国連専門家 外国農地取得に関する人権法に基づく原則を提案 G8サミットで採択を

農業情報研究所(WAPIC)

09.6.12

  7月8日からイタリアで開かれるG8サミットに向け、食料への権利に関する国連特別報告官のオリビエ・デ・シュッター氏が11日、一般に”土地収奪”と呼ばれている国境を越えた大規模土地取得を導く11の原則を発表した。

 Press release “UN Special Rapporteur on the Right to food recommends guidelines to discipline ‘land grabbing’
 http://www.srfood.org/images/stories/pdf/otherdocuments/21-srrtf-pressrelease-landgrab-090609-final-2.pdf
 Statement ‘Large-scale land acquisitions and leases: eleven principles to address the human rights challenge’
 http://www.srfood.org/images/stories/pdf/otherdocuments/22-srrtflarge-scalelandacquisitions-hrprinciples-9.6.09-2.pdf

 アフリカ連合(AU)は、この問題に関するガイドラインを採択する可能性を議論している最中だ。日本も、途上国農業投資に関する一連の原則をG8サミットで提案するという1)。デ・シュッター氏は、食料への権利、自決権や国際労働法を含む国際人権法を基礎とする最低11の原則を提案、G8サミットがこれら原則を採択するべきだと言う。

 1)Tokyo aims to halt farmland grabbing,FT.com,5.25
  http://www.ft.com/cms/s/0/fce8c332-4950-11de-9e19-00144feabdc0.html

 国際食料政策研究所(IFPRI)2)や国連食糧農業機関(FAO)等3)と同様、デ・シュッター氏も、大規模土地投資は、インフラや雇用の創出、所得向上、農民の技術や信用へのアクセスの改善などによって開発の機会となり得るが、地方住民が生産資源へのアクセスを奪われることになれば、はるか昔から耕してきた土地の公式保有権を持たない土地利用者の排除、先住民や遊牧民の追い出し、水資源の競合、食料安全保障の毀損などの悪影響も避けがたいと見る。

  2)国際食料政策研究所 外国土地投資行動規準 投資相手国からの輸出禁止も,09.4.30
  3)FAO等 外国農地取得に関する研究を発表 土地収奪、それとも開発機会?,09.5.26

 このような悪影響を回避するために、実質的にはIPFRIの”行動規範”やFAO等の勧告と類似の次の11の原則を提案する。

 1 投資協定交渉の透明性の確保と、土地やその他の資源へのアクセスが影響を受ける地方コミュニティの交渉への参加。

 2 土地利用の移転は、関係コミュニティの”十分な情報に基づく事前の自発的同意”によって行うべきである。

 3 国は、地方コミュニティを保護し、土地利用の移転や排除ができる条件やそのための手続を詳細に定める法律を採択すべきである。さらに、国は、地方コミュニティが使用する土地の集団登記を助けるべきである。

 4 投資契約は地方住民の開発の必要性を優先し、すべての当事者の利益の適切なバランスの実現を追求すべきである。

 5 ホスト国と投資者は、雇用創出に貢献するために、十分に労働集約的な農業方法を確立し、推進すべきである。

 6 ホスト国と投資者は、農業生産の方式が環境を尊重し、気候変動、土地劣化、淡水資源の枯渇を加速しないように保証する方法を見つけ出すことで協同すべきである。

 7 協定内容がいかなるものであれ、投資者の義務を明確な言葉で定め、たとえば義務違反の場合の罰則を事前に定めるなどして、これらの義務の遵守を強制できるものであることが不可欠である。

 8 投資が地方住民の食料安全保障の強化に帰結するように、生産物の一定割合はホスト国の国内市場で販売されるべきこと、そして、国際市場価格が一定レベルの達したときには、予め合意された率でこの割合を増やすことを協定で定めるべきである。

 9 交渉の完了に先立ち、次の諸事項に対する影響評価を実施すべきである。

 a)性別や民族グループ別の雇用と所得、b)遊牧民や移動農民を含む地方コミュニティの生産資源へのアクセス、c)新技術の入来とインフラ投資、d)土壌劣化、水資源利用、遺伝資源侵食を含む環境、e)食料へのアクセス、利用可能性、適切性。

 10 先住民は、国際法の下での彼らの土地への権利の特別の形態の保護を与えられるべきである。

 11 農業賃金労働者は適切な保護を与えられ、かれらの基本的人権・労働権が法律に明記され、適用可能なILOの手段と一致する方法で執行されるべきである。