アカバナルリハコベ と  ルリハコベ    
Anagallis arvensis. f. arvensis   Anagallis arvensis f. coerulea

両種の花とも、とてもエキゾチックな雰囲気があります。 「日本の帰化植物」(平凡社)で学名をみますと、

  アカバナルリハコベ Anagallis arvensis f. arvensis
   ルリハコベ      Anagallis arvensis f. coerulea


アカバナルリハコベが母種で、ルリハコベはその品種となっています。 和名では「ルリハコベの赤い花」というような名前が付けられていますが、学名で外国のサイトを検索してみますと、ほとんど赤い花の画像が出てきます。 名前もイギリスでは、scarlet pimpernel (紅ハコベ)とか、red chickweed (赤ハコベ)、フランスではmouron rouge(ムーランルージュ)などと、赤い花に由来した名がつけられています。 小説の題名となった「紅はこべ」はこの花だということです。 (写真 1) 

一方、ルリハコベ (写真 2)は「西南日本に多く、琉球ではふつうの雑草で、自生と考えられている(北村四郎)が、・・・帰化の可能性がある」(日本の帰化植物)と書かれており、ルリハコベも帰化植物だろうと思っていただけに、「自生と考えられている」という事に少し驚きました。

ヨーロッパでの両種の分布は、「地中海沿岸で濃青色のものが多く、北に行くに従って赤花に置き換わる」そうです。 日本でも、瑠璃色のものより、赤花の方が北に咲くようです。


アカバナルリハコベとは、変な和名に思えます。 理由を考えてみますと、日本では瑠璃色の方は、昔から咲いていたので、“ルリ”ハコベと言う和名が先につけられていて、のちに母種が日本に帰化し、こちらを新たに“アカバナ”ルリハコベと名付けたのではないでしょうか。

また アカバナルリハコベは、poison chickweed (毒ハコベ)とも呼ばれているようで、沖縄では昔、ルリハコベを、魚やタコなどを捕るための、魚毒(ササ)として利用していたそうです。

写真 1 アカバナルリハコベ 写真 2 ルリハコベ


 1.花のつくり

花をアップで見ますと、雌しべと雄しべの位置が離れています。 自家受粉を防ぐためでしょうか。  (写真 3・4)

このような位置関係で、めしべが離れている花としては、ベニバナセンブリ・ハナハマセンブリがあります。 花を開いて、まず昆虫を待ち他家受粉を行う。 夕方になったら花を閉じて、自家受粉をしてしまう。 こんな2重の戦略をもった花ではないかなと思いました。

写真 3 アカバナルリハコベの雄しべ・雌しべ 写真 4 ルリハコベの雄しべ・雌しべ


また雄しべには長い毛がはえています。 顕微鏡で見ますと細胞が一列に並んでいます。 (写真 5) 雌しべの柱頭には、先が少し太くなった小さな突起がたくさん見られ、花粉を受け取りやすくなっています。 (写真 6)

写真 5 アカバナルリハコベ 雄しべの花糸の毛 写真 6 アカバナルリハコベの柱頭

花粉は楕円形で、ちょうどラグビーボールのような形をしています。 (写真 7)

写真 7 アカバナルリハコベの花粉


花弁の上部の縁に、先が丸くなった細かい毛がほぼ等間隔で生えています。 顕微鏡で見ると、腺毛のような感じです。 なぜ、このような腺毛が生えているのかはわかりませんが、昆虫を誘うためなど、きっと何か意味があるのでしょうね。

花弁の細胞には、それぞれ橙色と瑠璃色の綺麗な色素が見られました。 (写真 8〜11)


写真 8 アカバナルリハコベの花弁

写真 9 アカバナルリハコベの花弁の腺毛

写真 10 ルリハコベの花弁

写真 11 ルリハコベの花弁の腺毛


 2.果実

果実のできかたも面白く、花後しばらくは果枝がくるりと曲がって、ちょうど葉の裏に果実を包み込むような感じになります。 (写真 12) 果実が大きくなってゆくにつれて、果枝をまっすぐに伸ばし、葉から離れてゆきます。 (写真 13) 

写真 12 アカバナルリハコベの花後 写真 13 アカバナルリハコベの果実


果実は直径約 4mmほどで、みごとな球形をしています。 果実が成長してくると赤道面に一本の筋が入ります。 (写真 14・15) 

写真 14 ルリハコベの果実 写真 15 アカバナルリハコベの果実


果実が熟すと真二つにパカリと割れて、中から1.2mmほどのゆがんだ楕円形の黒っぽい種子を散布します。 (写真 16・17)  

写真 16 パカリと割れる果実 写真 17 アカバナルリハコベの種子 (スケールは0.2mm)


                                                                           (2008.5.11)

 【 参考文献 】
   ・長田 武正       1976 「原色日本帰化植物図鑑」 保育社
   ・畔上 能力 編    2000 「山渓ハンディ図鑑・山に咲く花」 山と渓谷社 
   ・清水 建美 編    2003 「日本の帰化植物」 平凡社




  TOP      なかなかの植物ルーム     BBS