米国BSE措置に関する国際専門家調査報告発表―肉骨粉全面禁止等を勧

農業情報研究所(WAPIC)

04.2.5

  昨年12月22日の米国におけるBSE発生確認を受けて米国のBSE関連措置を調査してきた専門家国際調査団の報告(The Secretary's Foreign Animal and Poultry Disease Advisory Committee's Subcommittee Report on Measures Relating to Bovine Spongiform Encephalopathy (BSE) in the United States )が米国時間4日朝に発表された。この調査チームは、スイスのU.Kihm教授、米国のW.Hueston教授、英国のD.Matthews博士、ニュージーランドのS.C.MacDiarmid教授、スイスのD.Heim博士からなる。取りあえず、このBSE発生を受けて米国が取るべき対応を述べた部分を要約・紹介する。

 報告は、まず、北米自由貿易協定(NAFTA)内での生きた牛と家畜飼料の貿易に関して提供された情報を検討した結果、「米国初のBSEのケースは北米の牛生産システム全体から孤立したものと考えることはできないことを断固とおして確認」する。それは、「このBSEのケースの重要性はそれを”輸入されたケース”とみなすことによって退けることはできない」、「米国で発見された最初のBSEのケースと03年にカナダで報告された最初の”土着のケース”は、どちらも北米土着のBSEのケースと認められねばならない」と明言する。それ故に、北米のBSE問題の適切な管理のためには、NAFTA内のすべての関係者の緊密な協力が不可欠としている。このケースがカナダ生まれであったことが確認されたことで米国のBSEリスクを過小評価しようとする米国政府への痛撃である。今後、このケースがカナダ生まれであったことを理由に米国のBSEリスクを薄めようとする米国の試みは、国際的にはまったく意味をなさないであろう。

 このことを確認した上で、報告は、カナダに対して行ったと同様(⇒カナダ:専門家報告書、BSE存在のリスク確認、危険部位排除勧告,03.6.30)、(1)消費者保護のための公衆保健リスクの軽減、(2)病原体のリサイクルと増殖のさらなる制限、(3)サーベイランスを通じての措置の有効性を測る基準の策定、(4)将来の外国からの偶然のBSE侵入の防止、(5)病気の世界への拡散の予防への寄与を目的とする次の措置を優先して講じるように勧告している。それは、12ヵ月以上の牛すべての中枢神経組織及び関連組織の特定危険部位の排除、食用禁止としたダウナーカウの検査と適切な処分のための実効ある手段の構築、30ヵ月以上のすへての高リスク牛の検査、肉骨粉飼料の全面禁止とこの禁止及び交差汚染防止の執行の強化など、既に米国が打ち出している新措置をはるかに超える厳しい措置を取るように勧告する。

1.特定危険部位(SRM)

・リスクが最高の組織(30ヵ月齢以上の牛のSRM)を人間食料から除去するという米国が提案したSRM禁止(⇒米国のBSE(第七報):監視・検査の強化、特定危険部位除去の問題点,04.1.13)は、今までのBSE発生数を考慮すれば国際獣疫事務局(OIE)の基準に合致する。

 しかし、BSE病源体が97年の飼料禁止に先立ち既に反芻動物飼料に含まれて流通していたことを示唆する疫学的証拠、及び北米の牛・飼料産業の統合を考慮すると、人間食料と動物飼料からすべてのSRMを排除することが強く考慮されるべきである。この勧告は、BSEの国際的勧告の現在の趨勢に沿うものである。

・米国におけるBSEリスクがOIE基準により最小であることが「果敢なサーベイランス」により証明されないかぎり、以下にか掲げるSRMが人間食料と動物飼料の両方から排除されるべきである。

