米国 2例目のBSE確認 出生地・出荷農場も不明 大量の擬似患畜はどこへ

農業情報研究所(WAPIC)

05.6.25

 ジョハンズ米国農務長官(USDA)が24日(米国時間)、昨年11月に食品としての供給を阻止された牛のサンプルのBSE陽性を確認する英国・ウェイブリッジの獣医試験所からの最終検査結果を受け取ったと発表した(http://www.usda.gov/wps/portal/!ut/p/_s.7_0_A/7_0_1OB?contentidonly=true&contentid=2005/06/0232.xml)。03年12月末にワシントン州で発見されたカナダ生まれのケースに続く米国2例目のBSE確認となる。

 発表の内容の要点は次のとおりである。

 1.強化されたBSEサーベイランス計画の一環として、現在、一日に1000頭近い検査をしているが、今回のケースはこのサーベイランスで確認された最初のケースである。この牛が食品として供給されるのは阻止された。

 2.今後BSE迅速スクリーニング検査の結果が確定しないケースが出た場合には、免疫組織化学検査(IHC)とウエスターン・ブロットの両方による確認検査を行う。どちらかの検査で陽性が確認された場合には、サンプルはBSE陽性と見なされる。

 3.この牛の出自牛群を決定するための疫学調査を始めた。調査は未完である。この牛は、97年6月の反芻動物→反芻動物のフィードバン以前に生まれた[筆者注:出生地や出生年月については言及がないから、確認する術はない]。

 4.この牛は歩行困難な牛(いわゆるへたり牛)であったために検査の対象に選ばれた。2004年11月の最初のスクリーニング検査の結論は確定せず、国際的に認められたIHC確認検査を行った。その結果は陰性だった。今月初め、USDAの監査局(OIG)が、7ヵ月を経たサンプルについて、確認検査として国際的に認められた別の検査・ウエスターン・ブロットを利用する追加検査を勧告した。IHCと異なり、ウエスターン・ブロットは反応し、USDAはさらなる分析のためにウェイブリッジ試験所にサンプルを送った。

 5.ウェイブリッジ試験所は国際獣疫事務局(OIE)により、BSEの世界基準試験所として認められている。ウェイブリッジの担当者は今週、迅速、IHC、ウエスターン・ブロットを併せた検査を行った。並行して、USDAも自身の追加検査を行った。

 6.BSEは歩行困難な牛、中枢神経組織異常の兆候を示す牛、怪我をしたか衰弱した高齢牛や、原因不明で死んだ牛に最も発見されやすいことを研究者が示した。USDAの検査計画はこれらのグループを検査の標的にしている。

 7.USDAは、今後も米国の消費者と米国の家畜をBSEから護ること、そのために強化されたサーベイランス計画を通して病気を発見する努力を継続することを約束をする。サーベイランス計画からの十分なデータが得られたときには、それを分析し、既存のリスク管理措置の変更が必要かどうかをけ決定するために、外部]専門家と協議する。

 8.確認されたケースはわが国の食品供給の安全にはいかなる影響も与えない。疫学調査の進行に応じ、タイムリーに、また透明な方法で発見を伝え続ける。

 この発表では、この牛の出生年月、出生地、飼育地、出荷農場はまったく分からない。同日行われた記者会見で、この牛はどこで生まれたのかの質問に、長官は輸入牛であるといういかなる証拠もなく、それをつき止めるためにDNA鑑定を行っているという。また、この牛がどこから来たのかの問いには、死亡牛や瀕死の牛、へたり牛を処理する食用のためではないと殺施設に出されたもので、フィードバン前に生まれた少なくとも8歳以上の肉用牛であるとしか言えないという.。擬似患畜として子牛も追跡するというから、雌雄に関しては雌なのだろう(http://www.usda.gov/wps/portal/!ut/p/_s.7_0_A/7_0_1OB?contentidonly=true&contentid=2005/06/0233.xml)。

