雪の舞う夢を、君に
(3)
そのテストは、機体、つまりストライクのCPUの中に予め最新鋭のヴァーチャルリアリティープログラムをセットして行われる。
本来なら当然、受験者にもそれを言い渡してから試験を開始するのだが。
「…ラ…………キラ…キラ!!」
聴き慣れた幼なじみの逼迫した声に、はっ、と弾かれたように気付く。
「…、えっ!? こ、ここ…」
そして、突然コクピットにいる自分に戸惑ってしまう。
どうして?
いつものように仕事を終えて、部屋で眠っていたはずなのに。
「ア、アスラン、僕いったい…」
「詳しい説明は後だ、お前にも出てもらうぞ、キラ!」
「えっ!?」
今度はイザークの声。
「ちょ、ちょっ…どうなってるんだよ! 僕も出るって、何!?」
「偵察に出たミゲルとラスティが大破して戻って来た。援護で出たニコルとディアッカも、敵に包囲されてる」
「えっ…」
さっとキラの顔色が変わる。
「俺とイザークだけでは人手不足なんだ。今ストライクを一番知っているのはお前だろう、キラ」
「っ…」
MS戦の成績は、かなり悪い方だった。
操縦技術のポイントが高かったおかげで、最下位にはならなかったが、いかんせん肝心の実戦で全くポイントを上げられなかったので、
下から数えた方が圧倒的に早い順位になってしまう。
…そんな自分を乗せるほど、逼迫した事態ということだろうか。
「…隊長の、命令?」
「そういう事だ」
「大丈夫、俺達がいるから。…行くぞ、キラ!」
「…わかった」
出る先は、戦場。
そこにはニコルとディアッカがいて、危険に晒されている。
嫌だと我侭を言える状況じゃない。無理ですと弱音を吐ける状態じゃない。
―――キラは覚悟を決めた。
「キラ・ヤマト。ストライク、行きます!!」
全てがヴァーチャルシミュレーションシステムに支配されているとも知らないキラは、ストライクを発進させる。
そして突然逼迫した事態を知らされ急かされたキラの頭には、なぜジンは出ない、なぜ突然パイロットでもない僕が、どうしていつの
間にパイロットスーツを着ている、という疑問を挟む余裕さえなかった。
「…ほう。なかなかさまになっているじゃないか」
発進の様子を見ていたクルーゼが、仮面の下で微笑む。
ヴァーチャルシミュレーションとはいえ、機体は実際にヴェサリウスから発進し、演習のために用意された宙域へと向かう。
砲弾は空砲、敵機はダミー。それでも、パイロットに伝わる感覚は、リアルだ。
キラは一直線に、『敵』に包囲されているブリッツとバスターのもとへ向かっていた。
「ニコル! ディアッカ!」
辛うじてフェイズシフトは保っているものの、完全包囲され満身創痍な両機が確認される。
こちらを確認したのか、敵は本隊をブリッツらニ機の包囲に残したまま、左右に部隊を分けて展開してくる。
「三時の方向の部隊にはオレが行く。アスランは九時方向を仕留めろ」
「了解」
「本体は任せたぞ、キラ!」
「うん!」
しっかりと返事を返すと、イザークは笑うようにクッと喉を鳴らした。
「返事は『了解』だ」
「りょ、…了解」
「無茶はするな、キラ」
「大丈夫」
しっかりと答えると、アスランとイザークは左右の部隊を叩くため、ストライクから離れた。
敵本隊が、射程内に入る。
ブリッツとバスターを巻き込まぬように照準を合わせ、敵をロックオン。
けれど、やはり。
「…っく」
…一瞬の躊躇。
その時、ブリッツのフェイズシフトが落ちた。
「!!」
灰色に変わる機体。
敵MAが、一気にブリッツに狙いを定める。
―――――キラの中で、『SEED』が弾けた。
一気に放射されるアグニ。
ブリッツの近くにいたMAが十数機、一度に沈黙。全速力で二機に近付いたストライクは、二機の盾になるように立ちはだかり、続けて
アグニを放つ。
的確な狙い、素早い判断。
一気に隊長機を叩き、乱れる敵陣に、更に攻撃してゆく。
「ディアッカ、今の内に早く!!」
「あ、ああ」
ブリッツを連れて、戦線を離脱してゆく。それに追いすがろうとする機体をロックオン、…その先にある、別部隊をも狙いに入れて撃つ。
「!」
アスランが叩こうとしていた部隊の隊長機の一団が、アグニの砲撃で一気に沈黙する。
「っ…」
バスターとブリッツを追撃しようとする機体のみならず、こちらの動きまで視野に入れていたというのか。
実戦訓練成績は常に最下位だった、一度も実戦に出た事のないキラが?
