++短編小説「Can't forget your love」前編++

Can't forget your love
前編






「………人工子宮?」
 そうっと尋ねると、泣き疲れて数分眠っていた少年は、赤い目のまま頷いた。
「唯一の………、成功体、なんだって」
 まだ少し辛そうな顔で。
 そんな彼に、実質三艦の総指揮を執る少女は、ふわりと微笑んだ。
「ならばわたくしは、そのヒビキ博士に感謝致しますわ」
「え?」
「博士が幾度の失敗にも挫けず挑戦を続けたからこそ、いまここに、こうしてキラの存在があるのでしょう?」
「………ラ…クス……」
 アメジストの瞳が、再び涙に潤む。
 そんな彼ににっこりと微笑んで、しっかりと頷くラクス。
 キラは再び、彼女の膝を濡らすこととなった。



 廊下に取り残された二人は、ぼんやりと宇宙空間を見ていた。

「…」
 だが、不意にカガリが自分の髪をくしゃっと乱した。
「カガリ?」
「…だめだな、あたし…。もっとしっかりしないと」
「……」
「もう、あの頃とは…違うんだもんな」

 二人が出会ったときは。
 アスランはザフトに疑い持たぬ実直な兵士で。
 カガリはオーブから飛び出した自由な戦士で。

 けれど今は違う。
 たった3隻の戦艦と、たった四機の主力MSだけで、地球軍とザフトの両軍を向こうに回す戦いを始めていて、しかもカガリはその内の 一隻の指令を下す位置にいる。

「…いろんなこと、キラに背負わせてる分…あたしがしっかりしなきゃいけないのに」
「……そんなこと言って、あんまり自分を追い詰めるなよ。こんなとろで爆発されたら困る」
「なっ、なんだと!?」
 からかうような口調にキッと鋭い視線を向けてくるカガリに、アスランはぷっと吹き出した。
「なんだよ一体!」
「いや、やっとお前らしくなってきたな」
「……」
 気遣ってくれたのだと悟り、ふぅ、と息をひとつ吐き出す。その時顔を向けた先に、自分の手があって。…そこには、問題の写真が 握られていた。
「……………」
 しかしカガリはニッと笑うと、それをポケットに戻した。
「あーあ、もう、こだわるのやめやめ!!」
「ん?」
「そうさ。あたしはオーブの獅子、ウズミ・ナラ・アスハの一人娘だ。そしてキラの双子の兄弟だ。それだけでいい。…ややこしいことは もう、平和になるまで横に置いとく」
「…」
 吹っ切ったような彼女の笑顔に、アスランもふっと微笑んで。

 そこへ、ラクスとキラが出てきた。
「あ、…」
 二人の姿を、特にカガリに気付き、キラは少し表情が強張ったようだが。
「お前、大丈夫か! あ〜あ、また眼ぇ真っ赤にして!」
「…カガリ…」
「ちゃんと冷やしとけよ。マリュー艦長やサイ達が見たら、また心配するぞ」
 いつもと、いや、オーブ崩壊前と変わらないくらいの彼女の様子に、少し面食らってしまうキラ。そして、隣でラクスが微笑む。
「キラ。それに、アスランも。今日はもう休んで下さい。しばらくはわたくし達が察知される心配もないでしょうから、今の内に」
「わかった」
「うん。……ラクス」
「はい?」
「……ありがとう」
 指揮官ではなく、聖母ではなく、歌姫でもない少女の顔で、優しく微笑みを返すラクス。
「…………あの…カガリ、…」
「ほら!! またそんな辛気臭い顔して!」
 ばんっと背中を叩かれ、えっ、とふわふわ漂いながら戸惑ってしまうキラ。
「あんまり姉さんに心配させるんじゃない! わかったな!」
 ニッといつもの笑みを浮かべて。
 ―――今は訊かないから。だから、言いたくなったら言え。
 そんな声が聞こえてきそうで、不覚にもまた涙が滲んでしまう。
「…カガリ…」
 が、ふと気付いて。
「……ちょっと待ってよ、なんでカガリが姉さんなの?」
「あ? そんなもん、性格考えたら大体わかるじゃんか。お前、どう見たって末っ子って感じだもんな」
「はっ!?」
「そうだな。キラは昔っから泣き虫だったし、甘えん坊で面倒臭がりで…」
「ちょっ、ちょっ、アスラン!!」
「まあ。そうだったんですの?」
「ええ。何かって言っちゃあ俺に頼ってきて、課題がまだできてないの、捨てられてた仔猫を拾ったのって、もう大変だったんですから」
「うっわー、絵に描いたような兄弟図だな」
「アスランっっ!!」
 一向に味方になってくれる人物が現れないキラは、顔を真っ赤にして叫んでしまう。
「ほっ、ほらっ、もう行こう! ラクス、カガリ、後でね!」
 ぐいっとアスランの腕を引っ張ると、自分達の部屋に向かって滑り出す。
「アスラン! 全部終わったら、昔のアルバムとか見せろよ!」
「わたくしも期待しておりますわ」
「了解」
「アスラン!!」
 にこっと笑って二人に手など振っているアスランをこちらに向かせ、逃げるように去っていく。



