カナダ、最新BSE牛の感染源確認は困難 高まる北米のBSEリスク   

農業情報研究所(WAPIC)

05.1.19

 今年に入り2頭のBSE感染牛がカナダで発見された(カナダ、98年生まれの牛にBSE 問われるフィードバンの有効性,05.1.12)。カナダ食品検査局(CFIA)によるこれらの牛をめぐる調査が進行中である(⇒BSE Disease Investigations in Alberta (2005)Latest Information)。我々にとっても、米加政府にとっても、焦点は特定飼料を感染源と決めることができるかどうかにある。両国政府は、97年8月以来の「フィードバン」(豚・馬を除く哺乳動物由来蛋白質の牛の飼料への利用の禁止)が有効に機能しているから北米のBSEリスクは極小と主張してきた。この主張を維持するために、感染源がフィードバン以前に製造されて残存していた飼料であると確認されることに期待をかけた。だが、その確認は難しそうだ。

 2日に感染が確認された96年生まれの牛については、この牛が97年以前に製造された肉骨粉を含む飼料に暴露されたことが確認されたとして、飼料に関する調査の打ち切りが発表された(14日)。

 しかし、11日に確認された98年3月生まれの牛については、14日のマスコミ報道が感染源はフィードバンの1年近く後にアルバータの農民が購入し・他の多くの農民も使っていた調整済み穀物サプリメントに絞られてきたと報じたが(Mad-cow probe focuses on batch of special feed,Globe and Mail,1.14)、結局は確定できなかったようだ。CFIAは17日、時間の経過からして、「特定飼料と感染源の決定的関連性を引き出すことは可能でなさそうだ」と発表した。今週末にもフィードバンの有効性の検証を開始、そのために24日には米国からの担当官も来加するという。だが、この検証がフィードバンの「無欠性」を確認する結果にでもなれば、それこその公正さが問われることになるだろう。

 カナダと米国のフィードバンが抜け穴だらけであることは、それぞれの国で初のBSEが発見されたときに行われた国際専門家チームの調査が既に指摘していることだ(カナダ:専門家報告書、BSE存在のリスク確認、危険部位排除勧告,03.6.30;米国BSE措置に関する国際専門家調査報告発表―肉骨粉全面禁止等を勧告,04.2.5)。特定危険部位(SRM)のあらゆる利用からの排除、肉骨粉飼料の全面禁止か万全の交差汚染防止策の確立といったその勧告は未だに実施されていない。米国では昨年7月、食品医薬局(FDA)が、ペットフードも含むすべての動物飼料からのSRMの排除、飼料製造・輸送の間に飼料と飼料成分を扱い・貯蔵する設備・施設の専用化の義務付け、反芻動物飼料へのすべての哺乳動物・家禽(鳥類)蛋白質の使用の禁止、ダウナーカウや斃死牛のすべての動物飼料への利用の禁止などの交差汚染防止策を提案した。カナダでも昨年12月、CFIAがすべての動物飼料・肥料へのSRMの利用の禁止という交差汚染防止策を提案した。それさえも実現していないとき、フィードバンは「無欠」と言うならば自身の提案を無用と言うに等しい。

 98年生まれの牛の感染確認は、カナダ(従って牛・飼料市場が一体化した米国も含む北米)のBSEリスクは、我々がこれまで考えていた以上に高いかもしれないと疑わせる契機にもなった。これによって、飼料規制の予想以上のズサンさが暴露されることになったからだ。交差汚染どころか、フィードバン以前に製造された飼料からの直接の感染がどれほどにのぼったか見当もつかないような実態がある。

 カナダ政府は、90年以来の輸入規制でカナダにBSEは入っていないと想定、97年のフィードバンも「予防原則」的に導入したにすぎない。従って、その厳格な執行など最初から考えず、既存飼料は回収・廃棄しなかった。それはどれほど残存したのだろうか。報道によれば、フィードバンで飼料価格が暴落した97年8月と9月、農家はこれら飼料を大量に買い占めた。農家は、これに次々と新しい飼料を積み重ねて使うから、貯蔵施設の底に残るこれら飼料を使い尽くすには3年から4年もかかる場合があると証言する(Contaminated feed may have lingered in bins,Globe and Mail,1.13)

 つまり、フィードバン後にも、禁止飼料が長期にわたり、大量に使われてきたわけだ。フィードバン以前に多少の感染牛がいたとすれば、フィードバン後にもこのような飼料を通じて感染牛は増えつづけただろう。そうだとすると、交差汚染を通じて感染するケ−スもますます増えることになる。それはカナダだけではなく、北米全体のBSEリスクをますます高めることになる。米国でBSEが発見されないのは、米国のサーベイランスではBSEを発見することが不可能だからにすぎない。カナダの2例目のBSE感染牛(2日に確認された牛)は、よろめいている牛を発見した獣医が農場に検査を要求することで発見されたものだ。米国ではこんなことはあり得ない。疑わしい牛は検査しないのが米国のやり方だ(⇒北林寿信、「カナダのBSE感染牛発見 北米の検査体制に疑問」、日本農業新聞、05.1.17)。

 なお、2日に確認された感染牛と同一農場でその出生日の前後12ヵ月以内に生まれた牛、つまり生後1年以内に感染牛と同一の飼料を食べた可能性のあるリスクの高い牛(日本で言う擬似患畜)38頭のうち、17日までに6頭が米国に輸出されていたことが分かった。38頭中の1頭はダウナーということで既に検査されており、BSE陰性だった。未だ生きており、現在の居場所が分かったのは9頭、BSE検査の結果はすべてシロだった。

 11日に確認された感染牛の擬似患畜は42頭、うち生きている37頭は安楽死させて検査、すべてシロだった。

 なお、2頭の生んだ最新の子は、すべてBSEとは関係なく死亡しているという。