 これでは、感染源・感染経路の究明どころか、緊急を要する擬似患畜の確定と行方の追跡もいつになるか分からない。多くは既に食肉処理されているだろう。長官はこの牛が食品供給に入らなかったと安全を強調するが、これでは安全どころではない。擬似患畜の追跡についての質問には、「これは高齢牛だから、明らかに擬似患畜の多くを発見することはありそうもない」と答えるのみだ。ヨーロッパなら大騒ぎになるところだ(2000年秋のヨーロッパのBSEパニックは、フランスで発見された感染牛の同居牛が既に食肉処理され、]カルフールの店舗に流れていたことが発覚したことを契機に勃発した)。

 今回の確認は、個体識別と迅速なトレースのシステムというリスク管理の基本的手段をもたない米国のBSE対策の欠陥を改めて露呈するものだ。2009年までに個体識別・トレーサビリティーを確立をするという現行計画では、検査をいかに強化したとしても、人々は感染の可能性が高い大量の擬似患畜を食べさせられ続けることになる。

 今回の確認過程は、米国の従来の検査体制・方法への疑問も決定的なものにした。今まで絶対的な信頼を表明していたIHCの限界を認め、バイオテラッド・スクリーニング検査で結論不確定の場合のIHCとウエスターン・ブロットの併用による確認検査、米国のIHC確認検査で利用できる抗体アレイを評価するためのウェイブリッジ科学者との協議などの検査プロトコルの見直しを行うという(APHIS :http://www.usda.gov/documents/vs_bse_ihctestvar.pdf)。

 その一方、先の記者会見では、マシューズ博士は、消費者の安全のための基本的手段は特定危険部位(SRM)の除去で、第二の手段はフィードバンである、BSEが存在するかどうか、存在するとすればどれほどかを調べるサーベイランスの目的と費用のバランスを考慮して、サーベイランスのレベルを維持するかどうか、検査サンプルの数を減らすかを将来検討せなばならないと、現在の検査基準の緩和を示唆する。

 昨年10月の米国産牛肉輸入再開に関する日米合意は、「少数のBSEの確認が市場の閉鎖や科学的根拠のない牛肉貿易パターンの撹乱を生じないような十分に堅固な食品安全システムを設けている」と確認しているから(日米牛肉協議合意、BSEリスク評価を無視、政治が独走,04.10.25)、今回の確認が両国政府の輸入再開を急ぐ態度を変えることはないだろう。しかし、米国の検査体制で、米国にどれほどBSEが存在するかを正確に確認できるのかどうか、改めての検証が必要に思われる。米国のBSEが「少数」であることは、必ずしも保証されない。

 OIGは昨年、米国の拡大臨時サーベイランス計画は検査サンプル採取の無作為性が保証されないから、検査から得られるデータの信頼性は著しく落ちるという監査報告を出している(米国農務省監査局、省のBSE検査を批判 省専門家は過去のことと一蹴,04.7.15)。さらに、今回の確認につながった進行中の第二次検査では、この検査計画の有効性、試験所のパフォーマンス、提出されたサンプルの検査手続、検査結果の報告、第一監査報告の勧告に対応してUSDAが行った修正などの評価が行われている。同時に進行中の第三次監査では、SRM禁止や先進的回収肉(AMR)に中枢神経組織が混じることを防止するコントロールのUSDAによる執行が有効に実施されているかどうか、食品安全検査局の疑わしい牛の生前確認手続や検査すべきとされた牛からのサンプル採取手続も評価中である(OIG:http://www.usda.gov/oig/webdocs/BSEStatement050615.pdf)。

 少なくともわが国食品安全委員会が進めている米国産牛肉の安全性評価の結論は、答申時期にこだわることなく、これらの監査結果を待ってからにすべきと考える。報告は夏には出るというから、遠い先のことではない。

 なお、今回のケースが自然発生的なものではないかと示唆していたクリフォード博士は、同じ記者会見で、

 「このケースのたん白質分子パターンはイギリスで発見される典型的パターンではなく、フランスで発見された一部のものに非常によく似ている。しかし、未知のBSEの表現型については、なお知るべき多くのことが残っている。従って、国際的には、これはBSEのケースだ。

 われわれは、これを、イギリスで古典的に見られるのとは異なる分子パターンを持つBSEのケースと記す」

と述べている。