農業情報研究所

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フランス:農民・エコロジスト・消費者連合のEU新農業政策に向けての提案

農業情報研究所(WAPIC)

02.8.2

  先に予告されていた(EU・フランス:農民同盟、CAP改革案は「革新的」でも「革命的」でもない,02.7.15)フランスの農民・エコロジスト・消費者連合のEU新農業政策に向けての提案が発表された(En route vers une nouvelle politique agricole dans l'Union Européenne,2002.7.15農民同盟ホームページ参照)。以下にその前文及び総括の部分を翻訳紹介する。提案は、農業政策の目標は、いまや生産性増加と生産費の不断の引き下げを恒常的にめざすことではなく、農業生産物の品質(多様性・味・安全性確保)・自然と環境の保護・動物福祉・農業雇用の創出と維持でなければならず、それにより均衡の取れた国土整備・魅力的で生き生きとした農村世界の保全も可能になるという。それは、WTOの枠内での農産物貿易自由化政策を告発し、生産競争を止め、農民の報酬を改善するための農産物市場の組織化(食糧主権の原則と農業保護権の国際協定による承認、EUの国際市場征服戦略と経済的ダンピングの放棄、生産制御手段の永続化・改善・拡張、国家による関税保護と品質基準適用の権利)を要求している。また、持続的農業生産システムと工業的生産変更を支援し、中小経済規模の経営を優遇するように公的農業支援の配分を改め、直接援助をエコロジー的・社会的基準に基づいて調整すべきことを提案している。

EUにおける新たな農業政策に向けての途上で
(En route vers une nouvelle politique agricole dans l'Union Europeenne)
2002年7月15日

 農業雇用を保証する所得を提供し、消費者全体が接近できる品質の生産物を生産する持続的農業のため、
 生物多様性と自然資源の保全のため、
 農業とすべての社会構成員との提携(パートナーシップ)のために。

1)前文

 この綱領を貫き、署名諸団体は、多様化され・自然と環境を尊重し・消費者全体に高品質の生産物を提供する農業を支えるために、ヨーロッパの農業政策の根本的な進路変更のための提案を表明する。この変更は、EUの中東欧諸国(PECO)への拡大と南北関係に直接的に影響を及ぼすであろう。

 署名者は、予め、この農業方式が工業的タイプの農業の開発と両立できないことを確認する。人間的規模の農場で生活する多数の農民なしでは、これらの目的は達成できないであろう。

 綱領は、市場管理機構と様々な性質の公的支援を通じて農業開発の形・経営の持続性・生産物の品質・生産方式・環境影響・国土整備を条件づけるヨーロッパ農業政策の諸側面に焦点を当てる。この提案は、1999年にアジェンダ2000の枠内で採択された共通農業政策(PAC)の改訂をめざす。ベルリン協定により2002/2003年と定められたPACの中間見直しは、これらの提案の方向に進む非常に明確なシグナルを送るものでなければならない。

 署名者は、農業方式が国家または共同体のその他の諸規定・ルールにも服することを知っており、ヨーロッパ農業の完全な改革のためにはそれらの変化も必要である。例えば、農村法・獣医立法・動物福祉・環境法・新たな農民の(経営主としての)自立に関する国家政策などである。署名者は、後日、これらの変更のための提案も作成するであろう。

総括

 近年連続した衛生上の危機(狂牛病、口蹄疫等)は、ヨーロッパ市民のPAC行き詰まり意識を強めた。

 PAC創設時に定められた目標は、現在では時代遅れのものになっている。もはや、生産性増加と生産費の不断の引き下げを恒常的にめざす必要はなく、農業生産物の品質(多様性・味・衛生保障)・自然と環境の保護・動物福祉・農業雇用に関する社会の要請に応えねばならない。そのような目標は、均衡の取れた国土整備・魅力的で生き生きとした農村世界の保全と両立する。

署名団体の要求は以下の通りである。 

1.生産競争を止め、農民の報酬を改善するための農産物市場の組織化

 署名団体は、OMC(WTO)の枠内で調印された諸協定に対応するために開発された農産物貿易自由化政策を告発する。今日、市場はそれだけで飢餓の根絶、高品質農業の普及または永続化、多数の農業者の自立を可能にするものではないことが立証されている。世界南北の小農業者は世界市場で人為的に低く維持される農産物価格の中心的犠牲者となっている。それこそ、署名団体が次のことを要求する理由である。

 「世界の諸国全体のための食糧主権の原則と農業保護権の国際協定における承認及び書き込み」。

 「諸国の食糧主権を守り、南の小農業者に損害を与える過剰生産物の輸出を終わらせ、ヨーロッパ農業の生産性至上主義の流れを止め、生産物の販売による農業者の報酬の改善を促すために、国際市場征服戦略と経済的ダンピングのEUによる放棄。EUは、結果として、その輸出補助金を放棄し、既存の生産数量制御(特に牛乳生産割当て)の手段を永続化し、改善しなければならず、現在は制御されていない生産物(食肉・穀物・果実・野菜等)についても生産数量制御措置を設けねばならない。

 「諸国家と諸国家の共同体のための、農産物及び食料品に関する関税保護及び品質基準の適用の権利の承認。諸国家または諸国家の集団は、一定の生産物の輸入を、特に規制や地方的倫理に反し・予防原則または生産者と消費者の権利を尊重しない生産方式(ホルモン、遺伝子組み換え体等)を理由に、拒否できなければならない。生産物や生産方法についての質的基準のこのような斟酌は、生産者と消費者にとって死活的に重要であり、OMC(WTO)条約に統合されねばならない。

2.中小経営による「持続的」農業を優遇するように、公的支援の配分を見直し、改善すること。

 農業に対する公的支援は、持続的農業に属する生産システム、集約的生産の変更を支援し、中小経済規模の経営を優遇しなければならない。同様に、すべての直接援助は、経営の拡大と工業化を挫くために、就業者当たりの上限を設けねばならない。これら直接援助は、法的規準を超え、農村空間及び人間的規模の農場における雇用を創出または維持する人々を奨励するために、エコロジー的・社会的基準に関連して調整されねばならない。

 PACの水平的規則の枠内で、二つの手段が優遇されねばならない。

 a.援助のモジュレーション(調整、加減)は、ヨーロッパ農業経営間の社会的平等の原則そのものに従って行なわれねばならない。すべての直接援助がこのようにして上限を画され、経営の面積及び就業者数に応じて漸減させねばならない。援助のモジュレーションの目的は、農業予算の中小経営優遇配分を可能にするために、経営の拡大と工業化を抑制することである。

 b.援助の環境条件付けの原則は、環境に関する主要な目標にターゲットを絞り、すべての共通農業市場組織に、またこれらに制限することなく様々な特別な措置や慣行に拡張されねばならない。環境及び衛生規則を遵守しない場合、また環境条件付けによる環境上の要求に合致しない場合、EU各国により、直接援助・様々な奨励金・生産割当・様々な信用供与の部分的または全体的取り消しにより罰せられねばならない。

 最後に、署名団体は、トウモロコシ・サイレージ奨励金を単一の飼料用作物奨励金に置き換えること、及びヨーロッパの経営の蛋白質(飼料)における自立を助長する行動計画の実施を要求する。EUは家畜飼料全体の輸入に対する十分な保護を早急に課するために闘わねばならない。このようにして、草及びマメ科植物の栽培者にもたらされた損害を回復し、生産の集約化と工業化の過程を停止させることができる。

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