++「冷たい海」3−3++

冷たい海
エピソード3・キラとアスラン
(3)









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 協力してほしいんです。
 手を貸してもらえませんか。
 お願いします、どうか。
 ―――――言い方はどれでもいい。
 頭を下げるとか上げるとか、そんなことに拘っているわけじゃない。

 どうして目的を成す為にオレの力を頼ろうとはしなかったのか。そして、すべてが終わったら離婚の手続をしますから、という言葉が 続かなかったのか。
 …答えは簡単だ。



 あの女は、すべてを終えたその後には、生きているつもりがないからだ。



 頭痛の原因が、やっとわかってきた。
 何故あんなにも苛々していたのか。
 そのことを、彼女の本当の真意を、薄々感じ取っていたからだ。

 簡単に結婚してくれと言えたのも、プラントの婚姻統制のことを知らなかったからということもあるだろうが、『目的を遂げれば自分は 消えるのだから、その後で本当に好きな人と再婚してくれたらいい』、とか何とか思っていたからに違いない。
 オレには迷惑をかけないと言っていた。事実、今になっても軍本部からマザーバンクがハッキングされたなんていう情報は入ってこない。 それはあいつが口だけではなく、本当に完全に痕跡を消していた証拠と言えるだろう。
 オレに責任が向かないように、上層部から咎められることのないように、だが確実に、あの女は目的を遂げるのだろう。それだけの力を、 彼女は持っている。

 そして全てが終わった後、同じ完璧さをもって、自らの命をも絶つのだろう。
 守りたくて守れなかった友と仲間のもとへ向かうのだろう。



「………………………くそっ」
 何もする気になれず、ベッドで横になっていたイザークは、ぼーっと見上げていた天井に短く悪態をつくと、ごろりと横向きに転がった。

 癪な話だが、アスランの気持ちが少し、わかったような気がする。
 確かにあいつは、キラ自身も言っていたように、アークエンジェルにキラを近づけさせまいとするだろう。
 キラの性格をわかっていれば、彼女がアークエンジェルを追うのは感傷ではなく、仲間の無実を晴らそうとしての行動だということは、 容易に想像がつくだろう。そして目的を達成した後、彼女が自分の命を絶つ決意をしていることまで見抜いてしまうだろう。
 ならば、目的が達成されなければいい。
 自分の傍へ繋ぎ止めて、そのまま、…自分のものに。
「………っ」
 かあっ、と顔面に熱が集まる。

 ほんの数センチのところにまで近づいたキラの唇。
 大きなアメジストの瞳が、間近にあった。
 一週間前まで栄養失調状態だったとは思えない綺麗な肌。

 あのまま、もし。
 ………………キラがオレを突き飛ばさなかったら。

 あの艶やかな唇に、触れてしまっただろうか。

 キラが抵抗しなければ。
 恋人同士のように、唇を重ねていただろうか。
 万が一、あの細い腕をオレの首筋に回して、すべてをゆだねてきたとしたら、……………オレはあのまま彼女を抱いていただろうか。


 そこまで想像を巡らせて、途端にブツンと思考が落ちた。
 上がっていた体温も、音が聞こえるほど激しくなっていた鼓動も、あっさりと冷めてゆく。

 ………馬鹿馬鹿しい。
 あの状況であの女が抵抗しないとしたらそれは、取引でしかないではないか。
 『アークエンジェルを調べ、アスランの手から逃れるために結婚してほしい。そのためにこういう行為が求められるというのなら捧げる から。』…そういうことだ。
 ただそれだけの意味でしかない。



 重苦しい溜息をついて体を起こす。
 気分の悪さは増したばかりで、何故いつまでもこんなに苛々させられなくてはいけないのか、その理由もわからないまま。
 すっきりしない。

 結局また、ぼとっとベッドに体を預けてしまった。


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 結局くさったまま二十分ほどゴロゴロしていただろうか。
 さすがに仕事に手を付けたほうがいいかと、まだ重い気分を無理に切り換えようとした時、端末からコール音が響いた。
 ベッドから降りてデスクへ向かうと、ディアッカのプライヴェート回線からだった。そういえば、キラが戻ってから連絡がない。頃合を 見計らってひやかしに来たのかと思いながら通信を繋ぐ。
「オレだ」
『あー、イザー…? オレオレ。よ…………うなんだよ』
「? お前、ノイズが混じりまくってるぞ」
『え? 何、聞こ………干渉でもされてンじゃ……?』
「だから、何を言ってるのかわからんと言っている!」
 異変を感じた瞬間からキーに手を滑らせて調べているが、通信障害が発生しそうな障害は検知されない。
『おーい、イザ……こえてるか? っかしーなァ、な………ってんだ』
 のらくらと喋るディアッカに、違和感を感じた。そして、はっと気付く。
「!! しまったっ」
 もっと早く気付くべきだった。ディアッカとて普段飄々としてはいるが、ザフトレッドを纏うことを許された精鋭だ。こんな状態での 通信を許すはずがない。
 乱暴に回線を閉じると、すぐさま階下に下りる。
「おい!!」
 勢いのままリビングに駆け込むと、そこには予想通りの最悪の光景。


 キラを連れ出そうと腕を掴んだアスランと、連れ出されまいと抵抗するキラが、押し問答をしていたのだ。




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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)

三つ巴の直接対決ですよ〜〜〜!!!(←書いてる本人が一番楽しんでます)