EUの狂牛病(BSE)関連輸入規制

農業情報研究所(WAPIC)

03.7.15

 カナダにおける狂牛病(BSE)発生の確認以来、米国、日本を始め多くの国がカナダの牛・牛肉・牛由来品の輸入禁止を続けている。これがカナダの養牛農家や関連産業に与えた経済的・社会的影響は甚大であり、現金収入を失った農民がレンダリングにも出せない死んだ牛をコヨーテやカラスがついばむに任せたり、不法に埋立処分する事態さえ見られるという報道もある。カナダ政府は一刻も早い輸入再開をと圧力を強め、熾烈な貿易摩擦に発展する様相を呈している。

 これらの品目の往来に関してはカナダとの国境がなきに等しい米国からのカナダ産品の輸出を恐れ、日本などは米国に対しても米国原産であることを証明するように求めている。それだけならまだいい。仮にカナダでBSEと確認された牛が米国産であると判明するようなことがあれば、あるいは将来、米国でBSE発生が一頭でも確認されれば、BSE発生国からのこれらの輸入の禁止を原則としている日本を始めとする諸国は、米国からの輸入も禁止せざるを得ないであろう。その双方の経済的・政治的・社会的損失は計りしれないほどに巨大であろう。

 BSE発生国からは輸入しないという合意された合理的国際基準が存在するのならば、これも甘受せざるをえないであろう。しかし、そのような基準が存在するわけではない。このような巨大な損失を回避し、同時にBSEとそれに関連したリスクの侵入を最小限に抑える別の方法はないのだろうか。そうした方法の開発が急務に思える。その際に参考となるのがEUが定める方法である。2001年の「一定の伝達性海綿状脳症の予防・コントロール・根絶のためのルールを定める欧州議会・理事会規則」(No.999/2001)の「ANNEX\:生きた動物・胚子・卵子・動物由来製品のEUへの輸入」が定める方法である。これは、基本的には既に存在する国際基準ー国際獣疫事務局(OIE)が定める基準に則るもので、それが上記の要件、特にBSEの侵入のリスクを最小限に抑えるという要件を十全に満たすかどうかの問題はある。それにもかかわらず、より完全に近いと思われる方法が開発されるまでは、最低限、このような方法の導入を急ぐべきと考える。そのために、EU規則の生きた牛及び生鮮肉・牛製品 の輸入にかかわるの部分を中心に紹介しておくこととする(専門家や行政当局者には既知のことであるはずだが、誰もこのような方法の導入を考えてこなかったからである)。

 EUのBSE関連輸入規制

 輸入(輸出)規制はEU独自のBSE地理的リスク評価に応じて定められる。BSEに関連するリスクがある動物や動物由来品をEUに輸出する国または地域は、EUのリスク評価に基づき、「カテゴリーT:BSE清浄国・地域」、「カテゴリーU:土着のBSEのケースが報告されていないBSE暫定清浄国または地域」、「カテゴリーV:少なくとも土着の1ケースが報告されたBSE暫定清浄国・地域」、「カテゴリーW:BSE低発生国・地域」、「カテゴリーX:BSE高発生国」のいずれかに分類される。これは旧来の4分類を改めたものであるが、新たなリスク評価はすべての国または地域について完成しておらず、例えば米国やカナダには、過渡的に旧来の「カテゴリーU:BSEはありそうにないが、ないともいえない国・地域」(新分類のUまたはV)が適用されることになる。

A.カテゴリーTの国・地域からの輸入

 牛及び牛由来のすべての商品について、関係当局が国または地域がカテゴリーTの条件に合致することを立証する国際動物保健証書の提出を考慮する。

B.牛の輸入

1.カテゴリーUの国・地域からの輸入

(a)哺乳動物由来の蛋白質で反芻動物を飼育することが禁止されてきて、かつこの禁止が有効に執行(欧州委員会:有効な飼料禁止:第三国のためのガイダンス・ノート,01.10)されてきたこと、

