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イギリス:「持続可能な農業と食料のための戦略」を発表

農業情報研究所(WAPIC)

02.12.13

 12月12日、イギリス環境・食料・農村問題省(DEFRA)が「持続可能な農業と食料のための戦略」を発表した(PM and Beckett launch sustainable farming and food strategy,12.12)。この戦略は、今年1月に発表された政府委員会(カリー委員会)の報告「農業と食料ー持続可能な将来」(参照:イギリス:生産補助金政策は持続不能ー政府委員会レポート,02.2.5)の要請に応えるもので、農業・食料産業の将来の利益と国際競争力を確保するとともに、環境・栄養・公衆保健の改善とコミュニティの繁栄に寄与するために、産業・政府・消費者がいかに協同できるかを述べたものとされる。この戦略は、次の3年間にわたる5億£の政府支出で支援される。

 この戦略を構成する主な要素はつぎのようなものである。

 ・新たな農業環境スキームにより、EU補助金の10%を生産のための支払から野生動物や景観の保護のための補助金に振り替える。そのための1億5千万ポンドの半分はEU、半分はイギリス政府が支出する。

 ・スーパーマーケットが中心となる「食品雑貨流通研究所」により運営される新たなフード・チェーン・センターが、食品の消費者価格からの農民の受け取り分がどこまで許されるか考察する。

 ・公正取引局が、4大スーパーマーケットの購買力の濫用を防ぐための自主的コードの遵守状況を6ヵ月ごとに監視する。

 ・政府は、農民が大規模小売業者や製造業者に販売する際の力を強めるための共同ボードの設置に資金を供給する。

 ・既存の有機生産アクションプランが、研究のために5年間につき500万£を留保し、有機食品の販売増加目標を設定する。

 ・動物福祉に関して、違法な輸入の阻止を優先する。

 カリー委員会の報告のあと、長い間発表を待たされたこの戦略に大した新味はない。農業団体や環境団体は、満足というより、むしろ失望を表明している。

 イギリス最大の農業者団体・全国農民連盟(NFU)は、戦略の基本的要素は歓迎するが、キーワードは「行動」であり、すべての多くの勧告がすぐにも実行されなければ、戦略はただの紙切れに等しいと言う("IMPLEMENTATION" IS CRUNCH WORD IN DEFRA STRATEGY - NFU,12.12)。有機農業団体・土壌協会は、農業者が集約的管理から離れるように奨励する努力は歓迎するが、DEFRAが農場に対する保全計画の要求を取り下げようととしているから、バラマキ的計画が一層バラマキ的になることを懸念する。土壌協会によれば、野生動物の増加と汚染抑制は完全な有機農業への転換によってのみ達成できる(Response to the Government's Strategy for Sustainable Farming,12.12)。カリー委員会のメンバーを出した鳥類保護ロイヤル・ソサイエティは、汚染者負担原則実施のための手段が何も述べられておらず、水質汚染や土地管理による洪水調整に関する新たな措置が含まれないと失望を表明している(RSPB response to the DEFRA Strategy for Sustainable Farming and Food,12.12)。

 カリー委員会は、イギリス農業の将来にとって、EU共通農業政策(CAP)の抜本的改革が死活的に重要ともしていたが、担当大臣・マーガレット・ベケットは2007年からのCAP支出を固定するという独仏合意に基づくEUサミットの決定で、このための交渉は極めて困難になったと認めている。

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