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CAP改革交渉が妥結、WTO交渉の弾みとなる?

農業情報研究所WAPIC)

03.6.26

 難航していたEU共通農業政策(CAP)改革交渉がようやく決着した。ポルトガルだけがなお反対しているが、反対していたフランス、スペイン、イタリア、アイルランドが妥協案を受け入れたという(Accord sur la réforme de la politique agricole commune de l'UE,Reuters,6.26,8:54)。

 妥協案の内容は今後に待たねばならないが、ロイターによれば、アイルランド農相・ウォルシュは、昨日、農業担当委員・フランツ・フィシュラーが、引き下げ幅を5%から2.5%に縮小するという先週の穀物価格に関する妥協案からさらに後退、穀物価格引き下げを断念したことを確認したという。その代わり、バターと脱脂粉乳の介入価格の引き下げは維持される。各国が過剰生産の抑制の必要性を認めたものという(Vers un accord sur la politique agricole commune européenne,6.26,7:01)。

 改革の核心であったデカップリングは、多くの例外が導入されたものの、基本的には貫かれるという。この点に関する最終妥協案の詳細はなお不明である。

 直接援助を減額して農村開発援助に回す「モジュレーション」の義務化は通るようである(従来は各国の選択実施。フランスはこれを実施、農村開発のための契約援助の原資としてきたが、現シラク政権になってから早速廃止した)。ただし、直接援助額を段階的に削減する「漸減」は各国の反対が強く、前回の妥協案で既に放棄されている。財政状況に応じて調整する。

 仮にこのような形で妥協が成立したとすれば、WTO農業交渉にはどう影響するのだろうか。

 穀物価格引き下げを断念したことにより、WTO農業交渉での平均関税率36%の削減の提案は、少なくとも穀物に関しては実現不可能になる(世界市場価格の現状を前提とすれば5%引き下げの原案てようやく可能。世界価格が下がれば一層困難になる)。他部門でつじつまを合わせねばならない。輸出補助金45%の削減の提案も穀物については困難と思われる。CAPへの厳しい国際的批判は収まらないであろう。

 「貿易歪曲的国内助成」55%削減の提案は実行可能であろう。最終妥協案が先週の妥協案(穀物部門で75%をデカップル、繁殖母牛部門で100%で生産関連直接援助を認める)とかけ離れていなければである。EUの「貿易歪曲的国内」助成の大部分(2001年実績で99%以上)は、今回デカップリングの対象となった保証価格引き下げに伴う所得低下を補償するための直接援助(ウルグアイ・ラウンドにより、とりあえず2004年までは削減対象とはしないとされた「ウルグアイ・ラウンド-・ボックス」国内助成)である(その他としては域内価格維持のための介入買入れ、貯蔵費用などがある)。そして、この60%以上が穀物部門での援助であり、その75%が削減できれば、現在(2001年)17%ほどの牛肉部門の生産関連直接援助はすべて残ったとしても、総額は現在の3分の1にまで減る。ただし、デカップルしても、2000年-2002年の生産を基準とした固定支払の大部分が穀作部門の大規模農家に配分される事情は変わらない。生産非関連援助とはいえ、EUの農業補助金(と米国の巨額の補助金)が途上国農民や中小農民を破滅に追い込んでいるという批判は、やはり収まらないであろう(フランス農民同盟がフィシュラー改革案に反対する主要な理由の一つもこの点にある)。

 改革が成ったとしても、WTO農業交渉前進のハズミとはなりそうもない。CAP改革案の後退に継ぐ後退に対して、オーストラリアの貿易相・マーク・ヴェイルは、オーストラリアとケアンズ・グループはドーハ・ラウンドから撤退するとも語っている(Feuding EU sparks trade chaos fears,Australian Financial Review,6.20)。

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 CAP改革交渉、またも延期、フランスが妥協せず,03.6.20