農業情報研究所農業・農村・食料海外農業投資ニュース:2010年10月18日

「責任ある農業投資」 APECでは支持 FAO食料安全保障委員会では反対の中国、韓国

 新潟市で開かれていたアジア太平洋経済協力会議(APEC)食料安全保障担当大臣会合が17日、土地・水をはじめ、生活に必須のあらゆる資源を収奪することで現地住民・先住民の貧困と食料不安を助長し、重大な環境破壊にもつながると批判が高まっている「農業分野への海外直接投資」に関し、「開発途上国全般において土地を始めとする天然資源への商業圧力が高まっていることを認識し、投資受入エコノミー、地域社会、投資実施者の三者の全てが利益を得られる状況を目指す責任ある農業投資を支持した。また、我々は、調和のとれた国際的な対応の枠組み作りを支える責任ある農業投資(RAI)の原則やベストプラクティスを策定するために、関連国際機関が多様な利害関係者グループと共に進めている取組も支持した」そうである。

 日本外務省:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/food_security/pdfs/dec_fs_1010.pdf

 この会合には、自国の食料安全保障を目的にこのような投資に狂奔している中国や韓国の代表も出席している。ところで、同じ問題を扱ったローマでのFAO食料安全保障委員会(CFS)第36会期(10月11-14、16日)では、中国と韓国はエジプト、南アフリカ(アフリカ中に投資を進める農民団体を含む)とともに、このような原則を”endorse”(是認、支持)することに反対、会合は単にそのような原則を「心に留める」(take note)にとどまった。食料への権利に関する国連特別報告官のオリヴィエ・ドシュッテル氏(参照:国連専門家 外国農地取得に関する人権法に基づく原則を提案 G8サミットで採択を,09.6.12)を”It's terribly disappointing”と嘆かせている。中国や韓国にとって、APEC会合宣言など、平然と無視できるほどの重みしかないのだろう。

  UN body fails to back "land grabs" code of conduct,Reuters Africa,10.10.15
  http://af.reuters.com/article/topNews/idAFJOE69E0CM20101015?sp=true

 ところで、RAI原則を支持するにせよ、支持しないにせよ、そういう原則に則った農業投資とは、具体的にいかなるものと観念されているのだろうか。APEC会合では、それがまったく見えてこない。

 ちなみに、CFS会合に向けたフランスとブラジルの共同コミュニケは、「投機目的の土地取得は妨げられねばならず、食料を生産し・投資国に輸出する目的での外国投資は統制(encadrés)されねばならない。この統制なしでは、投資は、雇用を創出し・環境を保全しながら食料を生産することからなる食料安全保障への挑戦に応えることはできない。この意味で、多様化し・食料を生産する家族農業のモデルが促進され、強化されねばならず、また土地の使用者の権利が認められ、尊重されねばならない」とし、責任ある投資原則もそのためにこそ支持すると言う。

 Volatilité des prix agricoles, préservation des terres et changement climatique : ensemble pour la sécurité alimentaire mondiale,Ministère de l’Alimentation,l'agriculture et de la pêche,10.10.14
 http://agriculture.gouv.fr/volatilite-des-prix-agricoles

 Annexe communiqué de presse (PDF - 41.8 ko)

 しかし、APEC宣言の支持者が考える責任ある農業投資が「家族農業のモデルを促進し、強化する」ことに資する投資を意味するとは想像もできないのである。APEC宣言が支持する責任ある農業投資が促進し・強化すべき農業モデルとは具体的にはいかなるものなのか、少なくともその方向性が示されないかぎり、宣言は空文に等しい。中国も韓国も、それだから敢えて反対することもないと考えたのかもしれない。