米国のBSE(第二報):崩れる消費者の信頼、最大の心配は先進的機械回収肉(AMR)

農業情報研究所(WAPIC)

03.12.26

 米国農務省(USDA)は24日、前日発表されたBSEのケースに関する記者会見を開いた(Tele-News Conference Briefing Updating Presumptive Positive BSE Case Washington D.C.)。ベナマン長官は、新たな事実として、この牛がワシントン州南部の4千頭の牛を飼う大規模酪農農場であることを明らかにした。この牛は01年10月に購入されたものだが、どこから購入されたかは不明という。

 同時に、12月9日にこの牛を屠殺したワシントン州の屠殺企業は、この日生産され、BSE病源体に汚染された可能性のあるすべての原料肉約4千200キロを自主的にリコールすると発表した。ただし、製品の行き先はなお調査中という。このリコールは、「製品の利用またはそれへの暴露が一時的あるいは回復可能な健康への悪影響をもたらすか、深刻な悪影響が起こる可能性が低い」場合のリコール(クラスUのリコール)である。高度な感染性をもつと科学的に証明されている脳・脊髄・回腸遠位部は屠殺に際して除去されており、生産された肉が汚染されているとか、健康に悪影響を及ぼすとは考えられないが、用心のためにリコールするのだという。長官は相変わらず「安全」を強調するばかりだ。「我々は90年にスタートし、改善を続けてきたわが国のBSE対応は、この状況から生じる人間の健康のリスクが極度に小さく、人々は我々の肉供給の安全性を大いに信頼し続けると信じる」と、前日からの主張を繰り返した。

 しかし、牛肉市場の動揺は激しい。日本、メキシコ、韓国、香港、台湾など、米国牛肉の主要輸入国が輸入を停止し、シンガポール、マレーシア、インドネシア、ベトナム、オーストラリア、ロシア、中国、ブラジル、チリ、コロンビア、南アフリカもこれに続いた。カナダは部分停止に踏み切った。現金取引が薄いときにぶつかったために米国内の牛肉取引には未だ大きな影響を出ていないが、来週には大きな変化が生じるかもしれない。マクドナルド等、食品企業の株価は大きく下げている。消費者の反応はまちまちであるが、危険部位を含む食肉をメニューから外すレストランも現われている。

参考:米国の牛・牛肉製品の主要輸出国と輸出額
(03年1-10月、千ドル)

日本

韓国

メキシコ

カナダ

台湾

香港

1,132,584

665,275

604,266

245,609

59,989

59,717

ロシア

タイ

シンガポール

マレーシア

オーストラリア

チリ

43,995

28,615

5,043

1,656

305

162

 問題の牛が最終的にシロと判断されれば状況は多少変わるかもしれないが、クロを前提とすれば、消費者の反応は、他にもBSEが広がっているのかどうかによって大きく変わるだろう。それを見極めるには、今回のケースの感染源と感染経路の解明が不可欠だが、そのためには、先ずこの牛がどこでいつ生まれたのか、どこで感染したのか解明されねばならない。会見で明らかにされたのは、この牛は2歳のときにこの農場に入り、2年ほどこの農場に居た、来てからすぐあとに子を生み、屠殺に送られたときは3回目の出産の後、BSEの潜伏期間は4年から5年だから、この農場に来る前の別の農場で汚染飼料を食べた可能性が非常に高い、といったことが明かにされた。だが、多くのの農民はタグ無しの牛を飼っているから、出生地や感染地の特定には手間取るだろう。「人々は我々の肉供給の安全性を大いに信頼し続ける」という長官の発言は楽観的にすぎるように思われる。

 会見では、感染性のある組織はすべてレンダリングに送られ、人間の食料には入っていないから、人間の消費に向けられた組織は、感染牛からのものであっても安全である、牛からの蛋白質を他の牛に与えることを禁止する97年8月以来の動物の健康保護措置が取られてきたから、人々と動物の安全は確保されていると考えられると、安全性が強調された。だが、消費者団体は、こうした措置の有効性を疑っている。

 飼料規制について、会見では、規制の遵守率は、当初は75%だったが、現在は99%、禁止物質を扱う飼料企業1,826社のうち、違反しているの2社だけだと、「劇的な改善」が強調された。だが、未だに違反者がいるということ自体が規制の有効性を疑わせる。「地球の友」の会長・ブレント・ブラックウェルダーは、肉骨粉飼料禁止の違反の数は、02年4月から03年10月の間に3倍に増えたという政府報告があると言う。それに、この飼料規制は鶏や豚には適用されないから、これが牛の餌に混じる「交差汚染」の可能性も排除されていない。USDAの狂牛病作業班の長を今年辞めた獣医・リンダ・デトワイラーは、ルール自体が不適切だと言う。例えば、工場的鶏肉農場からの廃棄物は鶏が食べ残した餌を大量に含むが、牛の餌にされる可能性があり、牛の神経組織が牛の飼料として戻って来る恐れがあると言う(U.S. Scours Files to Trace Source of Mad Cow Case,The New York Times,12.25)。

 そのうえ、一般の牛の特定危険部位は一切除去・廃棄されていないし、今回の感染が疑われる牛の危険部位がレンダリングに送られ、鶏や豚の餌に使われることからわかるように、いわゆる歩行困難な「ダウナー牛」の危険部位は人間の消費に入らなくても、鶏や豚の餌やペットフードに使われる。交差汚染によるBSE感染の可能性は、ますます排除できなくなる。

