農業情報研究所農業・農村・食料欧州ニュース:13年5月13日

フランス 「農業未来法」制定を準備 農業生産と生態系の対立を克服する農業・環境プロジェクトが柱

 フランスで「農業の未来法」(Loi d'avenir pour l'agriculture)制定の準備が進んでいる。ステファン・ル・フォール農相が4月15日に農業食料経済方向付け上級会議に提出した法案の骨子によると、「この法案は今後20年のフランス農業に必要となる変化とその挑戦に備え、農業者・消費者・市民の期待を両立させることを使命とする」。法案は今年9月に提案 を予定する。

 Loi d'avenir pour l'agriculture‐Stéphane Le Foll lance la concertation sur les six thèmes de son projet,Terre-net,16/04/2013

 農相は昨年12月18日以来、この法律の内容と哲学を語り始めているが、法案は農地保全と青年農業者の自立就農に加え、「農業・環境プロジェクト」(projet agro-écologique)をいくつかの柱の中心に据えるという。

 Stéphane Le Foll lance la trame de son « projet agro-écologique pour la France »,Terre-net,18/12/2012
 Stéphane Le Foll a présenté son projet « Agricultures : produisons autrement »,Terre-net,28/02/2013

 農業・環境プロジェクトとは、生産、食料安全保障だけではなく、環境サービスにも同等に配慮した農業を構築しようというものだ。20年後のフランス農業は、環境を最大限尊重しながら、同時にフランスと世界の食料安全保障に寄与せねばならない。生産的農業と生態系の絶対的対立というパラダイムの転換、フランスは、敢えてこの難題に挑もうというのである。

 そんなことが可能なのだろうか。フランス農学協会は、早速批判の声をあげた。「高いエコロジー的、経済的、社会的パフォーマンスを合わせ持つ生産様式は存在しない。環境を尊重する農法が高い収量を確保するなど想像するのも難しい」と言う。

 Préparation de la loi d’avenir - Pas de mode de production à la fois performant écologiquement et économiquement,Aglisalon,13.5.11

 とはいえ、農相の発案は決して唐突なものではない。2009年2月、当時のバルニエ農相は、既に、2050年には90億に達する世界人口の必要を満たす生産を確保すると同時に、希少化する自然資源と生物多様性の保全も可能にするフランス農業を2020年までに作り上げるという壮大なプランを発表している。

 それは、@希少化する水の利用方法の改善、A良好な水域生態系の再建への貢献、B豊かな生物多様性と景観への貢献、C農地土壌の保護、Dエネルギー制御の改善と気候変動防止を挑戦すべき主要課題に据え、こうした課題に応えるための主要な行動計画として農薬使用半減計画、農業経営のエネルギーパフォーマンス計画、有機農業計画、農業経営の環境認証、持続可能な養蜂のための蜜蜂計画を掲げていた。

 2020年のフランス農業 生産性維持と自然資源・生物多様性の保全,09.3.2

 「農業の未来法」の中心的柱となる農業・環境プロジェクトは、既存のこうしたアプローチを延長、拡充するものと言えよう。そして、農学研究も、「高いエコロジー的、経済的、社会的パフォーマンスを合わせ持つ生産様式は存在しない」とは言い切れないところまで進んでいることにも注意する必要があるだろう。

 2010年、フランス国立農学研究所(INRA)は、アグロ・エコロジーを二つの重点研究分野の一つに据えた。INRAのアグロ・エコロジー班を指導するフィリップ・ラマンソゥによれば、研究は当面、農業面(収量)、環境面(化学肥料・農薬投入や温室効果ガスなどの削減)、経済面(生産費と経営マージン)、社会面(どれほどの農業者が受け入れることができるか)など、「科学的認識の開発と実現可能性の検証」にとどまっている。将来のEU共通農業政策(CAP)において、この種の農業にどれほどの補助金が当てられるかという政治的次元の問題も忘れてはならないという。

 それでも、いくつかの研究は、既に上首尾の証拠を示しているという。特に雑草に関する実験では、特殊な土壌耕耘、適切な輪作、”窒息させる”植物の利用、播種日遅延、機械的除草などで除草剤使用を減らせることが分かったという。

 L'agroécologie, un chantier prioritaire pour l'INRA,Le Monde,4.25

 将来の農業のモデルの一つを提供することになるかもしれない農家=農学者の農場がヴァンデ県にある。ここには、えんどう豆、大麦、小麦、青刈り空豆、トウモロコシ、ナタネ、えんばく、ソルゴー、牧草、小さな木立ち、ポプラなど29種もの作物がモザイク状に並び育つ。蜜蜂の巣箱もあり、雌牛や若鶏もいる。この組み合わせはでたらめではない。例えば、エンドウ豆は大麦が必要とする窒素を固定する。病気に弱い大麦は、病原体が畑に入るのを妨げる別の種に混じって育つことで病害を免れる。

 この農場は1990年代にアグロ・エコロジーに転換した。これは生態系のサービスを利用するやり方で、「自然と戦うのではなく、折り合う」のだという。経営面では、トウモロコシや小麦のような穀物に関するかぎり、収量は通常の農業に比べていくぶん劣る。ただし、収量減は品質の良さで補償される。種子、飼料、肥料、農薬は一切購入しない。これで生産費が減り、19人がこの農場で働くことを可能にする収益が出る。

 木や糞尿を播くことが土壌生産性の基盤である土壌微生物の発達を促し、土壌の耕耘も減る。圃場の周りの生垣が殺虫剤の代わりとなる天敵昆虫を育てる。

 何やら、福岡正信氏の自然農法を連想させる。

 L'agroécologie est-elle l'avenir de l'agriculture française ?,Le Monde,4.25

 農地集積=大規模化=生産効率改善ばかりを追い求める日本農政の発想の貧しさが際立つ。