農業情報研究所


米国:新農業法、上下両院の妥協が成立、オーストラリア失望

農業情報研究所(WAPIC)

02.4.30

 26日、対立していた上下両院の委員会レベルでの妥協が成立、来るべき6年間に1000億ドルを支払う農業法案が承認された。最終的には上下両院での採択後、大統領が調印して新農業法が成立することになる。

 妥協案の詳細はなお明らかでないが、激しく批判されてきた最大規模の穀物・棉作農民に巨額の補助金を支払うという基本的構造は変わっていない。すべての補助金を段階的に廃止することを目指した6年前の96年農業法の試みは、ほぼ完全に破綻することになる。

 中西部・南部の棉・コメ・小麦・コーン・大豆生産者が最大の補助金を獲得した。下院が反対していた一農場への支払いの最大限度(現在は46万ドルだが、抜け穴によりほとんど無制限)を設ける上院案については、限度額を27万5千ドルから36万ドルに引き上げることで妥協が成立した。しかし、これは抜け穴が多く、象徴的な意味しかもたないだろう。小農民はこの後退に失望を表明している。

 しかし、選挙の年らしく、あらゆる関係者に配慮している。農地・湿地の保全や水質改善・土壌保全などにかかわる環境・土地保全プログラムのための資金は上院案より少ないとはいえ80%増加することになった。フード・スタンプの受益者は、米国に5年以上住む成人合法移民と合法移民のすべての子に拡張された。畜産農民はすべての肉に原産国表示を義務づける上院案を下院が受け入れたことで要求を通した。彼らはカナダやメキシコからの輸入への対抗手段としてこれを要求していた。魚・果実・野菜についても同様な表示が義務づけられる。

 それでも、僅か10%の農民が大部分の補助金を受け取る基本的構造に変化はない。

 この妥協を受け、オーストラリア政府は、米国が世界農業貿易問題に関するリーダーシップを放棄したと非難している。オーストラリア農民連盟は、政府が法案のWTO整合性を検討するように要請し、対外貿易相・ヴぇイルは、詳細が発表されればそれらの措置がWTOの義務に違反しないかどうか検討すると発表している。

 中国では、米国農業法はWTO加盟による譲許で打撃を受けた農民への一層の援助の推進を可能にし、中国政府が減税その他の手段で農民を支援する方法に駆り立てられるという見方も出ている。

 WTO新ラウンドの農業交渉の途上でのこの決定は、交渉の行方を見極め難いものにする。

 関連情報・記事
 Accord Reached on a Bill Raising Farm Subsidies ,The New York Times,4.27
 Subsidies Boosted In Farm Bill Deal ,The Washington Post,4.27
 US faces WTO challenge over farm subsidies,scmp.com,4.30
 Farm Bill Questions U.S. Commitment to Agricultural Trade Reform (Australia Minister for Trade, April 29 )
 自由化に逆行する米国ファスト・トラック法と新農業法、新たな貿易交渉は失敗の恐れ(農業情報研究所),01.12.18
 
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