ＥＵの2003年ＢＳＥ検査結果―ＢＳＥ根絶への道はなお遠い

農業情報研究所（WAPIC）

04.3.2

　欧州委員会は3月1日、2003年1月から12月までのＥＵ15ヵ国におけるＢＳＥ検査結果を発表した（→ＥＵ諸国におけるＢＳＥ検査結果：2003年1月−12月）。同時に、ＥＵ新規加盟候補国9ヵ国及びノルウェーにおける検査結果も発表した。

　ＥＵ15ヵ国における総検査頭数は1千17万159頭、その内、129万5千529頭（12.9％）が農場での死亡牛、緊急屠殺牛、正常な屠殺に出されたが生前監視で病気が発見された牛などの高リスク牛、2千573頭（0.027％）が診断によりＢＳＥの疑いが報告された牛、2万4千784頭（0.25％）が感染確認牛と同時期に出生し・一緒に飼育された牛、飼料を同じくする牛、ＢＳＥ牛の子、同一農場の牛などの「淘汰」対象牛、869万4千273頭（86.8％）が正常に屠殺された牛であった。新規加盟候補国及びノルウェーを加えると、これらの数字は、それぞれ1千89万2千980頭、145万1千450頭（13.3％）、2千678頭（0.025％）、2万5千565頭（0.23％）、941万3千287頭（86.4％）となった。検査結果は次表のとおりである。

ＥＵ15ヵ国の検査結果

ＥＵ15ヵ国・新規加盟候補9ヵ国・ノルウェーの検査結果

　平均すると、検査した7千頭余りに1頭の割合で陽性牛が発見されたことになる（デンマーク約15万頭に1頭、ドイツは約5万頭に1頭で、イギリスは768頭に1頭、ポルトガルは822頭に1頭といった開きがある。この年陽性牛が1頭も出なかった11ヵ国は、計約26万頭を検査している）。ただし、診断でＢＳＥを疑われた牛の検査では、約9頭に1頭、高リスク牛では1,860頭に1頭の陽性牛が発見されたのに対し、正常に屠殺された牛では3万頭に1頭の割合でしか陽性牛は発見されていない。

　2003年に新たな発生国となった国はヨーロッパにはない。スウェーデンを除くＥＵ諸国（14ヵ国）とチェコ、ポーランド、スロベニア、スロバキアの中東欧4ヵ国が発生国である。ＥＵ諸国以外では、03年、チェコで4頭（正常屠殺牛3頭、高リスク牛１頭）、ポーランドで5頭（正常屠殺牛4頭、嫌疑牛1頭）、スロベニアで1頭（高リスク牛）、スロバキアで1頭（正常屠殺牛）の陽性牛が発見された。

　2001年7月から30ヵ月以上の正常屠殺牛と24ヵ月以上の高リスク牛の全頭検査を義務付けられたＥＵ諸国のＢＳＥ確認件数は、当初急増したが、02年以降、概ね減少傾向を辿っている。イギリスの陽性頭数は、02年の1,125から03年607にほぼ半減、ＢＳＥが始まって以来初めて三桁の確認件数となり、他のＥＵ諸国全体の確認件数も初めて下回った。イギリス以外のＥＵ諸国の陽性頭数も全体的に減少傾向にあり、02年の1000から03年には744に減った。ただし、03年の月別の確認件数の推移は着実に減っているとは言えない。全体として減少傾向は否定できないとしても、ＢＳＥ根絶までの道程はなお遠いようだ。イギリスでは、肉骨粉全面禁止後に生まれた牛の感染の発見が増える傾向にあり、昨年末までに79頭に達している。その後感染した牛がなおあり、潜伏期間が終わって表面化し始めたとも解することができる（→英国：再燃するＢＳＥの脅威―肉骨粉禁止後生まれの感染が急増,03.11.25）

　なお、ＢＳＥが人間に伝達したものと考えられている変異型クロイツフェルト・ヤコブ病（ｖＣＪＤ）によるイギリスの死者は139人（生存者7人）となっている。死者は2000年の28人をピークに、01年20人、02年17人と減少、今後減少傾向が続くと期待されていたが、03年には反転、18人に増えた。ともかく潜伏期間がまったくわかっていない病気である。最悪の事態は脱したと、にわかには結論できない。

農業情報研究所（ＷＡＰＩＣ）