英国:再燃するBSEの脅威―肉骨粉禁止後生まれの感染が急増

農業情報研究所(WAPIC)

03.11.25

 11月20日、英国で96年10月生まれの牛にBSEが確認された。イギリスでは96年7月までにそれまでの飼料規制を強化、すべての哺乳動物肉骨粉(MMBM)、あるいはMMBMを含むと分かったすべての飼料の販売または供給を禁止した。これらの飼料を回収・廃棄するとともに、96年8月1日からはMMBMを含む家畜飼料の加工を停止した。この日以後、イギリスにはMMBMを含む飼料はまった存在しないはずである。それにもかかわらず、96年7月31日以後に生まれた牛にBSEが確認されてきた。このようなケースは、再強化された禁止以後に生まれた(born after reinforced ban)BARBのケースと呼ばれる。最近のこのケースが急増している。

 これまでに確認されたBARBのケースは、20日に確認されたケースを含め、グレート・ブリテン(GB)島で67頭、北アイルランで11頭に上る。ところが、このうちGBで40頭、北アイルランドで5頭までが今年に入って確認されたものである。MMBMの全面禁止以後に生まれた感染牛が発見され始める時期に達した結果だとすると、こうしたケースは今後ますます増えてくる恐れがある。この全面禁止でBSEは消滅に向かうと考えてきた研究者にはショッキングなことと言えよう。24日付の「ガーデイアン」紙(*)は、「感染がないと想定される牛のBSEのケースの予期せざる急増後、科学者たちは、この病気の新たなチェックを考えている」、「30ヵ月以上の英国の牛からの牛肉を食料として利用するのを禁じる96年のもうひとつの禁止を解除するかどうかの決定(参照:英国:FSA評議会、BSE30ヵ月以上ルール廃止勧告に合意,03.7.16)も延期されるおそれがある」と報じている。

 研究者の不安は、BARBのケースの感染源が未だに解明できないことからくる。BSE病源体の起原あるいは感染源については、いままでのところ確定的結論は出ていない。BARBのケースの感染経路の解明が難航するのもそのためである。これまで、飼料からの感染、垂直感染(母子感染とその様々な経路)、遺伝的要因や孤発性BSE、水平感染(同日か1−3日遅れて生まれた牛の間)、下水汚泥や屠殺場廃棄物からのリスク・感染動物の組織や排泄物からのリスク・鳥・鼠類・その他の生物からの伝達のリスクなどの環境からのリスク、自己免疫疾患理論、パーディー氏の有機燐・ミネラルのアンバランス説など、考えうるあらゆる仮設が検討されてきた。しかし、いずれについても確証は得られなかった。勇ましい政治家や官僚とは違い、科学者はBSE撲滅への道を探しあぐねているのが実情と言えよう。

 英国の専門家諮問機関である海綿状脳症諮問委員会(SEAC)は、26日の第80回会合で、BRABのケースの感染源を検討する。この会合には、今年10月6日までにGBで確認された59のケースの調査に基づくBARBのケースの疫学的研究がワイルスムス教授により提出される(**)。

 この研究によれば、BARBのBSEが発生した牛群で特にBSE発生率が高いわけではなく、環境汚染はBARBのケースの発生を説明するリスク要因にはなりそうもないことが示唆される。BARBのケースの母親の調査からして、母子感染も大多数のケースでは考えられない。

 ただ、BARBのケーでは、それ以前のケースでは地域によるリスクの差があまりないのに、イングランドの東南部でリスクが高まる傾向があるという。96年以前のケースに比べてBARBのケースの地理的分布が大きく異なることは、以前の高リスク地域の汚染飼料への継続暴露とは整合しない。つまり、禁止後に何らかの事情で残存している汚染飼料を感染源とするのは整合性がないということである。

 他方、飼料はヨーロッパ大陸から大量の輸入されており、2001年1月1日までMMBMが全面禁止されなかったヨーロッパ大陸の港ではMMBMの貿易が合法的に可能であった。他の多くのBSE発生国で飼料成分の交差汚染が起きていたと考えると、感染源はこのヨーロッパ大陸から輸入された飼料であると考えることができる。東南イングランドでリスクが高いことはまだ確定されたわけではないが、これはヨーロッパ大陸からの飼料を感染源と考えることと「整合しない(inconsistent)」わけではないという。

 また、乳牛と肉用牛での発生率が大きく異なることから、遺伝的要因とは「整合」しない。孤発性の可能性についても、二つの双子のケースがあり、このような確率での孤発型発生は考え難い。

 こうして、外来飼料が感染源とするのが最も有力と見られているわけであるが、これも確証があるわけではない。ワイルスミスは、将来の疫学研究の目標には、外来感染、国内感染、異種動物給餌、環境汚染、水平伝達の調査を含めるべきだと提案している。BARBのケースの研究は、BSEの起原や感染経路の解明に寄与することになるかもしれない。しかし、感染源の解明はまだ先のことのようである。BSEの脅威は消滅することなく、長く続きそうである。

Sudden rise in BSE alarms scientist,Guardian,11.24
**Epidemiological update on Born After the Real Ban (BARB) cases of BSE. Origin of BARBs Discussion(SEAC,11.19)

農業情報研究所(WAPIC)

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