「…さて! それじゃ、あたしもそろそろクサナギに戻るか」
「………よろしいんですの?」
「え?」
 ふと返された、真剣な声。
「…よろしいのですか。あなたも、本当は尋ねたいことが山ほどあるのでしょう?」
「いいさ。今はな」
 ケロッとした即答に、さすがのラクスも一瞬目をぱちくり。
「あいつが言わないほうがラクなら訊かない。あいつが言ったほうがラクなら、夜通しでも聞いてやるさ。今は、言わないほうがラク なんだろ? 少なくとも、あたしに対しては」
「…」
「そっちこそいいのか?」
「え?」
 逆に問い返されて、思わず今度は目を見開いてしまう。
「ああ、そっち…なんていうのもナンだよな。えっと…」
「わたくしのことは、どうぞ『ラクス』とお呼び下さいな。カガリさん」
「あたしもカガリでいい。じゃ、ラクス。………婚約者だったんだろ? あいつ」
 今度はアスランの話題か、と頬を緩める。
「親同士の決めた、ですわ。残念ながら、アスランはわたくしに恋心を抱いては下さらなかったようですし、失礼ながらわたくしも… そうでしたから」
「……そっか」
「ですから、わたくしに遠慮なさらなくてもいいのですよ」
「別に、そういうつもりで訊いたわけじゃ…」
「いいえ。見ていればわかりますわ。アスランが、あなたに送る視線を」
「……」
 だが、カガリはその言葉に苦笑を返した。
「…ま、双子なんだもんな。似てて当然なんだろ」
「え?」
「それこそ、見てたらわかるだろ。…あいつら…さ」
「……まあ、お気づきでしたか」
 頷いて微笑するカガリに、ラクスもふんわりと微笑んだ。
「ったく、こっちの身にもなってほしいよ」
「フフフ。悪気がないのがこまりもの、ですわね」
「ほんとにな。ていうか、あたしと結婚したら義理の兄弟として堂々とキラの傍にいられるーとか思ってんじゃないだろうなって感じ」
「ありえない話ではありませんわね」
「……」
 ぴた、と話をやめてじっとラクスの顔を見つめるカガリ。
「? 何か?」
「いや、エターナルと合流してそれなりに経ってるのに、こんなにしゃべったの初めてだなと思って」
「そういえば…そうですわね」
「事務的な話しかしたことなかったしさ」
「事態が事態でしたけれど、まったく時間がなかったわけでもありませんのに」
「勿体無いことしたな〜」
「カガリ、すぐにクサナギへ戻られるのですか?」
「んー、戻ろうと思ってたんだけど…」
「しばらく察知される心配はありませんわ。このままもう少し、お話できませんこと?」
「そっちは大丈夫なのか?」
「バルトフェルド隊長が、わたくしも少し休むようにと言って下さったところですわ」
「じゃあ決まりだ!」
 ニッと笑ったカガリに、ラクスも微笑み返して。
 トントン拍子に意気投合した二人は、そのままラクスの私室へと消えた。





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UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
ここまでだと一見「ラク×キラ+アス×カガ」ですが。
コロッと手をひっくり返して、アス×キラになります。
ていうかラストの二人の会話でちゃっかり前フリしてありますが、一応(笑)
ラクスとカガリ、本編で会話してほしいよ〜!!
なにげにこの二人しゃべってないじゃん!!