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インド:ヴァンダナ・シヴァ「農業を持続可能で、公平に」

農業情報研究所(WAPIC)

02.10.4

 インド・ニューデリーの「科学・技術・環境科学研究基金」の理事を努める科学者であり、環境・農業食料・女性問題などに関する活動の世界的リーダーの一人であるヴァンダナ・シヴァが、10月3日付けの”The Hindu”紙で「農業を持続可能で、公平に」と訴えている(OpinionMake farming sustainable, equitable(By Vandana Shiva) ,The Hindu,10.3)。

 食料と農業の将来に関する二つのパラダイム

 まず、彼女は、食料と農業の将来に関して二つのパラダイムが争っていると言う。一つは、大規模な工業的農業による非持続的生産を基礎とするもので、モンサント・シンジェンタ・ダウ・デュポンのような一握りの巨大バイオテクノロジー・農芸化学企業が独占する高価なハイブリッド・遺伝子組み換え(GM)種子と、カーギル・ADM・ペプシコのような一握りのアグリビジネス企業がコントロールするグローバル化した貿易を伴なう。もう一つは、低コストで、貧しい生産者にも可能な小農場、エコロジー的・有機的な内部投入システムに基礎を置く。貿易・分配・食糧安全保障の原理は、家庭からコミュニティ、地域、国、世界のレベルに上昇するから、グローバリゼーションではなく、ローカリゼーションである。工業的で、大規模で、グローバル化された食料システムは持続不能であり、経済的不平等と食糧安全保障失敗の源泉となる。それは、また、生産のレベルでも、分配のレベルでも、偽りの経済に基礎を置いている。

 偽りの経済は生産レベルの似非生産性に基礎を置く、トータルな生産性は小規模農業が勝る

 工業化され、グローバル化されたシステムの偽りの経済の基盤は、生産レベルにおける似非生産性である。工業的技術を農業に広めることを正当化する最も行き渡った理由は「高効率」と「高生産性」であるが、このようなシステムはトータルな資源利用、トータルな産出では生産性は低い。小規模な多様な生物に富む農場の生産性は、資源利用効率、単位面積当りのバイオマスと栄養の生産ではるかに勝る。工業的農業の人工的に造られた「効率性」は、高度の資源投入を計算から除外し(また労働にのみ焦点を当てる)、単一の商品の「収量」にのみ焦点を当てて、生物多様性に富む農業の多様な産出を無視することから生じるものである。

 この偽りの生産性の計算は、工業的農業・農薬・遺伝子組み換え体(GMO)なしでは世界を養えないと主張するために使われている。しかし、飢餓と貧困の解決策は、より少ないエネルギーと資源を利用することにより資源を保全し、投入コストを減らし、単位面積当りの栄養産出を増やすエコロジー的で、有機的で、生物多様性に富む小農業である。

 IMF/世銀の構造調整プログラムやWTOの貿易自由化ルールの下での農業のグローバリゼーションは、投入コストを引き上げ、産出物の価格を引き下げることで、農民所得の低下につながっている。

 収量に関する種子企業の偽りの主張

 種子を貯える開放的な花粉媒介農業から更新不能なハイブリッド/GM種子へのシフトは、ひどい低収量、高レベルの農業負債を引き起こし、農民の自殺を誘発してきた。種子の値段が高いだけではない。毎シーズン購入しなければならないし、種子と共に高価な農薬も買わねばならない。グローバル化体制の下、インド農民は種子と化学物質に1.32兆ルピーを投じている。これらのコストがGM種子により創りだされる「スーパー雑草」や「スーパー害虫」によって上昇することも確実である。さらに、種子/バイオテクノロジー企業の収量に関する主張は、通常、偽りであり、誇張されている。例えば、モンサントがラジャスタン州の砂漠地帯で推進しているトウモロコシ計画では、広告パンフレットはヘクタール当り収量が22‐50トンとしているが、モンサントの現場スタッフは3トンと言い、圃場のデータでは1.7トンにすぎない。同様に、モンサントは、インド農民がGM Btコトン種子を要求していると世界に宣伝しているが、マハラシュートラ州での収穫の完全な失敗のために、農民は50億ドルの損害の賠償を求めて政府と企業を訴えている。Btコトンはマディア・プラデーシュ州、グジャラート州でも失敗している。収量に関する偽りの主張とならび、グローバル化した経済は、生産コストを反映しない偽りの価格にも基礎を置いている。

 グローバル企業と民間利潤への「補助金」を廃し、公共財・サービスの「支援」の強化を

 国内農業の輸入歪曲に関する論争を避け、補助金だけを論じようする試みがある。しかし、これは持続可能な農業へのシフトのためには不適切である。第一に、それは輸入を制限する必要性と、隠れた補助金を許す「デカップリング」の永続という決定的な二つの問題を無視している。第二に、それは「支援」と「補助金」を混同している。

 支援と補助金は区別しなければならない。支援は、資源保全、エコシステム、家計、文化の保護、公衆衛生のような公共財・サービスへの公的支出である。支援は社会システムを支えるために不可欠である。補助金は民間の利益と利潤を増やすための政府支出である。それは不可欠なものではなく、偽りの、歪曲された価格の原因である。支援と補助金をわざと混同することにより、アグリビジネスは持続可能な農業のための社会的支援と、農民及び貧しい消費者のための公正な価格を崩壊させようとしている。これは、家計・食糧・エコロジーの安全保障を破壊する。

 グローバルな貿易・金融機関からの条件づけ(コンディショナリティ)は、適切なで栄養のある食べ物が得られるように政府が貧しい者を支援することを妨げ、人々から補助金を取り上げて企業に振り向ける。人々は、補助金の廃止のためにs当り11.30ルピーでの小麦や米の購入を余儀なくされ、カーギルのような輸出企業が高度に補助された価格で小麦や米を手に入れる。

 これが、グローバリゼーションが第三世界の飢餓と、食糧不足を引き起こしているやり方である。貧しい者への食糧補助をやめ、補助金を輸出に振り向けることで利益を得てきたのは、ペプシやカーギルのような巨大貿易企業である。ペプシは、2002年、インドから10万トンの米を輸出して1220万ドルの利益を得たが、インドの人々は食糧不足に直面した。

 いまや、世界中の市民が、税と公的資金は、グローバル企業と民間の利潤の補助のためではなく、公共財の強化に利用されねばならないと主張すべきときである。

 なお、ヴァンダナ・シヴァのこのような主張については、さらに詳しくは、わが国でも最近翻訳された著書(松本丈二訳)『バイオピラシー:グローバル化による生命と文化の略奪』(緑風出版、2002年6月)を参照されたい。

 関連情報
 インド:ヴァンダナ・シヴァ、直接支払いは持続可能な農業の道を妨害,02.4.23