第四十一話 魂帰湧金門
続く杭州戦、南軍への使者に立った張順は湧金門で兄弟たちの見守る中矢ぶすまとなり、時遷は石臼の下敷きとなり絶命した。乱戦の中、阮家三雄がほう万春を斬ったが、妹の秋霞は乱戦の中で討ち死にする。逃げる方貌を追った王英、扈三娘も返り討ちに遭い、折り重なるように命を落すが、張横が弟の仇にとどめを刺す。続く烏龍嶺戦でも偵察に出た解兄弟が墜死する。

まだ平和的解決に未練を持つ宋江は再度会見を行なう書状を方臘に渡したいと呉用に図るが、呉用は使者に立った者の命が危険すぎると反対する。呉用は「人にはそれぞれ考え方があり、方臘には帰順する意思はないでしょう。」と宋江を諭すが、宋江は「もう一度仁義を尽くしてみてだめだったら戦いに入ればよい」と言い張る。張順は使者に立つことを志願する。岸辺で宋江らに別れを告げ、ひとり舟に向かう張順。張横は笠を張順に被せてやり、「気をつけてな」と言い、弟を送り出した。張順はゆっくりと舟を漕ぎ出した。

湧金門の水路は大柵でしっかりと塞がれていたが、門上に人影はなかった。張順は使者の名乗りを上げるが、湧金門はしんと静まり返っているだけ。宋江の手紙をかざし、再度張順は隠れている守備兵に開門を促すが、誰もこれに応じない。遂に張順は水門をよじ登ってこれを突破する事にした。張順が水門の半ばまでたどり着いたとき、いっせいに守備兵が門上から手に弓箭を手挟み、顔を覗かせた。一瞬凍りつく張順。方貌の号令一下、矢は放たれた。張順は身に矢を受けつつ水面に飛び込み難を逃れようとするが、縄をつけた巨大な鈷に刺され身動きが取れなくなってしまい、宙吊りにされる。そこに雑兵の放った矢が雨あられと注ぎ、張順は針鼠のようになって息絶えた。
そのさまを岸辺から眺めていた張横の絶叫が響いていた。方貌は宋江に「兄の皇帝はもう話し合いに応じる気はない」と大声で叫んで聞かせるが、茫然自失としている宋江にはもうその声が聞こえているかさえ疑わしかった。
張順の仇を取り急ぐかのように、泊軍は湧金門を大砲を用いて攻めた。砲火に曝され、炎上する湧金門。一方、盧俊義は騎歩の兵とともに陸から杭州城門を挟撃する形で攻める。先鋒にたった時遷は敵兵を深追いしすぎ、城門の兵馬溜に追い込まれ、進退極まったところ頭上から磨石を降り注がれ、下敷きになって絶命した。 
泊軍は雲梯を用い、死をも顧みず城壁をよじ登り、杭州城内に入っていく。兵を叱咤していた防将のほう万春は花英の放った一箭に胸を射られ、奥に担ぎ込まれた隙をつき、泊軍は城門を登り一斉突撃。たちまち大乱戦に。

負傷したほう万春は担ぎ込まれた先で阮家三雄と遭遇、刃を交える。妹の秋霞は兄を援護しようと飛び出していくところを李逵に止められる。阮家三雄と切り結びながら、ほう万春は秋霞に逃げろと叫ぶ。李逵もあの三人には抗すべくもないと秋霞を諭すが、兄の斬られた姿を見て秋霞は李逵の制止を振り払い、阮家三雄に立ち向かっていく。
「やめろ〜!!」誰に対して叫んだのか解らぬ李逵の絶叫もむなしく、秋霞は戦場の露と消えた。李逵はしばらく茫然としてその場に立ちつくす。阮家三雄の呼ばわる声に我に返った李逵は、喚きながら板斧を手に南軍の雑兵を片っ端から斬っていった。
落ちていく方貌を見つけた扈三娘は王英とともに馬を急かせて追撃し、方貌を紅錦策で引っかけたものの、方貌が力任せに錦策を引いたために落馬する。王英は扈三娘を助けようとして命を落とし、扈三娘も方貌の乗馬に踏まれ、王英と重なるようにして落魄した。
しかし、方貌は弟を失って鬼神となった張横の投げた大刀に背中から貫かれて絶命。乱戦の末、杭州城は泊軍の手中に落ちたが、泊軍の被害もまた甚大だった。
一将功成り、万骨枯る
って、こういうことなんだな・・・。頭領たちが死んでいくのもすごく悲しいけど、兵士達が痛み苦しんでいるのを見てるのもとても苦しい。同じ心の兄弟たちだもの、同じに大切だよ。多分それは敵側も・・・・・・
官軍サイドでは、南伐の総大将、張叔夜が更迭されることになった。替わって総大将となったのは童貫。最期に勝ちを攫っていこうとする魂胆見え見えの交代劇だった。

方臘の篭る青渓城へ行く道を阻む烏龍嶺は断崖絶壁、天嶮の地。盧俊義は烏龍嶺攻めの指揮をとるが、物見に立った解珍と解宝がこの絶壁を攀じ登る途中、南軍の奇襲にあい、墜死した。嶺の上から落とされる刺のついた撞木で退陣を余儀なくされ、一敗地にまみれる泊軍。
こんなになっても彼らにとって宋江は、敬愛すべき我らが兄貴なのらしい。たとえどんな道だろうと、兄貴が行くと決めたなら、死力を尽くしてその道を開くのがまた彼らの生きる道でもあるのだ。ついていくと誓ったから、約束は違えない。
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