米国がBSE最小リスク地域ルール、カナダを最小リスク国に指定―何故、今?

農業情報研究所(WAPIC)

05.1.5

 昨年(04年)12月29日、年も押し詰まって誰も騒ぎ立てている暇などないときを見計らい、米国農務省(USDA)がBSE最小リスク地域に関するルールを策定した、同時にカナダを最小リスク国に指定したと発表した(*)。最小リスク地域に関するルールとは、米国にBSEをもたらすリスクが最小と認められる国の一連の条件を定めるもので、米国をBSEの侵入から守ると同時に、最小リスク地域からの「一定商品の輸入に関する不必要な禁止」を取り除くものだという。

 最小リスク地域は、a)BSE感染動物が見つかったけれども十分な規制措置が取られ、米国にBSEをもたらすことがありそうもない地域か、b)BSE防止の有効な規制措置が取られ、BSEは発見されていないが、BSEがないとは考えられない地域と定義される。最小リスク地域は、BSEが発見される前から、病気の広範な拡散を防ぐための適切な輸入規制・飼料規制(反芻動物→反芻動物の禁止)・サーベーランスなどのリスク軽減措置を取ってきた地域でなくてはならない。また、BSEのケースが確認された場合に疫学調査とリスク評価を行い、必要な追加リスク軽減措置を取るべきであるという。

 USDAは、このようなルールに基づき、カナダの反芻動物及び反芻動物製品の輸入再開のリスクを評価、カナダを最小リスク国に指定したと言う。これにより、一定の条件の下に、今年3月7日から、カナダからの次の商品の輸入が許されることになる。

 ・30ヵ月未満でと畜されるかぎりで、肥育またはと畜のための牛、

 ・12ヵ月未満でと畜されるかぎりで、肥育またはと畜用の羊と山羊、

 ・牛・羊・山羊・シカ科動物(シカ、ヘラジカ、カリブー、ムース、トナカイ)の肉、

 ・牛の肝臓・舌、ゼラチン、獣脂を含むその他の製品及び副産物。

 カナダにこれが許されるのは、次のような最小リスク地域基準が満たされているからという。

 ・BSEへの暴露を最小限にするに十分な輸入規制。90年以来厳格な輸入規制を維持、国産牛にBSEが発見されたか、BSEリスクが大きいと考えられる国からのレンダリング蛋白質製品を含む生きた反芻動物及び反芻動物製品の入国を防いできた。

 [この評価は、生きた牛と肉骨粉の輸入により、外部からのBSE侵入のリスクが高い(91-95年)、極度に高い(96-00年)、非常に高い(01-03年)とした欧州食品安全庁(EFSA)の評価と対照的である]

 ・国際指針に合致する、またはそれを超えるレベルのBSEサーベイランス。

 [EFSAの評価では、パッシブ(通報を待っての)サーベイランスの限界内でBSEの発見は可能]

 ・反芻動物飼料への反芻動物蛋白質の利用の禁止措置(フィードバン)が97年8月以来取られ、定常的検査を通じて実効性が監視されている。

 [EFSAの評価では、97年8月以後も、牛に非反芻動物肉骨粉を与えることはなお合法で、また非反芻動物に反芻動物肉骨粉を与えることも合法、反芻動物肉骨粉と非反動物肉骨粉を区別することは難しいから、フィードバンのコントロールは非常に困難。交差汚染の可能性が否定できない専門化していない混合農業・混合飼料地域では、反芻動物肉骨粉禁止だけでは不十分。さらに、フィードバンの公的コントロールは03年末までなかった。おまけに、レンダリング工程は感染性を減らすに十分なものではなく、特定危険部位(SRM)や死亡牛が飼料用にレンダリングされている。外部から入り込んだ感染性はリサイクルされ、これを止める手段が不十分だから、リスクは時とともに増大を続けている]

 ・BSEが発見されたあと、適切な疫学調査、リスク評価が行われ、リスク軽減措置、特に人間食料からのSRMの除去がなされている。

 かくて、米国は、BSEが確認されていようといまいと、カナダ程度のBSE対策が実施されていれば、(SRMが除去されているかぎり)肉の貿易は自由、生きた牛も30ヵ月未満でと畜される限り輸入可能という貿易ルールを確立したことになる。

 この発表の翌日、カナダ食品検査局(CFIA)は、アルバータ州の高リスク牛(ダウナーカウと言われる)スクリーニング検査でBSE陽性が出た発表した。明けて2日には、この96年生まれの乳牛のBSE感染が最終的に確認された(BSE CONFIRMED IN SUSPECT ANIMAL, INVESTIGATIONS UNDERWAY)。だが、USDAは動じない。その翌日、USDAのディヘイブン獣医主任は、カナダの人間食料からのSRM排除、フィードバンなどの動物・公衆保健措置は、「米国の消費者と家畜の最高度の保護を提供する」と再確認した(Statement by Ron DeHaven, Administrator, Animal and Plant Health Inspection Service,05.1.3 )。USDAにとっては幸運なことに、この牛は、フィードバン以前の生まれだった。CFIAと同様、感染源はフィードバン以前の汚染飼料だ、フィードバンは有効だと主張することができるのだ。

 米国がカナダのBSE対策にこれで十分とお墨付を与えたのは、同レベルの自国のBSE対策も今のままで十分とお墨付を与えるためでもあった。それは、BSE対策をこれ以上強めるつもりはないという米国の宣言のようにも見える。米国食品医薬局(FDA)は昨年7月、ペットフードも含むすべての動物飼料からのSRM排除などの交差汚染防止策強化を提案した。だが、これは業界の反対で立往生している(米国FDA、BSE感染防止ルール強化を発表、なお抜け穴、実施も何時のことか,04.7.10)。カナダのCFIAもは昨年12月、交差汚染防止のためにすべての動物飼料と肥料からSRMを排除すると提案した(カナダ、すべての動物飼料・肥料からの牛特定危険部位排除を提案,04.12.13)。カナダでこれが実現すれば、米国も右に倣えとなる。これを事前に阻止するために、米国はそんな規制強化は無用、今のフィードバンで十分と保証したかったのではないか。憶測、勘繰りかもしれないが、そう考えれば、今、何故輸入再開の決定なのか、多少分かったような気にはなる。

*USDA RELEASES RULE TO ESTABLISH MINIMAL-RISK REGIONS FOR BOVINE SPONGIFORM ENCEPHALOPATHYBovine Spongiform Encephalopathy; Minimal-Risk Regions and Importation of Commodities? FINAL RULE? 9 CFR Parts 93, 94, 95, and 96 [Docket No. 03-080-3]