カナダ、すべての動物飼料・肥料からの牛特定危険部位排除を提案

農業情報研究所(WAPIC)

04.12.13

 カナダ食品検査局が10日、ペットフードを含む動物飼料に牛の特定危険部位(SRM)(注)を利用することを禁じる飼料規制強化案を提案した(NEW REGULATIONS PROPOSED FOR BSE-RELATED FEED CONTROLS)。カナダでは、BSE感染を防止するために、97年以来、牛の飼料に大部分の哺乳動物蛋白質(肉骨粉)を利用することが禁じられている。しかし、SRMも含むこれら肉骨粉を豚・鶏飼料やペットフードに利用することは許されている。このような場合、管理をいかに厳重にしても、現実には禁止肉骨粉やこれを含む飼料の牛飼料への混入(交叉汚染)を完全に防ぐのは難しいというのがヨーロッパの経験である。レンダリング(化成)工場、飼料工場、貯蔵所、輸送手段、農家、交叉汚染はいつ、どこで起きるか分からない。カナダでは、交叉汚染どころか、多数の農場の牛が豚・鶏飼料を与えられていたという事実も判明している。このようなことから来る牛の感染リスクを最小限にしようとするのが新たな規制の目的である。

 提案には、SRMの肥料への利用の禁止も含まれる。これは肥料が事故や故意の誤用により飼料として使われることだけでなく、汚染牧草地はBSEを拡散する可能性にも備える予防的措置という。これらの提案は、来年2月24日までの75日間のコメントに付される。

 BSE発生国や発生国でなくてもBSEの存在が否定できないところでは、SRMはいかなる利用も許されないというのが国際的常識だ。カナダは米国同様、SRMの人間による利用は禁止したが、動物飼料や肥料としての利用は許してきた。米国食品医薬局(FDA)もすべての動物飼料やペットフードからのSRM排除を提案している。これら両国でも、漸く国際的常識が通用し始めたということだ。だが、米国牛肉産業やレンダリング業界のこれに対する抵抗は強力だ。実現するかどうかは全く不透明だ。

 これらが実現しても、牛のBSE感染リスクがどれほど減るかも未知数だ。

 イギリスは88年に反芻動物飼料への反芻動物肉骨粉の使用を禁じたが、豚や鶏の飼料にはSRM入り肉骨粉がなお使われていた。実験でBSEが豚に感染すると分かると、90年9月、当時感染性をもつと考えられた牛特定臓器(SBO、6ヵ月以上の牛の脳、脊髄、脾臓、胸腺、扁桃、腸)をペットフードを含むすべての動物飼料から排除した。しかし、それ以後生まれた牛にもBSEは発生しつづけた(→イギリスにおける出生年月別BSE確認件数)。最大の要因は、屠畜・解体現場の慣行により除去しきれないSBOを含む肉骨粉入り豚・鶏飼料による交叉汚染と見られている。これは、現場慣行の限界を考慮したSBOの拡張(95年)、あるいは、96年の肉骨粉全面追放まで続いた。それ以後生まれた牛100頭近くの感染も確認されているが、激減していることは確かである。

 フランスが牛の飼料に肉骨粉と動物性蛋白質の利用を禁じたのは90年だが、それ以後生まれた牛のBSE確認件数は95年生まれまで増え続けた(フランスにおけるBSE確認件数)。イギリスから輸入されたものも含む肉骨粉が入った豚・鶏飼料との交叉汚染(や農家による「故意の誤用」)が有力な感染源とされている。すべての動物飼料や肥料からSBOを排除したのは96年だが、それ以後生まれた牛のBSE確認件数は減ってはいるものの、潜伏期間を考えれば、まだまだ増える可能性はある。豚・鶏などの飼料に肉骨粉が許されているかぎり、SRM除去も必ずしも十分でないことを示す典型例だろう。00年11月からの肉骨粉全面禁止に追い込まれたが、その効果を測るのは時期尚早である。それからほぼ4年(48ヵ月)しかたっていないのだから、感染があったとしても、なお潜伏期の範囲内にある。

 提案が通れば、カナダのBSE汚染の浄化に大きく寄与するのは間違いないだろうが、万全の交叉汚染防止策が講じられるか、肉骨粉全面禁止措置が取られるまでは、リスクは消滅しない。

 注:カナダにおける牛のSRMとは、30ヵ月齢以上の牛の頭蓋・脳・三叉神経節・眼・扁桃・脊髄・脊髄神経節(背根神経節)とすべての月齢の牛の回腸遠位部を指す。

 関連情報
 
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