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イギリス:チャールズ皇太子、軍隊等の国産食品利用を要請

農業情報研究所(WAPIC)

03.1.8

 昨年末、イギリスのチャールズ皇太子がFarmers Weeklyに投稿、長期の不振に喘ぐイギリス農業の再興を訴えた(Prince pays tribute to farmers,02.12.27)。

 皇太子のイギリス農業・農村に関する認識によれば、農民の所得は、口蹄疫以前、1930年代から、狂牛病・古典的豚コレラ・最低レベルの農業報酬と農業雇用によって、最低レベルのものとなっており、これは、農民、とくに幾世代にもわたり土地をケアする家族農民が織り出し・イギリス人としての国民意識の形成を助けるかけがえのない農村風景(タペストリィ)を失わせることになろうし、この状態を変えないかぎり、食糧自給能力の放棄という「愚の骨頂」の誤りを犯すことになる。

 皇太子は、このような事態をもたらす最大の要因を、スーパーマーケットなど小売業者が、世界最高の農民と最高級の品質の食品ー特にイギリス固有の牧草で育てられる家畜ーを生む出す条件を備えたイギリスの食品をないがしろにし、輸入食品の調達に走っていることだと考えているようだ。しかし、「あらゆる小売業者は消費者の要求に応えているだけだと言う」。従って、「消費者が、彼らが何を購入しているについての真正で、情報に基づく選択(インフォーメド・チョイス)」をできるようにすることが必要であり、そのためにはイギリス食品であることの明確な表示をしなければならないし、食品がどこからきたかについての子供の教育も重要だと強調する。

 しかし、この投稿のハイライトは次に来る。すなわち、「消費者はスーパーマーケットで買い物をする人々だけではない。わが国の公共団体は大量の食品を購入している。病院、軍隊、地方政府、学校、大学が購入する食品の量を想像してみよう。それぞれが”ブリティッシュ”あるいは”ローカル”を買うとすれば、イギリス農民の存続可能性にどれほど大きなインパクトを与えるであろうか」と。The Times紙によれば、イギリスの学校給食は地方教育当局が指定する契約業者により供給されるが、その総予算はイングランドだけで1日当り800万£になる。国防省が購入するイギリス産品の比率は、ラムで2%、チキンで16%、牛肉で55%にすぎない(Back British food,Prince tells ministers,02.12.28)。

 皇太子は、続けて、「私は、EUの入札ルールは一定額以上の契約に基づいてあなたが購入を望む食品のタイプを特定することが不可能であることを意味すると言われてきた。しかし、最近、ウエールズ大学は、この特殊な問題を回避する完全に合法的なメカニズムが存在することを示す優れた研究を完成させた。このメカニズムは、しばしば、良質な国産食品の価値を我々以上によく理解していると思われる多くのEU諸国が利用している」と言う。彼は、EU諸国や米国でこのような「協同」が進んでいると指摘する。

 皇太子のこのような主張は、イギリス農民が大歓迎するところであろう。Farmers Weeklyは、その年農業界に最大の貢献をなした「ファーム・パーソナリティ」に、58%の得票を得た皇太子を選出した(2位はナショナル・ファーマーズ・ユニオン=NFUのスコットランド会長・ジム・ウォーカー)。彼が主張するEU競争法の制約を回避する「メカニズム」も確かに存在する(例えば、フランスやイタリアにおける学校給食食材への地方産品利用など)。

 しかし、上記のThe Timesも指摘するように、第二次大戦以来食糧自給を達成したことがなく、消費されるチキンの53%を輸入するイギリスで、農民は多年にわたり国民の需要を満たすことができるのだろうかという問題がある。また、公共団体は、納税者のカネを最も有効に使うように要求されている。国防省の先の数字は、この要請に応えた結果でもある。皇太子の要請の実現へのハードルは高い。

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