(b)EUに輸出される牛は母畜及び出自牛群にまでトレースされ、BSEを疑われる雌牛の子孫でないことを保証する恒久的識別システムにより識別されること、

を立証する国際動物保健証書を提出しなければならない。

2.カテゴリーVの国からの輸入

(1)哺乳動物由来の蛋白質で反芻動物を飼育することが禁止されてきて、かつこの禁止が有効に執行されてきたこと、

(2)EUに輸出する牛が、

−母畜及び出自牛群にまでトレースされることを保証し、それらがBSEを疑われる雌牛の子孫でないことの確認を可能にする恒久的識別システムにより識別され、

−少なくとも7年間BSE発生が確認されていない牛群で生まれ、育てられ、この牛群にとどまったか、

−哺乳動物由来の蛋白質による反芻動物飼育禁止が有効に執行された日付以後に生まれた、

ことを立証する国際動物保健証書を提出しなければならない。

3.カテゴリーWの国・地域からの輸入

(1)哺乳動物由来の蛋白質で反芻動物を飼育することが禁止されてきて、かつこの禁止が有効に執行されてきたこと、

(2)EUに輸出する牛が、

−母畜及び出自牛群にまでトレースされることを保証し、それらがBSEを疑われる雌牛の子孫でないことの確認を可能にする恒久的識別システムにより識別され、

−少なくとも7年間BSE発生が確認されていない牛群で生まれ、育てられ、この牛群にとどまったか、

−哺乳動物由来の蛋白質による反芻動物飼育禁止が有効に執行された日付以後に生まれた、

ことを立証する国際動物保健証書を提出しなければならない。

4.カテゴリーXの国・地域からの輸入

(1)哺乳動物由来の蛋白質で反芻動物を飼育することが禁止されてきて、かつこの禁止が有効に執行されてきたこと、

(2)感染牛が屠殺され、完全に廃棄されるとともに、

(a)それが雌牛の場合には、発病の最初の症候が現れる前後2年以内に生まれたその最後の子、

(b)そのような動物が未だ国または地域に生きている場合には同じコーホート(感染牛と同じ牛群で、感染牛の出生の前後12ヵ月以内に生まれた牛の群か、生涯の最初の1年の間に感染牛と同居し、l感染牛がその生涯の最初の1年に消費したのと同じ飼料を消費した可能性のある牛)のすべての牛も屠殺され、完全に廃棄されたこと、

(3)EUに輸出される牛が、

(a)哺乳動物由来の蛋白質による反芻動物飼育禁止が有効に執行された日付以後に生まれ、

(b)母畜及び出自牛群にまでトレースされることを保証し、それらがBSEを疑われる雌牛の子孫でないことの確認を可能にする恒久的識別システムにより識別されること、

及び

(c)BSE発生が確認されていない牛群で生まれ、育てられ、また同様な農場で生まれたか、同様な牛群から導入された牛だけを含む牛群にとどまったか、

(d)少なくとも7年間BSE発生が確認されていない牛群で生まれ、育てられ、また同様な農場で生まれたか、同様な牛群から導入された牛だけを含む牛群にとどまった、

ことを立証する国際動物保健証書を提出しなければならない。

C.牛由来の生鮮肉・製品の輸入

1.カテゴリーUの国・地域からの輸入

 哺乳動物由来の蛋白質で反芻動物を飼育することが禁止されてきて、かつこの禁止が有効に執行されてきたことを立証する国際動物保健証書を提出しなければならない。

2.カテゴリーV及びWの国・地域からの輸入

(a)哺乳動物由来の蛋白質で反芻動物を飼育することが禁止されてきて、かつこの禁止が有効に執行されてきたこと、

(b)EUに輸出する生鮮肉及び牛由来の製品が特定危険部位(別に規定)、または頭蓋骨または脊椎から得られた機械的回収肉を含まないか、それら由来のものでないこと、

を立証する国際動物保健証書を提出しなければならない。

3.カテゴリーXの国・地域からの輸入(略)

 なお、カテゴリーT以外の第三国または地域(EU以外の国または地域)からの動物由来製品の輸入に際しては、証書には、「動物由来製品がこの規則が定めるような特定危険部位または頭蓋骨または脊椎から得られた機械的回収肉を含まないか、それら由来のものでない。動物は頭骨の穴にガスを注入する手段で気絶させた後に屠殺されたか、同様な方法で瞬時に殺されたか、頭骨の穴に挿入された伸張するロッド状の道具で中枢神経組織を麻痺させた後の切り裂きで屠殺された」という申告が追加されねばならない。

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 以上を総括すれば、BSEが存在しないと認められる国・地域以外に対して、生きた牛については、完全なトレーサビリティーの確立により感染の可能性が小さいと認められる牛を特定して輸入を認め、生鮮肉と牛製品については、感染の可能性が少ないと認められる牛からの製品の輸入を認めるとともに、それら製品から感染性があるとされる部位を完全に排除することを要求していることになる。とりわけ注意すべきは、肉骨粉禁止の制度の存在だけでなく、その有効な執行、特定危険部位の排除に関しては肉の機械的回収や屠殺の過程での危険部位の混入・附着等の可能性の完全な排除を要求していることである。これは、カナダのBSE国際調査チームが勧告したカナダ政府が取るべき措置(カナダ:専門家報告書、BSE存在のリスク確認、危険部位排除勧告,03.6.30)とほとんど一致する。これは、「カテゴリーV」の国・地域からのEUの輸入条件に一致すると思われる。