 −12ヵ月以上のすべての牛の脳と脊髄。

 −12ヵ月以上のすべての牛の頭蓋と脊柱―これらは、それ自体では感染性はないが、背根神経節・三叉神経節から分離できないし、中枢神経組織による汚染も回避できない。

 −すべての牛の腸(幽門から肛門まで)。

・BSEリスクのレベルが確定されるまでの一時的妥協措置として、人間食料からの30ヵ月以上の牛の中枢神経組織、頭蓋、脊柱及びすべての牛の腸の排除を認める。

・SRMによる枝肉の汚染が回避されねばならない。現在使用されているスタンニング方法および機械的除骨を含む屠畜及び食肉処理の方法が国際基準に沿うように勧告する。とくに、30ヵ月以上の牛の頭蓋と脊柱からの機械的回収肉(MRM)と先進的食肉回収(AMR)は禁止すべきである。これら組織の完全な分離は実施が非常に困難だから、すべての機械的食肉回収の禁止を考慮すべきである

 [農業情報研究所注:米国は、新措置として、頭蓋と脊柱からのAMRは禁止したが、その他の骨からのAMRについては、脊髄に加え、「背根神経節、脊柱沿いの脊髄に結び付いた神経細胞破片を含むことを禁止」しただけで、AMR自体は禁止していない]

2.歩行困難な牛(ダウナーカウ)

・これらの牛がBSEに感染している可能性は健康な牛よりも高く、人々と動物の健康へのリスクがより高いことは確かである。これに関する措置の目標は、(1) サーベイランスのためにそれらを検査すること、及び(2)感染性があり得る組織が食物・飼料連鎖に入ることを防止することにおかれねばならない。[米国はこれを食用禁止にする新措置を取ったが、これにより]検査される屠畜場での屠畜監視から逃れることを考えると、屠畜場でのBSEサーベイランス・プログラムから重要な牛のグループが抜け落ちることになる。したがって、米国農務省(USDA)は、死亡牛・ダウナーカウからの検査サンプル収集及びこれらの屠体の適切な処理のための別の経路を確保する追加手段を取ることが絶対に必要とする。これは、サンプリング、輸送、処理に関する多大な費用を生むだろう。

・これらの牛が正常な屠殺の過程に入るリスクを減らすために、遵守を促すための補完措置が設けられねばならない。この措置には、金銭的刺激から問題ある牛を確認するための生前検査強化まで含まれる。さらに、同じ目的のために、屠畜場での生前検査を通過した高齢牛の適切なグループからのランダムな検査サンプルの採取も考慮されるべきである。

・このリスクあるグループの最大限のサーベイランスを達成するために、獣医当局は、安全な食品の生産者としての役割を持つ農業者の教育を含むすべての可能性を考慮しなければならない。

3.サーベイランス

・サーベイランスの目的は、BSEの発生率を推定し、また予防・コントロール措置の成否をモニターすることにある。今や北米におけるBSE病源体の流通が確認されたのだから、米国におけるサーベイランス・プログラムは、問題の大きさを測定するために、大きく拡張されねばならない

・サーベイランス・プログラムのターゲットは高リスクの牛に向けられるべきである。BSEリスクのある国から輸入された牛の居る農場に焦点を当てた屠畜及びレンダリングの場所でのサーベイランスは、北米内部に病源体が侵入し、増殖している現在、もはや不適当である。

・通報を待っての受け身のサーベイランス(パシブ・サーベイランス)でBSEの兆候を示す牛、死亡牛(農場で及び輸送中に死んだ牛)、30ヵ月以上の緊急屠殺牛(すべての種類のダウナーカウを含む)が最もリスクの高い牛であり、これらに標的をしぼったサーベイランス・システムがBSEのケースを確認するのに最も効率的である。

・これらの30ヵ月以上の高リスク牛すべての検査とパシブ・サーベイランス・システムの強化を勧告する。

人間の消費のために屠殺されるすべての牛の検査は、人間と動物の健康の保護に関しては正当化されない。しかし、30ヵ月以上の健康な屠殺牛の全体的サーベイランス・システムの支持とランダム・サンプルの検査の農場レベルでの報告の奨励は考慮されるべきである。

