フランス、06年からCAP改革実施を決定、農民は破滅的影響と反発

農業情報研究所(WAPIC)

04.2.20

 フランス政府は、昨年のEU共通農業政策(CAP)のアジェンダ2000「中間見直し」改革の実施時期を06年1月とすることを決めた(Conseil des ministres : application de la réforme de la PAC)。「デカップリング」の開始時期は05、06、07年の中から各国が選択できるとされている。農民はデカップリングそのものに反対しているのだから、その実施時期をいつにするかは本質的問題ではない。06年からのアジェンダ2000の本格的見直しで、こんな改革を葬り去るのみだ。だが、全面デカップリングを主張する欧州委員会からやっとのことで「部分的デカップリング」を勝ち取った政府は、今後のさらなる改革を見据えた現実的対応をするしかない。農業会議所常設会議(APCA)も、確実な将来展望をできるだけ早くは農業者に与える必要があるとして、05年実施を建議していた。農相は、中をとって、06年実施を決めた。個別の経営の状況の変化を考慮するために必要となるかもしれない補整措置が06年の本格実施前にもたらされるように、05年を「シミュレーション」に当てるのだと言う。

 ここにいう「デカップリング」とは、競争力強化のための保証価格の引き下げ、さらには撤廃によって農業がこうむる所得喪失を埋め合わせる「直接支払い」を生産量から切り離すことを意味する。EUは、農業者の所得安定を図る要の手段として、穀物・砂糖・酪農品・牛肉等の基礎的食糧産品の価格保証政策(及びそれを可能にするための国境保護措置)を用いてきた。どれだけ生産しても保証価格で買い取られるのだから、農業者は生産すればするほど儲かる。輸出補助金付きで域外に売り捌かれる穀物の山・牛乳の海が出現した。生産・貿易歪曲的と集中攻撃を浴びたウルグアイ・ラウンドの最中の92年、保証価格を引き下げ、これによる所得喪失を埋め合わせる直接支払いを導入する改革を決め、99年には、この方向をさらに推し進める推し進めるアジェンダ2000の改革を行なった。この改革は、基本的には、価格による所得保証を、直接支払いによる所得保証に単純に置き換えただけのものにすぎない。生産・貿易歪曲的の本質は変わらない。そこで、デカップリングとなったわけだ。直接支払いは、生産ではなく、過去(2000-02年)の個別農場の生産面積に基づく、作物横断的で固定的な「単一農場支払い」に置き換えられる。価格はときに生産費を下回り、所得の大半が直接支払いで構成されるようになっているから、土地は、もはや生産によって所得を得る手段というよりも、直接支払い受給権によって所得を獲得する手段の色彩を帯びてきた。デカップリングは、これを名実ともに認めるものといえよう。生産者は、支払い受給権(すなわち土地)をもち、農地を良好な状態に保ち、一定の標準的な環境・動物福祉基準などを守りさえすれば、何をどれだけ生産しようと、あるいは何も生産しなくても、この支払いを受けることができる。

 自らの所得は、生産活動への報酬として受け取られるべきものだと農業者が猛反対するなか、フランス政府は、最大限の「部分的デカップリング」を勝ち取ることで妥協した。発表によれば、フランスはこれにより認められた範囲の生産関連援助を最大限に活用、穀物への援助の25%、山地等の家畜飼養の維持に不可欠な役割を演じてきた肉用繁殖母牛(サックラーカウ)奨励金と子牛屠殺奨励金は全額、その他の牛屠殺奨励金は40%、羊・山羊奨励金は50%まで生産に関連づける。支払い受給権の取得を目指す投機的土地取得と生産衰退の加速は、デカップリングがもたらす最も重大な悪影響として懸念されている。これを回避するために、政府は「支払い権市場は統制される(encadré)」と言う。投機的取引に際して支払い受給権の除外を許すというフランスの要求により改革合意に含まれた可能性がこのために利用される。

 このような発表に対し、農業者組合の反発は強い。フランス最大の農業者組合・全国農業経営者連合(FNSEA)の青年部とも言われる後継者団体・青年農業者センター(CNJA)は、本質的なことは、改革実施の日付を決めることではなく、その農民所得と青年の新規就農への悪影響を最大限抑えることだ、「支払い権市場は統制される(encadré)」といった曖昧さは、「自由主義的農業政策のビジョンを隠蔽する」という印象を与えると言う。その会長は、「私は支払い権市場の存在を受け入れることができない。この問題は農民の所得にかかわるからだ。支払い権の商品的管理を選択することは、青年の就農を否認し、農民所得を購買の対象物件にすることだ」と言明している(Application de la PAC : ambiguïté insupportable sur la gestion des droits pour Jeunes agriculteurs,Agrisalon,2.19)。

 反主流派の最大農民組合・農民同盟は、この改革は、実施方法はどうであれ、専らヨーロッパの農業関連企業の利益を重視する政策の帰結だ、ヨーロッパの大多数の農民の消滅を加速する、ヨーロッパ国境の一層の開放、組織化された農産物価格引き下げ、共同市場組織の解体はヨーロッパ農民の最悪の危機を用意するものだとする声明を出した。この声明は、経営委譲に際して最高の入札者に販売され、譲渡されることになる農業への公的援助の「商品化」は、新たな農民の経営創設をますます困難にし、納税者の目には農業者が受け取る援助が正当化されないと映ることになるとも言う。

 欧州議会も、現在の改革CAPが競争強化と農業の多面的機能を両立させるためには、欠陥だらけであると認めている(欧州議会、公正な農家所得安定策―競争力と多面的機能を両立させるCAPを要請,04.2.10)。それは、個々の農家は適切な所得がなければ消滅に向かい、経営集中・農村地域の過疎化・遠隔地域や条件不利地域の放棄に道を開く、だが、現在の政策、昨年改革された政策でもこれを防ぐには不十分だという。

 国際貿易秩序をズタズタにするFTAが不可避とされ、競争力強化のためのためのデカップリング直接支払いが大政翼賛的に受け入れられようとしている日本、他所事と傍観しているわけにはいかない。EUほど多面的機能が重視されてきたところはない。そこでも現実はこのとおりだ。一見見事な景観も、一度村に踏み入れば、人気も感じられない過疎砂漠だ。しゃむににFTAを追求するなかでの「改革」の結果は見えている。山川廃れ、国亡ぶだ。直接支払いは、市場や消費者が支払わない正当な労働報酬を埋め合わせるものであってはならない。直接的な生産物に正当な報酬を払った上で、なお市場が報酬を与えない間接生産物―食品安全、環境、景観・・・―に支払うべきものだ。

農業情報研究所(WAPIC)

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