ローカルなマーケットはスーパーよりも遥かに大きく地域・消費者に貢献ー英国シンクタンク

農業情報研究所(WAPIC)

06.5.23

  英国のシンクタンク・ニューエコノミックス財団(NEF)が街中の古きローカルなマーケットが、地域の経済・社会・消費者に対して巨大スーパーよりもはるかに大きく貢献しているという報告書を出した。報告は、それにもかかわらず、地域政府とディベロッパーが推進するスーパー拡大政策が、これらマーケットのもたらす利益を台無しにしようとしていると警告する。

 The world on a plate: Queens Market,06.5.22
  http://www.neweconomics.org/gen/uploads/2eneew55mfdiqk55f5kn2r4521052006160612.pdf

 報告は、マーケットは最も古く、最も成功した交易形態であり、そのために多くの町が存在し、あるものは中世にまで遡る、英国にはこうしたマーケットが1700あり、消費者はここで年に1300万£(1£≑210円)を支出すると言う。

 特徴的なマーケットの例として次のようなものが挙げられる。

 ・ロンドン最古の生鮮食品マーケットで、なお当初のサイトで取引している1756年に設立されたバラ・マーケット(Borough Market)。

 ・250の会社が入る英国最大の卸売市場で、2500人以上が働いているニューコベントガーデン・マーケット(ロンドン)。

 ・農民・栽培者・生産者が自身の生産物を直接消費者に販売するマーケットの一つをなすファーマーズ・マーケット。

 ・地域で生産されたハム、チャツネ(インド産の薬味)やプレゼント、デコレーションを提供するストールを持つ新興のクリスマス・マーケット。

 ・地域が1960年代に住宅地として開発されて以来、食品・野菜マーケットが核心をなしてきたノッチング・ヒルのポートベローマーケット。ここでは、週末だけ開かれるその他の有名マーケットと異なり、週に6日、果実・野菜売り場が開かれる。

 ・創設以来移動がない数少ない歴史的マーケットの一つで、数世紀の間ロンドンの主要家畜市場として利用されてきたスミスフィールド・マーケット。

 ・14世紀に遡り、魚屋、肉屋、食料雑貨商人がなおその生産物を販売しているレッドウンホール ・ マーケット。

 ・1869年に設立されたイースト・ロンドンの日曜市場・コロンビア・ロード 花市。

 研究が焦点を当てたイーストロンドンのクイーンズ・マーケットで購入される商品の平均価格は最も近いアスダ(ウォルマートがそのオーナー)の価格よりも53%安かった。低所得の客は値切り交渉もできるし、少数民族の人々はハラル肉やアフリカ・カリブの果実・野菜のような特殊な食品も買うことができる。その上、食品スーパーと同じ小売スペースで2倍の雇用を提供し、地域経済のために年に1300£(1ポンド=約210円)の収入[商品購入支出](うち食品が900£)を生み出す。価格、消費者の選択肢、地域経済・雇用への貢献、どこから見てもスーパーに勝るということだ。

 ところが、このクイーンズ・マーケットが、アスダの巨大店舗を建設する再開発計画のために存亡に危機に曝されている。報告は、ウォルマートを”低価格の高コスト”と特徴づけ、このような既存の小規模マーケットを廃して巨大スーパーの建設を助長する計画は、雇用を減らし、地域社会の選択肢を狭めることに帰着すると警告する。

 英国では、アスダ、セーンズベリー、テスコ、モリソンズの4大スーパーが小売部門の75%を支配している。最近、英国政府競争委員会は、大規模スーパーがコストを下回る商品販売でその支配力を乱用しているという告発を受け、全面的調査を開始した。

 Supermarkets face third inquiry in seven years,Guardian,5.10

 ウォルマートは、価格引き下げのために地域社会を痛めつけ、労働者を搾取しているという非難の矢面に立たされてきた。巨大スーパーやその支持者は、それが一層の雇用を創出し、消費者の選択肢を増やし、食品価格を安く保つと主張してきた。NEFの報告は、その正反対のことを確認したわけだ。

 報告の起草者であるNEFの上級研究者・ガイ・ラビンは、「我々の研究は、マーケットが英国全体の地方経済に年に50万£から1330万£の重要な収入を提供することを示す。マーケットは、大規模スーパーが決してできないような方法で、地域の社会とビジネス環境に適合した小ビジネスの珊瑚礁のような集積地を支えもする。皮肉なのは、マーケットの価値が今まで定量化されてこなかったために、我々がクローンの町の国民になるのを防ぐことができる小企業を衰えさせるような計画決定が国中でなされていることだ」と言う。

 わが国では、都市商店街活性化のために巨大スーパーの郊外立地を制限し、中心市街に呼び戻そうとする動きがある。既に市街地立地を探る業界の動きも生じている。それでよいのだろうか。わが国でも、古きローカルなマーケットの再評価が必要ではなかろうか。それは、環境・ 食料自給・食育・地域農業振興等の観点からも現在強く要請されている地産地消にも貢献する。

 NEFは、「緊急な改善が必要なショッピング環境をもたらした[クイーンズ・マーケットの再開発を計画する]ニューハム・カウンシルによる貧弱な投資と管理の遺産がある。しかし、NEFの報告が示すように、現在の開発計画は地域の経済と社会を貧困化させ、再活性化させない恐れがある」と言う。

 NEF news:Markets create twice as many jobs as supermarkets and food is half the price(06.5.22)
  http://www.neweconomics.org/gen/marketsvssupermarkets220506.aspx

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