 一般の牛の特定危険部位が廃棄されないことから、BSEが広まっていれば人間の食料に感染性組織が入る可能性がある。BSEの広がり具合を確かめる最も有効な手段は、ダウナー牛、死亡牛、病牛等の「リスク牛」のBSE検査だが、その数は客観的データを得るためには少なすぎる。毎年屠殺されるダウナー牛の数については論争があり、6万という説から70万という説もあり、USDAは99年の牛肉産業団体の19万5千という推定が最も妥当としている。リスク牛の検査は最近増えて、今年は2万526頭になったが、いすれにせよ、BSE発生状況を把握するためには少なすぎる。これでは人々の健康のリスクの評価もできない。消費者の不安が消えるはずがない。

 その上に、感染の可能性が一般牛より高いこれらのダウナー牛、病牛が、特定危険部位を除去した上とはいえ、人間の食用に利用されている。政府官僚は、肉による感染の可能性は極度に小さいというのは科学的に確認されているというが、消費者は、屠殺・食肉処理過程での肉の危険部位汚染に神経を尖らせている。解体に先立って牛を気絶させる「スタンニング」、背割りによる汚染だけではない。消費者団体がもっとも恐れるのは、先進的食肉回収(AMR)システムにより生産される食肉だ()。従来の肉がついた骨を丸ごと粉砕、高圧で肉を篩い取る機械的回収肉は禁止されたが、骨ごと粉砕しないで肉を抽出するAMRシステムによる回収肉でも、農務省食品検査局の昨年の34施設調査は、最終製品の約26%から脊髄、約10%から背根神経節を検出している。この生産にダウナー牛が使われているとすれば、リスクはますます高くなる。

 公益益科学センターの食品安全部長・デワールは、ハンバーガーを食べて変異型ヤコブ病(vCJD)に罹るリスクは、心臓病になるリスクより少ないだろうが、挽肉には大いに注意せよと言う。彼女の心配の中心はAMR肉だ。この方法で作られる肉は、年間265億ポンドの0.2%にすぎないが、大部分は食品加工業者に売られ、ホットドッグ、ピザのトッピング、ソーセージ、タコスの詰め物、挽肉パティーなどの他の挽肉・加工肉に含まれる。彼女によると、以前の調査では、マクドナルド、バーガーキング、ウエンディーはAMR肉を買っていないと言った。昨日、ピザハット、ドミノも、その製品にはAMR肉は含まないと言った。クラフトフーズ、コンアグラ・フーズも同様だ。どの企業がAMRを買っているか不明だという。

 01年と02年、議会はダウナー牛を人間の消費のために屠殺することを禁じる法案を承認するところに近づいたが、農業圧力団体が激しく反対、下院農業委員会のリーダーが阻止した。今年、上院が同様の法案に賛成したが、7月に下院が202対199で否決、現在審議中の包括支出法案に含まれていない。農業委員会委員長のバージニアの共和党下院議員・グッドラットは、ダウナー牛を人間消費用に屠殺することを禁止すれば、狂牛病の牛が獣医や食品検査官により調査されなくなると言う。農民は屠殺に出す動機がなくなり、牛は農場に埋められるか、非合法に食品に入ってくる恐れもあるというのである。(U.S. Scours Files to Trace Source of Mad Cow Case,The New York Times,12.25)。それはもっともだが、これはダウナー牛の全頭検査などはるかに遠い話であることも示唆しており、米国牛の安全性をめぐる疑惑は永遠に晴れないことになる。

 アメリカ消費者連盟(CFA)は24日、米国の食肉供給の安全性への消費者の信頼はBSE発見によって損なわれるだろうとし、とりわけダウナー牛を人間の食用に利用すること禁じる法案の来年早々の採択を要請する声明を発表した(Consumer Federation of America's Carol Tucker Foreman on BSE Infected Cow in the U.S.)。それは、この法案を来年1月に最終的に採択される2004年度包括支出法案に含めることのほか、すべての牛の義務的トレースバックを確立する立法、食品の義務的リコールを定める立法を要求している。

 (注)一部マスコミに、機械的「解体」肉といった表現が見られるが、これは誤解を招きやすい表現なので注意を要する。「解体」とは、通常は、屠殺後、皮または毛を剥ぎ取り、頭部と四肢・尾を切断し、内臓を取り出して枝肉とし、これを脊柱に沿ってニ分割(背割り)、半丸枝肉とするまでの過程を指す。また、枝肉を分割して除骨、部分肉を作る過程を指すこともある。だが、先進的食肉回収(AMR)とは、ここまでの過程を終えたあと、なお骨に附着残存する僅かな肉を骨から分離して「回収」することを指す。骨を適当な長さに切り、高い水圧をかけて肉を搾り出す。テレビのインタビューでAMRのことを聞かれているいるはずなのに、日本とアメリカの「解体」方法の違いついて何回か質問されて困惑したが、今にして、この「解体」が「回収」を意味していたのだと了解した。日本では、ここに至る前の過程で、肉はほぼ完全に削ぎとられ、骨に残存附着する肉はほとんどなくなってしまうから、このような方法で食肉を「回収」することは行われていない。欧米では、手間を省き、労働コストを下げるために、肉をここまで手で削ぎ取ることはしないで、残った肉を機械的に回収する。国内で流通する「回収」肉は、主に米国からの輸入品といわれているが、どれほどの回収肉がどんな製品に使われているかは不明である。

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