雪の舞う夢を、君に
(8)
……………?
……まっくらだ。
なんだろう。何も見えない。
――――――――――パァン!!!
一筋、火を吹く。
その先に、人が倒れた。
知ってる。
隣に住んでいたおじさん。
優しくて気のいいおじさん。時々娘さんから送ってきたっていう果物を分けてくれた。
見まわすと、沢山の人が倒れている。
ここはどこ? ……知ってる。ちっちゃい時に住んでたところ。
ある日突然、アオとかセイジョウとか叫ぶ人達がやってきて、僕の住んでいた町をめちゃくちゃにしてしまったんだ。
誰かを探しているみたいだった。
誰?
怯えている僕の腕の中から、小さな温もりがするりと抜け落ちた。
「!」
僕を抱き締めている母さんの体が、恐怖で一瞬凍り付く。
きっと僕も同じだったと思う。
その温もりは、大切な大切な。
僕の、大切な。
「………………………………ラ…………キラ……」
違う。
それば僕の名前で、あの温もりは。
体温を分け合って眠った、同じ顔で違う髪色の、あの子の名前は。
名前は?
「―――キラ!」
はっ、と突然世界が変わる。
「…良かった。起こしてごめん、でもお前、魘されてたから」
「……………」
目の前にはアスランの顔。ホッとしたように、僕の肩を掴んでいた手を離した。
……?
キラは一瞬、浴衣姿のアスランにとてつもない違和感を感じた。それは彼が和服を着ているという問題ではなく、戦場のはずのこの場所
でなぜこんなに悠々としているのか、どうしてここにアスランがいるのか、という種類のものだったが、じわじわと思い出してくるにつれ、
あの戦場は夢だったのだと気付く。
目の焦点をアスランから外してもっと後方に当て、見回してみる。
前にディアッカの舞踊を見せてもらった時に入った部屋に似ている。そう、床は畳で、靴を脱いで上がる部屋。ベッドではなく布団で、
人数分敷いてあるようだが、アスランの向こう側には誰もいないようだった。
きょろ、と首を回すと、襖が見える。通気のためか開け放たれた向こう側は、普通に洋室のつくり。…そうだ、このロッジは襖を境にして
和室と洋室がくっついているような間取りになっているんだった。最初に部屋に入ったとき、みんなで面白いだの可笑しいだのと談笑した
のだ、そういえば。
急速に温泉でのぼせて倒れたことも思い出して情けなくなり、キラはじっと見つめてくるアスランの視線からとにかく逃れようとした。
だが、寝返りを打とうにも動けないことに気付く。
腰のあたりとお腹のあたりに、暖かいぬくもりと、しっかりした重み。
夢で失ったあのぬくもりと、どこか似ている。
「………あれっ」
腰に絡みついているのはニコル、お腹のあたりに腕を回しているのはイザーク。二人共、キラをとっ掴まえたまま眠ってしまったような
状態。
「場所取り合戦のなれの果て、ってね。上から重いモンかぶさってたら悪い夢見るっていうから、どかそうとしたんだけどな」
優しいディアッカの声が背後から聞こえる。
そしてそっと、頬にキスされた。
「おはよ。キラ。目ェ覚めたか?」
「…う、うん………」
じろっ、と厳しい視線がキラを通り越して後ろへ行くが、射貫かれた本人はちっとも堪えていない様子でひょいと肩をすくめた。
「そンな睨むなよ。お前ってほんっと独占欲強いよなァ。キラ、あんな粘着質なヤツやめてオレにしろって」
「ディアッカ!!」
二人のやり取りに思わずクスッと笑ってしまうと、二人も途端に雰囲気が緩んだ。
「…な、キラ。お前が何ためこんでんのか知らねーし、ストライクの試験の時、騙し討ちみたいなことしたのは悪かった。だから無理には
聞かねえけど。…お前にはオレ達がいるんだって事、忘れねぇでくれよ」
「俺も、無理に話せとは言わない。でも、話してくれたら嬉しい。どんな小さなことでも、キラと共有したいんだ」
「…えっ」
突然そんなふうに真剣に切り出されて、キラのほうが戸惑ってしまう。
けれど、ディアッカはそっとキラの髪を指で梳いて、アスランはそっと頬に手を添えて。
「こんな夢見て怖かったとか悲しくなったとか。会ってない間に何があったとか。オレ達のした事で腹立ったこととか嫌だったこととか、
何が嬉しかったとか。そういうの全部、話してくれたら嬉しいってこと」
「お前には俺がいる。…みんながいるから」
「……………アスラン………ディアッカ………」
優しく微笑んで、暖かいキスをくれて。
もう、どんな夢を見て魘されていたかなんて、忘れてしまった。
怖い夢なんかより、ここにあるこのぬくもりこそが大切。
かけがえのない、大切な人。大切な人達。
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キラの夢に現れたのは、次章ではっきりしますが、ストーリーに支障ないので言っちゃうとカガリのことです。
でもここにしか出番はないんですけどね(^^;)
一応、二人は双子(一緒にお母さんのお腹から産まれた双子)で、このテロが原因で離れ離れになった…という裏設定だけは作って
あります。