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EU:雇用創出・消費者・環境保護のための養殖漁業戦略を提案

農業情報研究所(WAPIC)

02.9.22

 欧州委員会は、共通漁業政策(CFP)改革(EU:欧州委、共通漁業政策改革案を採択、前途はなお多難,02.5.29)の一連の提案の一つとして、欧州フィッシュ・ファーミング(養殖漁業)の持続可能な発展戦略を提案した(Commission tables strategy for fish farming to benefit jobs, consumers and environment ,02.9.19)。ヨーロッパにおける養殖漁業の歴史は古いが、高度な発展は最近のことであり、価格の不安定に悩まされている。その将来は経済的に自立する能力と環境上の拘束に対応する能力にかかっているという観点から、次のような戦略が提起されている。

 三つの目標

 戦略は次の三つの目標に基づいている。

 ・特に漁業依存地域での安定的雇用の創出。2003−08年に8千から1万(フルタイム相当)の雇用の創出をめざす。
 ・安全で良質の漁業製品の供給と動物保健・福祉基準の促進。
 ・環境的に健全な産業の確立。

 安定的雇用の創出

 養殖漁業の雇用は捕獲漁業部門を去る漁業者に代替雇用を提供する。この部門における新たな雇用の創出は年に3%から4%の生産増加によって達成される。

 生産の増加

 この増加は新たな魚種への多角化と、環境に一層優しい養殖漁業の構築から生まれるものでなければならない。これを達成するために、公的援助は既存ビジネスの強化、職業訓練・監視・研究開発活動の奨励、クリーンな養殖技術の促進に焦点を当てるべきである。
 特に環境保護に有益な養殖活動のための特別援助を与えることができる。有機産品に関する既存の立法を養殖漁業を含めるように拡張する。

 スペース争いへの挑戦

 養殖漁業の発展能力が、小規模漁業・養殖業・観光業などの沿岸水域利用者間のスペース争いで阻害されている地域がある。欧州委員会は、養殖漁業が、沿岸地域の多面的利用に挑戦するのに最善な「統合沿岸区域管理」に基づく戦略に統合されるべきと考える。

 市場の刺激

  養殖漁業産品への需要は、品質表示開発と産業のイメージ改善措置により成長することができる。知識の改善がマーケッティングの改善を助けるから、EU諸国は商業的情報の収集と伝達のための措置への助成を奨励される。養殖漁業者は、規模の経済の欠如を補うように、供給調整のためのパートナーシップを作り上げるように要請される。

 社会的配慮

 養殖漁業は、農村と沿岸地域の発展及び沿岸コミュニティの退潮の回復において重要な役割を演じる。EU諸国は、2003−04年の構造基金(EU内の地域的・社会的格差是正措置のためのEU予算であり、漁業構造改善のための「漁業指導財政手段(FIFG)」も構造基金を構成する)の中間見直しを背景に、養殖漁業への資金供給の適合化が奨励される。また、欧州委員会は、女性の役割を重視し、養殖漁業改善のために欧州社会基金(これも構造基金を構成する)のプログラムを利用するように奨励する。

 ガバナンスの改善

 関係者は養殖産業開発に一層関与すべきである。競争歪曲のリスクを減らすための行動規準開発も視野に入れる。

 養殖漁業産品の安全性と動物福祉

 公衆衛生

 消費者のための高度な健康保護を確保する必要性から、欧州委員会は食品衛生に関する立法の鋳直しを行なってきた。飼料と食品中のダイオキシンの最大許容量のレベルを引き下げる目的で、2004と2006年に見直しが予定されている。抗生物質とその他の養殖漁業産品残留物質の現在の監視とコントローが強化されるであろう。公衆衛生の脅威となり、漁業・養殖業の損害を引き起こす有毒藻類ブルーム(水の華)は、貝類養殖の将来を制約する深刻な要因となっているから、これに関する一層の研究が必要である。

 動物衛生

 欧州委員会は、動物衛生に関する立法の定期的更新と簡素化を行なう。また、養殖漁業の特別の必要性を考慮するために、既存の薬剤立法の何らかの修正も提案する。

 動物福祉

 囲い込まれた家畜の福祉の改善は、集約農業への公衆の心象を改善するであろう。欧州委員会は、現在、養殖魚に関する勧告を策定する欧州理事会によるイニシアティブに参加している。この勧告が採択されれば、特別の立法の提案を考慮することになる。

 環境的に健全な養殖漁業

 廃棄物の影響の削減

 養殖場周辺の水質悪化の危険を避けるために、集約的養殖漁業からの廃棄物の影響を減らす方法が発見されねばならない。欧州委員会は、EU諸国と養殖漁業者に対し、排出物処理施設建設のためのFIFG助成を含め、多くの回復措置実施を奨励する。

 外来種及び遺伝子組み換え生物(GMO)からのリスクへの挑戦

 生物多様性の損失を避けるために、欧州委員会は、国際海洋利用理事会(ICES)により開発された規準に従い、外来種導入を管理する措置を提案する。また、遺伝子組み換え魚に関する特別のルールの必要性も検討する。

 汚染防止・コントロールと環境影響評価

 欧州委員会は、集約的養殖漁業を、高度な汚染をもたらす可能性のある産業活動を監視する統合汚染防止・コントロールに関する指令の適用範囲に含めることを考慮する。

 研究

 研究は養殖漁業にとって決定的に重要である。しかし、研究開発のコストのために、多くの養殖企業がこの分野への必要な投資を避けている。FIFGは、養殖ビジネスが行なう小規模な応用研究を支援することができる。第6次フレームワーク研究プログラムの下での追加支援も利用できるようにすべきである。