アジア大豆カビ、アメリカ大豆協会が最大限の侵入防止措置要求

農業情報研究所(WAPIC)

04.4.22

 2000年に南米に侵入したアジア大豆カビがますます広がり、気象要因とともに収穫を左右する重大な要因となってきたようだ。独立アナリストは、ブラジルの03/04年大豆収穫量の予想を下げ続けている。今年始めの予想は5,970万トンだったが、2月には5,657万トンに下げ、現在では5,228万トン、それでも03/04年の最高記録・5,142万トンは上回る。しかし、さらに400万トン下がるかもしれないという。作付け面積は前年より15%も増加、2,100万haにも達したが、先週までに収穫された43%の作物について、平均収量はha当たり2.49トン、昨シーズンの2.81トンから10%以上落ち込んでいる。最南部のGM大豆栽培で知られるリオ・グランデ・ド・スール州は旱魃のため、中西部・ゴヤース州はアジア大豆カビのために重大な損害を受けているという(Weather,rust hit Brazil soya forecast,Soyatech.com(From Agra Europe via NewsEdge),4.20)。

 最大の大豆生産国・米国がこのカビの侵入は時間と警告されていることは以前に報告した(⇒世界のパン籠に迫るアジア大豆カビの脅威,03.3.26)。米国農務省(USDA)も対応を迫られている。しかし、最も有力な伝播経路と見られているのは、カビの胞子がハリケーンに乗って運ばれることだ。これは防ぎようがない。できることは限られているが、適切な侵入防止策を作るために、3月12日、動植物衛生検査局(APHIS)は大豆・種子・ミールの輸入による米国へのこのカビの侵入に関連したリスクに関する科学的証拠と題する文書を発表、4月12日までコメントを受け付けてきた。APHISは極めて楽観的で、このような経路で侵入するリスクはほとんどないしている。

 だが、大豆生産者には納得できなかったようだ。アメリカ大豆協会(ASA)は、コメント期間を過ぎた今も、侵入防止のための適切で、「科学に基づく」措置を要求し続けている(ASA again urges action to avoid introduction of soybean rust,World-Grain.com,4.21)。このカビがもたらす損害は、最大限の予防措置を講じるに値すると考えているようだ。 

 ASAによれば、アジア大豆カビは、今年ブラジル全土に広がっており、パラグアイやアルゼンチン北部にも伝播している。ブラジルの専門家は、ブラジルの今年の損害は去年より大きく、収量損失は400万トンに達し、これに殺菌剤散布の費用が10万ドルかかると見ている。

 大豆輸入に伴うリスクをゼロにする方法は、船積み前に熱で殺菌することだが、ASAは、これでは油や蛋白質、アミノ酸の品質が落ち、コストも高くつくと言う。原産国で相当期間貯蔵すればカビ胞子は死滅するとされているが、その期間がどれだけならばよいか分かっていない。APHISは今これを確かめる実験を行っている最中で、ASAはこの実験が完成するまでは、ガイドラインを出すべきでないと言う。

 大豆ミールについては、APHISは適切に扱えばリスクはないとしている。ASAは、胞子をすべて殺すために圧搾過程で充分な時間と温度で熱し、また荷揚げ・輸送の間に再汚染を防ぐ適切な措置が取られねばならない、さらに圧搾工程の前に大豆の殻や異物を取り除くとすれば、これらはミールの積戻しの前に胞子を殺すために加熱しなければならないと言う。

 種子については、高度に洗浄を受けているとして、APHISはリスクを否定する。だが、ASAは、洗浄が確実かどうか、輸入される荷のスポット・チェックをなすべきと言う。収穫してすぐに米国に空輸する南米の慣行からして、洗浄された種子にさえ生きた胞子が存在する恐れがあるいう。

 2003年の干ばつと記録的輸出・国内需要増大で、米国の大豆在庫は30年来の低さとなっている。このために、USDAは43万トンの大豆ミールの輸入が必要になるとしており、ブラジルが調達先の一つをなそう。ASAは、アジア大豆カビによる収穫損失と追加コストの巨大さを考え、「連邦政府は米国へのこの病気の侵入を最小限にするか、防止するための適切で、科学に基づく措置を取らねばならない」と言う。

 何やらBSEなみの扱いであるが、これは大豆を輸入に依存する日本や多くの国々も無関心でいられない問題だ。南米の大豆モノカルチャーの展開が世界の大豆生産を大きく拡大してきたが、このような生産方式の持続可能性を問う動きも強まっている。日本も「大豆安全保障」を緊急に考える必要がありそうだ。

 農業情報研究所(WAPIC)

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