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EU:干ばつで小麦収穫千万トン減少の予測、新たな農家援助措置決定

農業情報研究所WAPIC)

03.8.15

 8月14日、欧州委員会共同研究センター(JRC)がEUにおける今年の干ばつの作物収量への影響の8月10日現在のデータに基づく予測を発表した。小麦生産は前期に比べておよそ1,000万トン減少、主要作物ではポテトの2%からヒマワリの25%までの減少が見込まれるという。例外的異常気象による作物収量減少と品質低下はヨーロッパ全域で予想されるが、特に中・南ヨーロッパで大きな被害が出ている。

 冬作物は厳冬と晩霜で被害を受けた上に、6月始めからの熱波で成長・成熟は10日から20日速まった。そのために、冬・春穀物は土壌水分不足の状態で稔塾段階に入ることになった。さらに、7月から8月始めにかけての記録的高温と日照により、作物の水消費が急増した。干ばつとともに、これが作物の利用できる土壌貯水量の顕著な減少を招いた。このために、デンマーク、フィンランド、アイルランド、スウェーデン、イギリスを例外に、4月以来の水収支指標は大きく悪化、夏作物の収量が大きな影響を受けることになった。

 軟質小麦とデュラム小麦を含む小麦全体の収量は前年より6.6%、作付面積の影響を含めた総収穫量は1,000万トン(9.5%)減少すると予想される。最も大きな影響を受けるのはポルトガル、イタリア、ドイツ、フランスで、それぞれ全体の平均減収率をも15%、12.3%、7%、9%下回る。穀粒トウモロコシ、油料種子ナタネ、ヒマワリ、テンサイ、ポテトの収量は、それぞれ10.1%、4.2%、7.2%、2.0%減少する。牧草地域は主要EU諸国のすべてで影響を受けているが、バイオマス換算での生産量減少は、特に南部諸国やEU牧草地の17%をもつフランスの半分の地域で大きい。

 このような大きな被害を前に、欧州委員会は、14日、既に採択された農民援助・救済措置に加えた新たな援助措置に各国閣僚が合意した発表した。

 耕種部門では、通常、次期販売年度の面積に応じた直接援助はその年の11月16日以後に支払われるが、2003/4年度のこれらの支払は10月16日からと1ヵ月前倒しされる。もちろん,干ばつの影響を受けた地域においてだけである。また、飼料生産用の域内販売のために様々な量の公開入札が行なわれる。この総量は、ライ麦:73万トン、大麦:61万トン、ソルガム:1万2,000トンとなる。

 牛肉・羊・山羊部門では、通常は10月16日から始まる奨励金支払を、最も影響が大きい地域で9月1日から始める。ただし、このための2003年予算は4億ユーロに限られ、ドイツに8,700億ユーロ、フランスに2億2,500万ユーロ、イタリアに6,300万ユーロ、ポルトガルに2,500万ユーロ、ルクセンブルグに140万ユーロが配分される。

 既存の援助・救済措置としては、休耕地への放牧または牧草生産の許可、介入在庫からの一定量の飼料用米の販売、牛肉部門における奨励金前払い可能分の10月16日以後の60%から80%への拡大がある。今回、さらに、域内市場での介入在庫からの穀物販売の増加が決められたほか、各国は自然災害により損害を受けた農業・林業生産の再建のための既存措置の強化や新たな措置の創設のために、EUが承認したそれぞれの農村開発計画の修正の可能性を与えられ、EUが競争条件歪曲を防止するために設けている国家援助に関するルールに基づき、例外的干ばつによる農民の被害を補償する可能性が各国に与えられる。

 干ばつは共通農業政策(CAP)の実施の変更をもたらすほどの影響を与え始めた。

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