数十分経ったのか。時計を見上げてみたが、アスランが帰ったときの時間が不明なので、よくはわからない。だが、 待ち合わせの時間を考えれば、そう長い時間ではなかっただろう。
 乱暴に息をついて嫌な気分を吐き出す。
 それから、家に戻ろうと踵を返す。帰って、通信で母を呼んで事情を聞こうと。
 だがそこへ、携帯電話が鳴った。
「………」
 嫌な予感。
 発信者はアセルス。だが発信者に関係なく、携帯が鳴ったというそれだけで反射的に湧き上がる嫌な予感。
 何か今日はいつも携帯電話から災厄が降り掛かってきているような気がして、身構えてしまう。
 そしてイザークのこの予感はある意味正しかった。

「…どうした」
「隊長、キラが倒れました。ザフトの医療施設へ搬送しますので、そちらから遠隔操作で警報装置を切って頂けますか」



 携帯電話が災厄を運ぶのか、そもそも今日という日が厄日なのか。



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 エレカに乗り込んだイザークは、このプラントのザフト駐留基地へと直行した。そのまま、敷地内にある病院へとハンドルを切る。
 途中エレカのナビシステム宛にアセルスからの報告があった。駐車場へエレカを止めると、一直線に報告された三○六号室へ向かう。

「隊長」
 エレベーターで三階へ上がると、扉が開いたところでアセルスと出くわした。
「様子はどうだ」
「簡単な検査の結果、身体的な異常はありません。ただ、精密検査をしておいたほうがよいと思いますので、私はこれからその段取りを」
 エレベーターに乗るつもりだったのだろうが、イザークの登場でその場に留まる。エレベーターは無人のまま扉が閉まって、更に上の階 へ行ってしまった。
「治療の最中興奮状態に…。これに関しては、後程改めて詳しい経緯を報告します」
 降ボタンを押しながら続けるアセルス。
「その際に暴れて軽く手足を打っていますが、骨や筋に異常はありません。頭部は打っていませんので大事ないと思いますが、念のために」
「ああ。…意識はあるのか」
「先程気がつきましたが、…あの、一人にしてほしいと…」
「…そうか」
 ポーンと耳に優しい電子音が響き、看護士と車椅子の患者を乗せたエレベーターが再び扉を開く。
「では、失礼いたします。後ほど」
「ああ」
 すっと敬礼をしてエレベーターに乗り込むアセルス。自動的に扉が閉まって、エレベーターは下へ降りていった。




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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)

少なくとも「一人にしてほしい」と意志表示できる状態にある、ということは。
ストーリー開始当初から壊れていたキラですが、ここにきて復活です。
vsアスランの次は、vsキラ。
って「vs」かい!(笑)