4.試験所診断

・各国のサーベイランス・プログラムでの発見の比較を容易にするために、類似の診断検査が採用されるのが望ましい。能動的(アクティブ)サーベイランスのための第一次スクリーニング検査として、ヨーロッパで採用され、有効性が示されている迅速免疫診断検査の採用を勧告する。

・サンプル受け取りから検査までの時間を短縮するために、国家サーベイランス・プログラムの一環としてのスクリーニング検査を行うために、国中に分散した多数の試験所が政府により承認されるべきである。基準試験所は従来通り、国家獣医局試験所内にとどめる。

5.飼料規制

北米におけるBSEの状況を考えると、現在の部分的(反芻動物から反芻動物への)飼料禁止は、牛のBSE病原体への暴露を防止するには不十分である。現在の飼料禁止は、BSE感染性の伝播を多少は減らしはしたものの、止めることはできなかったと結論できるヨーロッパの初期段階の対応にとどまっている。英国における疫学的調査は、とくに、豚や鶏の飼料に哺乳動物肉骨粉が合法的に使われている工場で偶然に汚染された飼料の消費を通じて牛が感染する危険を明らかにしている

英国の獣医試験所で進行中の研究からのデータによれば、牛は感染した脳組織10rで経口感染する。このレベルの交差汚染の防止は、豚・鶏飼料やペットフードに配合される哺乳動物肉骨粉が反芻動物飼料を生産する飼料工場に存在するところでは、ほとんど不可能に近い。飼料コントロールの遵守の厳格な監査の必要性は認めるが、サンプリング技術と検査の感度に限界があるから、この低いレベルの汚染を飼料と飼料成分の検査により発見することはありそうもないと考える

科学は反芻動物飼料中の反芻動物由来の肉骨粉の禁止に限定された飼料禁止を支持するだろうが、執行の実際上の困難のために、プラグマティックで有効な解決策が必要である。反芻動物飼料にすべての肉骨粉(鶏のものも含めて)の使用を禁止することは、部分的には、交差汚染の問題だけでなく、哺乳動物と鶏の肉骨粉の区別の困難の問題からも正当化される。この禁止により、屠殺場で豚または鶏の腸のルーメン内含まれ反芻動物由来の蛋白質が反芻動物に使われる可能性のある動物飼料に入り込むのも防止する

・交差汚染は、飼料成分の受け入れと輸送、製造過程、完成飼料の輸送と貯蔵、混合・ブレンド・給餌が行われる農場、すべての飼料チェーンを通じて防止されねばならない。

SRMまたは肉骨粉の分離と処理のための確立されたインフラストラクチャーがないことを認め、実施には段階的アプローチが必要だということを受け入れる。

・現在BSE発生に見舞われているすべての国で、このような大量の原料(肉骨粉)の排除と破壊は重大な負担となっている。だが、微量でも牛が感染する可能性と、商業的過程で感染性の破壊を保証する加工システムが存在しないことを考えると、伝統的な飼料への利用が復活することはありそうもない。将来の安全な利用のためには、一層根本的で革新的な解決策が必要になる。これには、飼料・肥料の製造以外の目的(例えば燃料源)での利用を通して価値を付加することも含まれる。

現在の飼料禁止は、すべての反芻動物飼料から哺乳動物と鶏の蛋白質を排除するように拡張され、またこの禁止と交差汚染防止措置が強力に執行されることを勧告する。この勧告は、飼料のサンプリングと検査を含む検査プログラム通じて執行されねばな5ない。他の措置で同等の結果が確保できれば、このかぎりではない。

 このほか、報告は、「北米農業」に適した国家牛識別システムの実施によるトレーサビリティーの確保、それなしでは法的コントロールの遵守が不可能な有効なBSE教育プログラムの拡充・強化などを勧告している。

農業情報研究所(WAPIC)

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