農業情報研究所


EU・フランス:農民同盟、CAP改革案は「革新的」でも「革命的」でもない

農業情報研究所(WAPIC)

02.7.15

 6月10日に発表された欧州委員会の共通農業政策(CAP)改革案(EU:欧州委員会、共通農業政策見直し案を発表,02.7.11)に対して、EUのほとんどすべての農業者団体が強硬に反対している。例えば、中心的なフランスとドイツの農業者組織(FNSEAとDBA)は、改革案に反対して同盟すると決定、提案は一層手厚く補助されるようになった米国農業者に対抗するEU農業者の競争力を削ぐと論じ、現在の予算に関する合意が期限切れとなる2006まで、CAPは改革されてはならないと言っている(COMMUNIQUÉ DE PRESSDéclaration commune FNSEA - DBV concernant la proposition de révision à mi-parcours de la PAC,7.10)。彼らが恐れるのは、既得権の喪失である。しかし、同じ反対でも少数派農民団体の反対理由はまったく異なる。彼らは、欧州委員会の提案は改革の名に値しないと批判、一層徹底した改革を要求している。それはこれ以上の動物福祉・環境・食品安全のコストの負担を拒否する主流団体とはまったく正反対の主張である。その一例として、フランス農民同盟(CP)の主張を紹介する。以下は、CPが欧州委員会の提案についての見解として発表したLe grand bluff de la PAC Verte ou la fausse illusion du découplage des aidesと題する文書の前文の要約である。

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 フィシュラー委員による提案は、メディアが喧伝するように「革新的」でもなければ、「革命的」でもない。それは、「生産至上主義農業」に背を向けるどころか、1992年に採択され、1999年にベルリンで改革されたCAPの哲学を直接引き継ぐものである。すなわち、それは、何よりも、ヨーロッパ農業の「輸出」の使命を支持する。農産物価格の低下を促進し、また援助をWTOが発明した有名な「グリーン・ボックス」に移し(デカップル)、WTOに対して農業支持を正当化することによってである。ところが、世界市場価格の低下は、豊かな国が行なうような農業者支持をなし得ない貧しい国の発展を阻害する。同様に、ヨーロッパの援助は、ヨーロッパの農業者がダンピング国際市場を作り出す原価以下の価格で輸出することを可能にするという理由だけでも、途上国農民階級の破壊に寄与することになる。

 従って、環境に関する条件づけと農村開発政策の強化という「木」は、何よりもヨーロッパの輸出的「農産業」のために作成される農業政策という「森」を隠すためのものである。援助のデカップルと環境条件づけは、援助された部門に関係するだけで、工業的生産(特に家禽、豚、果実・野菜)には何の関係もない。農民について言えば、年に3%という速まった速度で消滅を続け、不断に大規模化する経営の機械に取って代わられる。

 欧州委員会が提案するのはアメリカのシナリオである。実際、それは1996年から2001年までに米国で適用された「ファエア・アクト」に近い。ところが、この「フェア・アクト」は米国が経験した農業の最悪の災厄をもたらした。それがもたらしたのは、過剰生産の危機、生産者価格の仮借なき低下、前例のない経営破産(5年間で少なくとも17%の経営)、例外的援助の恒常的採択、農業予算の歴史的増加である。

 そのような政策の採用がヨーロッパの消費者と市民の要求に適切に応えるものなのか。農民同盟は「否」と考える。

 1992年の改革と同様、提案された変化は、生産至上主義農業に背を向ける持続的農業の方向に進むものではない。CAPは、緊急に、真の改革を必要としている。

 他方、農民同盟は、農民・エコロジスト・消費者同盟に結集した多くのパートナーとともに、ヨーロッパを新たなCAPのルートに乗せるための革新的提案を策定した。その最終的バージョンは、数日後には見られるようになる。
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 文書はこのように述べた後、このような主張の根拠を詳述し、また農民同盟の立場を、雇用を重視した援助、生産物と国のタイプに適合した関税障壁の利用による農業助成、多国籍企業と国際貿易を利するだけの大規模経営への不公平な援助配分の是正、市場管理を完全に放棄した上での補償援助ではなく・価格による報酬に基礎を置く行政の簡素化、(環境尊重を唄う)工業的タイプの農業ではなく・均衡の取れた国土整備・活気ある農村・高品質生産に真に寄与する「農民的農業」の認証の5点に要約している。

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