++「冷たい海」2−7++

冷たい海
エピソード2・人形の目覚め
(7)









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 今までのキラの様子が脳裏をよぎる。一体どれだけ残酷なことをしたというのだろう。
 ………イザークには、想像がつかなかった。

 彼女がストライクに乗ったのは偶然だそうだが、それでも既に数多の戦場をくぐり抜けて来た戦士だ。その優秀さは、癪だが自分が一番 身に染みてよく思い知らされている。
 つまり、それだけ彼女も命のやりとりを経験してきたということ。
 人の生き死にを間近で経験してきたのだ。多少のことでは、あれほどのショックを受けることはないはず。
 いくら守ってきた仲間や友達が捕えられ処刑されたといっても、彼らの処刑判決は停戦後だったため、ザフトの軍規に則って安楽死で 最期を迎えたはずだ。宇宙葬とはいえ、遺体も手厚く葬られた。目の前で敵に撃墜されるよりはよほど…と思うのだが。
 …いや…それは違う。イザークは無意識にかぶりを振った。
 何であれ死は死だ。大切な仲間も、友人も、二度と戻って来ない。どんな形で死を迎えたとしても、それは変わらない。
 自分一人だけが残ってしまったと、きっと彼女は胸の内で激しく自分を責めたのだろう。
 しかし、それで口まで聞けなくなるものだろうか?
 イザークだって戦場で数多くの仲間の死に直面してきた。それこそ実際に目の前で敵に撃たれたヤツだっていた。言いようのない悔しさ、 怒り、悲しみ。そして必ず仇を討つと奮起して…。彼らのことを忘れたことなどない。
 それでも、失ってもこうして、日々を生きている。

 話すことも食べることも投げ出して、生きる気力を失うほどの惨い仕打ちとは、一体…。



「イザーク、あなた本当にキラ・ヤマトと結婚してしまってはどう?」
「はっ!?」
 自分だけの思考に沈んでいたイザークは、とんでもない母の言葉に弾かれたように我に返った。
「いくらアスラン・ザラでも、戦友の花嫁を強奪しようとまではしないでしょう」
「………」
 いや、しそうな気がする。むしろ火に油を注ぐ結果になりそうな。
 それをそのまま口にするのも、何故だかムカつく。
「オレはアスランがザラ家を出ようがラクス嬢と結婚しようが、そんなことはどうでもいいんです。とにかく、キラ・ヤマトとの婚約など… 冗談じゃありません」
「…そうね」
 ぶすっとそう答えると、エザリアはイザークの内心を見透かしたかのようにクスと笑った。それから立ち上がり、部屋を閉めてしまう 準備を始める。
「………でも、そう頭から否定することもないでしょう」
「母上!! 悪ふざけにしても度が過ぎます!」
「あら、私は本気よ」
「…」
 しかめっ面のまま立ち上がるイザーク。エザリアはそんな彼を先に退室するよう促し、イザークはそれに従った。
「捕えられてすぐの頃…まだ取り調べが行われていた頃、私も彼女と何度か話しをしたことがあるわ」
 えっ、と顔を上げる。エザリアはドアロックを施しながら続ける。
「確かに、あなたにとって屈辱的な敗北を喫した相手でしょう。実際に仲間も倒された。けれどそれだけ、彼女も必死だったということ。 …地球軍もザフトも忘れて、一個人として話してみたら、いい子よ」
「……母上がキラ・ヤマトをそんなふうに思っていらしたとは、意外です」
「そうね。『裏切り者』、なのにね。自分でも意外だったわ。彼女のことを、こんなふうに感じるなんて」
 ふふっと笑い返し、イザーク並んで廊下を歩き始める。
「どちらにしろ、パトリックが首を縦に振らない限り、あなた達の婚約は解消できないのだし、あなたが引き続き身元引受人であることも 変わらないのだから。少しずつ話をしてみるといいわ」
「…。しかしキラ・ヤマトは、アスラン・ザラの保護を求めるのではないでしょうか」
 どうにも苛々させられるが、アスランのあの執着ぶりからいって、実際相当仲は良かったのだろう。キラ自身、恋愛感情のあるなしは 横へ置いたとしても、やはり自分に対して敵意を持っているであろうデュエルのパイロットよりも、幼馴染であるアスランの傍のほうが 安心する筈。彼女にとって居心地がいいのはどちらかは、一目瞭然だ。
 だが。
「それはないわね」
 すっと冷たい目になって、エザリアは息子の言葉を即否定した。
「……?」
 どういう意味かと問いたい気持ちはあったが、深入りするなと言われたあの時と同じ顔をしている母をそれ以上問い詰める気にはなれなかった。





 瞬間。

『嘘吐きぃぃっ!!』

 不意に、なんの前触れもなく。

『みんなだけは、助けてくれるって…!!』

 甦る、キラの声。



「……………?」
 何か、引っかかる。
 さっきまで自分が考えていたことと、さっき病室で興奮していた時のキラの叫び声が、どこかでリンクしているような気がする。
 何が、引っかかっている?



 だが、それが何なのかわからないまま、病室へ戻って来てしまった。
 意外と早く検査が終わったため、キラを乗せたストレッチャーを押したアセルスがすぐに戻って来たこともあり、結局イザークは何が 引っかかったのかわからないまま、深く考えることをやめてしまった。




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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)

大変、大変長らくお待たせ致しました!!!
しかもイザキラ的には全然進展していなくて申し訳ありません……………。
「BRING〜」のエザリアさんはキラのことを快く思っていませんが、こちらのママはキラ好き設定です。
本来ならキラは意志の強い人だと思うんですよね。エザリアさんてそういう人好きじゃないかな、と思って。