デュエルが相手にしている部隊からも、PSの落ちているブリッツに照準が複数向けられる。
「させるかぁぁぁ!!!」
即座に二発。
ヴェサリウス側に回り込んで二機の退路を絶とうとしていたMA、照準を合わせていたMA、そしてデュエルを狙っている分隊の隊長機。
それらが、一気にレーダーから消えた。
「…」
思わずイザークも息を飲む。
追撃しようとする、MAを。
次々と、的確に、最少のエネルギー消費で。最速の反応速度で。
キラは、次々と撃ち落していた。
実際にそこにあるものは、ダミーでしかないけれど。
けれど、このキラの力が実戦に投入されたとしたら。
「…勢力図が、一気に塗り変わるぞ……!」
イザークは、ぞく、と背筋に冷たいものが走ってゆくのを確かに感じた。
……はぁ…はぁ…はぁ……………
狭いコクピットに、やけに近い息遣いが響く。
それが自分の荒い呼吸だという事に、キラは気付いていない。
自分の体が、震えていることにも。
操作グリップを握る指が小刻みに震えているのに、変な力が抜けなくて、でも力が入らなくて、離すことができないでいる。
不意に、プシュンとコクピットが開いた。外から開かれたのだ。
「キラ!」
真っ先に飛びこんできたのは、聞きなれた気高い友人の声。
「キラ、…おいキラ?」
どこか誇らしげだった声色が、怪訝なものに変わる。
自分のヘルメットを外したイザークはストライクのコクピットに入り込み、綺麗に切り揃えられた髪をサラサラとなびかせながら、キラ
のヘルメットを外した。
「…っ…キラ、お前…」
そして、その彼の様子にハッと息を飲む。
目を見開いて。
浅く荒い呼吸を繰り返すキラ。
スーツの内側は、ぐっしょりと汗で濡れていた。
「キラ、おいしっかりしろ」
ぺちぺちと頬を叩き、呆然としている意識を引き戻す。
「……、イザ…ク………、ニ、ニコル…と、ディアッカ…」
「無事だ。ミゲルとラスティもな」
「…あ………」
ようやく瞳は焦点を取り戻すが、どこを見ているかは一定せず、挙動不審。
「ぼ…、僕、僕……」
「………キラ…すまない。これは、演習だ」
「…え?」
本当は、他のモードのテストも終わるまで明かさないという約束だったけれど。
でも、そんなことを言っている場合ではない。
何故キラがこんな状態になっているのか、イザークにはもうわかっていた。
似たような状態になった彼を、以前一度見ているから。
「…よくデータを見てみろ。お前が撃ち落したのは、全部ダミーだ」
「え? ダ…ダミー…、って…」
「お前は誰も殺してない。大丈夫だ」
「……………」
シートベルトを外してやってMSから解放し、ふわりとその体を包む。
子供をあやすように背中を撫でて。普段のイザークからは想像もつかないような、優しい所作。
「誰も殺してない。誰も殺してないんだ、キラ」
「………」
「騙すような真似をして悪かった。…もう大丈夫だ」
「…ぼ………僕…」
がたがたと震える体を力強く包み込まれて。
…ほう…と張り詰めた息を吐き出し、ぎゅっと強く瞑った瞳から涙が滲む。
「…キラ?」
気が緩んだのか、彼はそのまま、気を失ってしまった。
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい
今回の役得はイザーク、ということで。順繰りに回していこうかと思っています。
少々キラが危なっかしいことになっていますが、ちゃんとハッピーエンドで構想たてていますのでご安心下さい。
…ちょっと宇宙戦が書けて楽しかったなぁとかズレたことを思っていたり(^^;) 全然へっぽこなんですがね。ははっ。
宇宙戦での座標というか方向の報告の仕方、一時の方向とかそっち系じゃなくて、「距離○○、グリーン、マーク○○〜○○、
チャーリー!」とかなんかそんな感じで言ってましたが。
…何がなにを示してるんだかサッパリわからん!!
というわけで、調べきれなかったおバカさんな海原は、苦肉の策で「三時方向」の方法を取りましたとさ。
……すみません…ほんとすみません…。