米国:BSE高リスク牛が検査なしでレンダリングに―産業最優先姿勢が鮮明に

農業情報研究所(WAPIC)

04.5.7

 米国農務省(USDA)は5月3日、中枢神経異常の症候を示す牛がBSE検査を受けることなく、レンダリング施設に送られていたことを明らかにした。テキサス州・サンアンジェロのローン・スター・ビーフという屠畜場に出されたこの牛は、ふらつき、倒れるという症状が発見されたにもかかわらず、BSE検査のための脳サンプルを採取されることなく、レンダリングに回されたという。

 この事件は、先ず米国のBSE監視・検査体制がいかにズサンなものであるかを露呈する。USDAによれば、現在の規則では、動植物衛生検査局(APHIS)は、食品安全検査局(FSIS)が生前検査でこのような中枢神経組織病に符合する症候を示すと認めたすべての牛の脳サンプルを採取することになっている。それなのに、これが実行されなかった。APHISがサンプルを取らない場合には、地域担当獣医はFSISの獣医の名前を記録し、サンプル採取の基準に合致しないか、サンプルの質が許容できない理由を特記しなければならないとされているが、今回のケースではこれも実行されていない。規則は作っても実行体制がなっていないことを改めて実証したようなものだ。USDAは、歩行困難な牛(ダウナーカウ)・中枢神経組織異常の兆候を示す牛・死亡牛等の高リスク牛の可能な限りの検査を実施するサーベイランス拡充計画を6月1日から実施すると発表している。以前、この計画もどこまで実施できるか危ぶまれると書いたが(⇒米国、BSE検査拡大へ、サンプル確保の保証はなし,04.3.18)、この懸念も一層高まる。

 なぜこんな事態になったのか。USDAは調査するというから、最終的にはその結論を待つべきであろう。だが、米国消費者団体は、USDAの調査には期待を抱いていないようだ。6日付のニューヨーク・タイムズ紙によれば(Calls for Federal Inquiry Over Untested Cow,The New York Times,5.6)、消費者連盟、食品安全センター、政府責任プロジェクト(密告者保護)は5日、議会に対して、この牛が検査されなかった理由と連邦官僚が検査をしないように命じた可能性についての調査を要請した。消費者グループは、牛肉産業に与える損害を理由にBSEのさらなる発見を避けようしている、前牛肉産業関係者が省の幹部の地位に就いているなどとUSDAを批判してきたが、今回は、牛肉産業の一ウェブサイトに、連邦検査官がサンプル採取を始めたが、オースチンの省地域本部により停止を命じられたという記事を発見したという。

 屠畜場の女性報道員は、連邦検査員がサンプル採取を議論したが、結局反対の結論を出したと言い、全国食肉協会常務のローズマリー・マックローは、連邦検査員が、レンダリングのための定期トラック便に乗せる前、屠体を切り裂き、緑の染料で着色するように命じたと言っている。政府責任プロジェクトの食品安全ディレクターのフェリシア・ネスターは、最近のいくつかの審理で、検査員(密告者)が地域官署により脳損傷の兆候のある牛をわざわざ検査するなと命じられたと語るのを聞いたと言う。彼女は、さらに、テキサスのような州では、サンプルを持っての地域官署へのドライブは数百マイルも走らねばならず、面倒だからと検査が省略される場合もあると聞いたとも言う。

 ローン・スター・ビーフは国で18番目の大規模な高齢牛専門の屠畜場だが、情報公開法に基づき02年、03年の屠畜場の記録を収集したUPIのスティーブ・ミッチェルによれば、この2年で35万頭を屠殺、検査したのは3頭だけという。USDA報道官のロイドは、通常検査される牛はダウナーカウで、ローン・スターはダウナーカウを禁じているマクドナルドへの供給者であるために、ダウナーカウを受け入れていないと検査の少なさを説明している。だが、これも今回の検査省略の説明にはならない。真相究明は議会の調査に待たねばならないかもしれない。

 今回の事件で露呈したのは、このような監視・検査体制の問題だけではない。それ以上に問題なのは、このような牛が、特定危険部位を除去されることもなくレンダリングに回されることが禁じられていないことだ。今回も、USDAはこの牛が食用には回っていないから、消費者の安全は守られていると強調するばかりだ。APHISによりBSE検査のサンプルを取られるいかなる牛も、BSE陰性が確認されるまでは、食用不適品製造のためのレンダリングに回さないように要求されている。だが、これは義務ではない。少なくともヨーロッパでは、このような牛はあらゆる利用を禁じられ、焼却処分されるか、埋め立てねばならない。だが、米国基準では、焼却や埋立も「可能」と言うだけだ。

 このような牛も、化粧品から医薬品カプセル用のゼラチンに至るまで、様々な消費者製品に利用される動物副産物を調整するレンダリング工場で加工することが許されている。ここで生まれる肉骨粉の飼料への利用も全面禁止されてはいない。

 飼料規制を担当する食品医薬局(FDA)は4日、今回の問題の牛は既に「肉骨粉」に加工されていたが、すべてを企業が保管していることを明らかにした(Statement on Texas Cow With Central Nervous System Symptoms)。だが、その廃棄を命じることなく、豚の飼料だけに使うならば利用に反対しないという書簡を企業に送るという。そしてこの場合、加工業者から農場までの供給チェーン全体でこの肉骨粉の流れを追跡、飼料が適切に監視され、豚の飼料としてのみ利用されることを保証するという。だが、こんなことは、一定の哺乳動物蛋白質を牛その他の反芻動物飼料に使うことを禁じた97年の飼料規制以来、とうの昔から実施されていなければならなかったことだ。BSE拡散防止のために米国が今必要としているのは、この牛に限ったこのような部分的措置ではない。「交差汚染」の完璧な防止は極めて難しく、今のところ、肉骨粉全面禁止以外にBSE拡散を防ぐ有力な手段はないというのがヨーロッパの経験が示すところだ。

 FDAは今年1月、@ダウナーカウ・死亡牛由来のすべての物質、特定危険部位、機械的分離肉を栄養補助食品を含む人間の食品と化粧品に使うことを禁止するという人間のBSE感染防止措置、A哺乳動物の血液・血液製品の反芻動物蛋白源としての利用の禁止、家禽排出物(家禽が飼育される場所から収集される寝藁・食べ残した餌・羽・糞)と残飯の反芻動物飼料成分への利用の禁止、飼料生産ラインの畜種ごとの専用化などの牛のBSE感染防止措置を打ち出した(⇒米国食品医薬局(FDA)、新BSE対策を発表―飼料規制強化,04.1.27)。だが、このような不十分な人間と動物の感染防止措置でさえ、煩瑣な官僚的手続と産業の反対のために、未だにほとんどの実行の見通しが立っていない。 

 産業最優先の姿勢が変わらないかぎり、米国のBSE対策はいつまで経っても信用できない。

農業情報研究所(WAPIC)

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