農業情報研究所農業・農村・食料欧州ニュース:17年8月14日 

  

EU13ヵ国農相 大豆・タンパク質源は外国に頼らず自分たちで作る 言うは易く行うは難し

 

 今日の日本農業新聞、山田優特別編集委員がEUの大豆をめぐる最新の動きを伝えている。

 

 日本が目指す農業モデル提供国として・最近では浸透性が強くミツバチ殺しで有名なネオニコチノイド系殺虫剤・フィプロルを鶏に施用したことですっかり有名になったオランダをはじめ、オーストリア、フランス、ドイツ、ハンガリー、ポーランド、スロバキアなどEU13ヵ国の農相が域内の大豆生産振興を盛り込んだ欧州大豆宣言に署名した。タンパク質源は外国に頼らず自分たちで作る。「輪作を奨励して生物多様性と農地を健全に保つと同時に、消費者の需要の高まりから拡大する非遺伝子組み換え(GM)市場を後押しする」のだという。

 

 欧州13カ国 非GM大豆振興へ 宣言署名 タンパク質源 自給  日本農業新聞 17.8.14

  

 EUは中国に次ぐ世界第二の大豆輸入国(地域)だ(年間輸入量1600万トン超)。集約(工場)畜産国のドイツやオランダは毎年350万トン(日本は280万トンほど)ほどを輸入する。その上、その倍近い大豆ミールも輸入している。その輸入元はアメリカ、ブラジル、アルゼンチン、輸入大豆・大豆ミールのほとんど全てがEU諸国民が嫌うGM製品だ。

しかも、南米大豆はアマゾン熱帯雨林を破壊して作られる農地で生産される。環境団体は、早くから中国とEUをアマゾン破壊の元凶と非難してきた(アマゾン破壊が加速 背景にEUのBSEと反GM、中国の食肉消費がもたらす大豆栽培拡大,05.5.21)。

 

13ヵ国農相の心意気やよし。だがちょっと待った。山田氏は言う。

 

「欧州の農業側の足並みは必ずしもそろっていない。畜産飼料業界は自給に伴って原料コストの上昇を警戒する。同業界団体は宣言が署名される3日前、「大豆振興には賛成だが、慎重な対応が望まれる」との共同声明を発表した。有機農業団体などの間には「欧州になじみのない大豆増産は大規模生産者だけに恩恵がある」という批判もくすぶっている」。

 

 EUの大豆増産は簡単には進まないだろう。そもそも、油糧・蛋白源をナタネ(oilseed rape)に頼っていたEUの大豆需要がこれほどまでに増えたのは、1900年代末から2000年代初めにかけて猖獗を極めた狂牛病(BSE)のために、家畜飼料中の蛋白源として広く使われていた「肉骨粉」が禁止されたからだ。この時期を境とする大豆ミール輸入の急増がそれを物語る。しかし、大豆生産はこれを契機に大きく増えることはなかった(図参照)。これは肉骨粉禁止当初から予想されていたことだ。

 

 

 肉骨粉禁止に伴う代替植物蛋白の確保は困難が予想された。大豆増産は欧州委員会の選択肢にも含まれていなかった。「20003月の欧州委員会のレポートは、植物蛋白作物栽培のEUにおける促進は、特に生産拡大を促すような助成を規制するWTOの制約もあり、非常に高くつくので選択肢とするべきではない、大豆ミールの輸入量は比較的僅かで済み、蛋白不足は域内穀物、輸入大豆、飼料利用の効率改善を組み合わせることでカバーできる」と言っていた(狂牛病の欧州化、グローバル化  (2EUの対応―対策実施の困難 農業情報研究 20014月)。

 

 実際、大豆増産は今日まで実現していないのである。心意気やよし。だがまさしく、言うは易く行うは難し!日本が食料自給率を45%に高める、と言うようなものだ。

 

 関連情報

 EU農業の持続可能性と「大豆宣言」 農業協同組合新聞 17.8.1