農業情報研究所

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舌にもBSE感染性の疑い、新研究

農業情報研究所(WAPIC)

03.1.6

 2002年12月30日付のNature Newsが、「舌肉」にも狂牛病(BSE)感染リスクがあり得るという新たなリポート(Bartz, J. C. et al. Rapid prion neuroinvasion following tongue infection. Journal of Virology, 77,583 -591, (2002). )について報じている(Tongue's out for BSE)。

 新たな発見は、ハムスターの脳に注入されたプリオン蛋白が舌に移動、比較的高いレベルで蓄積されたというものである。これを報告した研究者は、このことはBSEの牛がプリオンを蓄積した舌を持つことや、この舌を食べることが人間に病気(変異型クロイツフェルト・ヤコブ病、vCJD)を引き起こし得ることを証明するものではないが、フード・チェーンに入ることを許される肉に関する指針の再評価がなされるべきだと言っている。

 イギリス・エジンバラの動物保健研究所の病理学者・Jan Fraserは、神経組織は感染性プリオンを脳から舌に運び得るが、病気を引き起こすに十分な感染性があるかどうかが議論の余地のあるところと説明する。彼女は、感染牛の舌の神経細胞を注入されたマウスは健康であり、今のところ、BSEの牛の舌や末梢神経組織の感染性については証拠がないが、新たな結果はさらなるテストに値すると言う。

 今回の報告の研究チームは、牛においては脳はプリオンを舌にダウンロードし、人間においてはプリオンは舌を通って脳に入るのではないかと提議している。現在の意見は、プリオンは胃を通じて人に感染すると主張している。

 ハムスターの舌に注入されたプリオンは脳に達するまでに1、2週間を要した。これらのハムスターは、消化管を通して感染させたときの190日より短い80日で発病した。研究チームは、プリオンは小さな舌の傷を通って侵入し得ると言う。

 狂牛病については分からないことばかりだが、通説を疑わせる発見がまた一つ増えたことになる。舌は、今まで感染性がないとして、EUでも食用とすることが禁じられなかった。昨年は、肉そのものの感染性を疑わせるカリフォルニア大学の研究チームの新たな発見が発表された(マウスの筋肉に異常プリオンが蓄積という研究、食用動物の早急な調査が必要,02.03.19)。また、従来、BSEとは無関係とされてきた孤発性CJDのなかにもBSEに関連したものがあり得るという研究も発表された(狂牛病関連病はvCJDだけではない、孤発型CJDにも関連の可能性,02.11.29)。BSEをめぐる謎は解明されるどころか、むしろ深まっていると言えないだろうか。しかし、BSEに関しては、わが国は、マスコミも含め、すっかり太平楽に戻ったようだ。