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イギリス離脱でEU農政が方向転換?小規模・持続的農業の命運は?

 

 220日、イギリス離脱後のEU中期(2021-27年)予算を議論する欧州理事会(EU首脳会議)が始まった。安全保障、気候変動対策、研究開発などへの予算支出の大幅増加が要請される中、EU予算へのドイツに次ぐ寄与国であったイギリスの離脱によって予算収入には大穴が開く。オランダ、オーストリア、スェーデン、デンマークの“節約”グループは支出をGNP1%までに固定すべきと主張、最大の予算寄与国・ドイツもこれに同調する一方、中東欧、南欧諸国は農業支出や開発援助(EU諸国の結束を強めるための「結束基金」)の護持を主張、フランスも国内農家の強力な圧力活動に直面している。議論はいつ果てるとも予想ができない長期にわたって続くだろう。

 

 その中で、共通農業政策(CAP)も大きな曲がり角を迎えようとしている。1986年はEU予算の70%を占めていたCAP予算は今では40%にまで減っており、欧州委員会は次の7年間には、共通漁業政策も含めて30%以下とすることを提案している。

 

 シャルル・ミシェル欧州理事会議長は、2021-27CAP予算を全体として現在に比べて14%減らすと共に、青年農業者・小規模農業者・条件不利地域などの支援やグリーニング支援(環境尊重支払)などに当てられる農村開発支払(→EU 共通農業政策(CAP)改革が最終合意 日本農政の盲点を知る 農業情報研究所 13.10.29)は、それをはるかに上回る25%も削減すると提案している。面積に応じて支払われる「基礎支払い」の上限は(一戸当たり)15万ユーロから10万ユーロに引き下げるにとどめ、大規模化・工業化路線は続く。

 

 これは、小規模農業の方が持続的で農業成長に寄与するという欧州議会の研究(小規模経営の方が持続的で農業成長に寄与 ヨーロッパ農業モデルに関する欧州議会の研究 農業情報研究所   16.6.26)とも真っ向から対立する。

 

 国際競争激化のなか、アグロエコロジー推進、有機農業への転換、青年農業者自立支援、山地・条件不利地域援助、地理的表示などによる高品質商品開発などで生き残ってきた多くの小農民を破滅に導きかねない提案だ。

 

 EU農政の曲がり角?EU予算をめぐる議論から当分目が離せない。

  

Emmanuel Macron prendra « le temps qu’il faut » pour « un accord ambitieux »(AFP),Agri Mutuel,20.2.20

   

Budget de l'UE La Pac « priorité absolue » pour Paris,Agri Mutuel,20.2.19

 

PAC 2021-2027 : Le financement de la transition agricole doit être ambitieux,La Confédération paysanne,20.2.18

 

 参照

【提言】安倍政権農政はヨーロッパ型農業から学べ(上)(北林寿信) 農業協同組合新聞 16.10.7

【提言】安倍政権農政はヨーロッパ型農業から学べ(下)(北林寿信) 農業協同組合新聞 16.10.7

農業成長産業化という妄想――「安倍農政」が「ヨーロッパ型」農業から学ぶべきことと  世界(岩波書店) 20169月号