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日本:農水省、BSE擬似患畜の範囲改訂へ

農業情報研究所(WAPIC)

03.6.12

 日本農業新聞の報道(BSEで農水省 擬似患畜に新基準 殺処分2割に縮減、6月12日 1面)によると、農水省は、国際獣疫事務局(OIE)総会の5月23日の総会での決定を受け、牛海綿状脳症(BSE)感染が確認された際に殺処分される「擬似患畜」の範囲に関する新基準を、5月20日に開かれる「BSE対策検討会」後に決定する方針で最終調整に入ったという。当初、7月に設立される食品安全委員会に諮ることも考えたいたようだが、「同省首脳は『牛肉の安全性は全頭検査で確保されており、擬似患畜の範囲の見直しが食品食品の安全性に直接かかわる内容ではない』とみており、「厚生労働省も同様な考えを同省に伝えている」ことから早期決定に踏み切るということらしい。13日にBSE技術検討会で意見を聞き、厚生労働省と協議した上で、消費者等も参加するBSE対策検討会を20日に開くことで日程を調整中。この検討会で同意が得られれば、直ちに決定する。

 改訂基準による擬似患畜は、

 1.患畜の誕生または導入の1年前から患畜が1歳になるまで(現行基準では死亡時まで)の間に患畜と同居した患畜発生農場で生まれた牛(ただし、食べさせていた飼料がわからない場合は、この期間に同農場で生まれたすべての牛)、

 2.患畜の誕生または導入時から患畜が1歳になるまで(旧基準では死亡時まで)に患畜と同居したことのある患畜発生農場に導入された牛

 3.患畜のBSE発症2年前以後から死亡時までの間に患畜から生まれたすべての(旧基準では、この期間に最後に生まれた)牛、

 となる。これによって、患畜発生農場で生まれた牛・同農場に導入された牛でも、患畜が1歳以上になってから生まれたか導入された牛は擬似患畜から除外されることになる。日本でこれまでに擬似患畜として殺処分された牛は同居牛の8割にのぼるが、新基準が適用されると2割弱にまで減るという。

 牛のBSE感染のメカニズムについては確定的結論はない。従来は、大部分のBSE感染は病原体に汚染された飼料を食べることから生じ、稀に母子感染があるという仮説に基づいて擬似患畜の範囲が決められてきた。新基準は、牛が汚染飼料を食べてBSEに感染するのは1歳までの間だけという仮説に基づくことになる。「科学的」に確認できた仮説ではないが、統計的事実から一応の正当化理由はある。

 フランスも同様な新基準を採用したが、これを認めた食品衛生安全機関(AFSSA)の意見書(フランス:食品衛生安全機関、擬似患畜の基準緩和にゴー・サイン,0210.22)は、殺処分で検査された約2万5千頭の牛のうち、4頭がBSE陽性であったが、そのすべては「患畜の出生の前後12ヶ月の間にこの患畜が生まれた牛群(同居牛)内で生まれた牛、または生後12ヶ月の期間中の何らかの期間に患畜と共に育てられ、また生後12ヶ月の間に患畜が消費したのと同じ飼料を消費した可能性がある牛のすべて」(コーホート牛)の中に含まれており、新基準の下でもこれらの牛は殺処分されるとしていた。

 ただし、AFSSAの意見書は、「すべての同居牛は、患畜発見後、非常に短い期間内に同時に屠殺されるから、検査が発見できるまでに病気が進展していない感染牛が含まれる可能性を否定できない」として、こうしたことがどの程度起きる可能性があるかも推定している。検査された牛の頭数は前記の結論を正当化するために十分であるのか、間違ってシロと判定される比率を考慮しても前記の結論は正当化できるのか、これを検討したのである。例えば、間違ってシロとされ、人間の消費に供される牛は年に0.06頭から0.212頭と極めて少ないと推定された。こうしたことと、これらの牛の危険部位は除去されることから、AFSSAは新基準を認めたのである。

 検査の限界を考慮せず、「全頭検査」をしているから安全性に問題はないと単純に結論する日本とは大違いであるが、そのことはおいても(この点については繰り返し指摘してきたが、日本の関係当局はまったく聞く耳を持たないし、むしろこうした見解をできる限り隠したがっている。もはや、これについては誰が、OIEの専門家が、何を言っても無駄である)、AFSSAは、新たな措置には、患畜が発見された牛群出自の牛におけるBSE発生率の変化を検証し、それが高まったときの対応を可能にするために、検査結果の特別の登録を伴なうべきだとも念を入れている。感染牛が「コーホート牛」に限られるという結論は、なお変わる可能性も考慮しているのである。また、消費者の安全確保のためには、特定危険部位の除去が重要である(つまり、現在の検査結果は100%信頼できるものではない)ことを改めて喚起している。

 擬似患畜の範囲はどこの国でも非常に微妙な問題である。同居牛すべての殺処分は生産者に回復不能な打撃を与える。そのために、BSEが疑われる牛を発見しても、通報義務に反して闇処分が増える可能性がある。生産者の受ける打撃を緩和し、同時にBSE発生が闇に葬られないように、擬似患畜の範囲は可能な限り狭めることが望ましい。しかし、この病気がもたらす回復不能な結果の重大性を考慮し、またBSE発生のメカニズムがなお十分に解明されていないことを考慮すれば、決定には「予防原則」の最大限の適用が望ましい。

 本来ならば「食品安全委員会」に諮るべき問題と思われるが、BSE対策検討委員会がいかなる結論を出すにせよ、その根拠を国民に明確に示すことを望みたい。AFSSAの意見書はその一つのモデルとなるであろう。