農業情報研究所


EU:欧州委員会、共通農業政策見直し案を発表

農業情報研究所(WAPIC)

02.7.11

 7月10日、欧州委員会がアジェンダ2000の枠内で改革された共通農業政策(CAP⇒アジェンダ2000のCAP改革)の中間見直しを提案した(Communication from the Commission to the Council and the European Parliament:Mid-Term Review of the Common Agricultural Policy )。2005年末までの定められた財政枠組みを維持しているが、予想された通り(EU:フィシュラー委員、野心的CAP改革案、実現の見通しは闇,02.6.26)、「中間見直し」の言葉から想像される微調整の枠を越えた野心的提案となっている。取りあえず提案内容の概略を示しておく。

1.直接援助のデカップリング(生産との切り離し)

 農場ごとのデカップルされた単一の、過去の支払い実績に基づく所得援助支払の導入。この支払は、第一ステップでは、従来の耕種作物(穀物・油料種子作物・蛋白作物)だけでなく、牛肉、羊肉、穀粒豆、スターチ・ポテトもカバーする。コメ、デュラム小麦、飼料用乾草もこの制度に統合される。その他は後に統合する。牛乳については、当面、アジェンダ2000の決定に変更はない。支払は法定の環境・動物福祉・食品安全基準の遵守に応じて条件づけられる(クロスコンプライアンス)。当面、なお生産と切り離されていない作物が残存することになるが(果実・野菜、砂糖)、デカップルされた支払を受ける農業者は、例外を明記されていないかぎり、これらの作物についても「柔軟に」対応する(生産割当、作付権などの市場支持制度のルールは当然適用される)。一農場が受け取ることのできる全支払額は、農場の一部が販売されるか貸し付けられるときに支払の部分的移転を容易にするために、いくつかの部分に分けられる。

2.環境・食品安全・動物福祉・農業者安全の基準の強化

 上記のクロスコンプライアンスは地域差を考慮しなければならないが、競争条件の平等化のために基礎的な実施基準が確保されねばならない。そのために、EU構成国は、欧州委員会が策定する共通のフレームワー,クに従って、基準を定め、執行する。クロスコンプライアンスの要件が遵守されない場合には、直接支払は、リスクや損害の応じて減額される。

3.新たな農場監査システムの導入

 動物福祉・環境・食品安全・農業の安全に関する基準の遵守をチェックするために、農場監査システムを導入する。すべての経営での導入が望ましいが、一ステップとして、年間5,000ユーロ以上の直接支払を受け取る生産者に義務づける。

4.環境のためのセット・アサイド(休耕)

 耕作地に強制的な長期(10年)セット・アサイドを導入する。直接支払を受けるためには、現在耕種作物を作付している農業者は、現在の強制休耕面積に等しい耕地を10年間休耕しなければならない。

5.エネルギー作物のための炭素クレジット支援

 休耕地での非食用作物栽培に関する取極めは廃止し、炭素クレジットに置き換えられる(二酸化炭素代替達成の目的をもつエネルギー作物栽培を支援)。援助レベルは45ユーロ/haで、最大150万haを対象に、加工者と契約をした生産者に支払われる。対象面積の国別配分は構成国のエネルギー作物生産の過去の実績と取極められている二酸化炭素削減量を考慮する。

6.持続可能な農業と農村開発の支援の増強

 農業環境支払や条件不利地域支払のような、EU全域で持続可能な農業を促進するための手段が、その他の農村開発措置とともに、大きく状況される。

7.ダイナミックな「モジュレーション」の導入

 現在は任意のモジュレーション(直接支払の減額)を全構成国に義務づける。すべての直接支払は、アジェンダ2000で合意された20%に達するまで、毎年3%ずつ減額する。この減額は、各農場の雇用状況に応じて免除される。年間2労働単位まで、5,000ユーロが免除される。これにより、大多数の農場はモジュレーションを免れる。構成国の選択により、年間労働単位が1単位増えるごとに、3,000ユーロの追加免除ができる。欧州委員j回によれば、この免除により、EUの農場の4分の3がモジュレーションを免除されることになろうが、免除額は全支払の5分の1に満たない。

 モジュレーションとその免除の適用した上で、一農場への最大支払額は30万ユーロに制限される。これを越える額は、関係構成国の農村開発措置に利用される。モジュレーションにより毎年節約される額は、農地面積、農業雇用・繁栄度を基準に構成国に配分される。これにより生み出される農村開発のための追加資金は、2005年に5−6億ユーロになると予想される。

8.環境・動物福祉・食品の品質と安全性の促進する新たな措置

 現在の農業環境・条件不利地域・再植林・早期引退措置に加え、食品の品質と安全性に関して農業者が基準に適合し、また動物福祉を促進するのを助ける措置を追加する。

9.商品介入と補償

 穀物について、国際競争力を強め、輸出補助金なしで輸出を維持できるように、介入価格を最終的に5%引き下げる(2004/05年から101.03ユーロ/トン→95.35ユーロ/トン)とともに、真のセイフティ・ネットを確立する。穀物生産者は、価格引き下げの50%を補償される。市場管理の簡略化のために、月次加算は廃止する。

 コメについては、長期的視点からのコメ市場安定及びEBA(武器以外のすべての後発途上国からの輸入を無税化する措置)実施のために、介入価格を50%切り下げ(2004/05年の基準価格を150ユーロ/トンに)、市場価格が基準価格を下回った場合のために、民間在庫計画を導入する。国境措置についてはWTO加盟国と再交渉(EU:穀物輸入関税制度変更交渉を提案、米国が反発,02.7.3)。

 ライ麦に関する介入は廃止。デュラム小麦については、伝統地域援助を減額、その他地域の特別援助は廃止し、高品質プレミアム(15ユーロ・トン)を創設。蛋白源作物の追加援助は55.57ユーロ/haとする。

 牛肉・羊肉については、頭数支払をやめ、前記のように、過去の実績に基づく単一所得援助支払に置き換える。

 酪農部門については、アジェンダ2000の措置を2015年まで継続する案と2008年以後生産割当を廃止する案が浮かんでいる。選択の決定は2008年以後になると予想される。

 砂糖・オリーブ油・果実・野菜・ワインについては提案なし。提案は2003まで延ばされる。

 参考:欧州委員会Press release
 "Towards sustainable farming" Commission presents EU farm policy mid-term review
 BEFORE AFTER - What the mid-term review for sustainable farming will change
 Dr. Franz FISCHLER Member of the European Commission responsible for Agriculture, Rural Development and Fisheries Towards sustainable farming - Presentation of the cap mid-term review European Parliament - Agriculture Committee Brussels, 10 July 2002

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