野党3党 BSE関連法案提出 不可解な輸入規制対象「指定国」

農業情報研究所(WAPIC)

05.10.14

 民主党のニュース・トピックが伝えるところによると、「民主党はじめ野党3党は13日、牛海綿状脳症対策特別措置法の一部改正案(BSE特別措置法改正案)、輸入牛肉トレーサビリティ法案の2法案を衆議院に提出した」そうである。

 http://www.dpj.or.jp/news/200510/20051013_06bse.html

 前者について、山田ネクスト農相は、現在の法律は牛肉の輸入に際して輸出国の[BSE]ステータスの評価を求めていないために「危険な牛肉を除外する術がないことに危機感を示し」、「ステータス評価に基づき、BSEが発生する恐れが相当程度ある国」は政令で「指定国」に指定、指定国からの輸入牛肉については「国産牛と同じレベルの検査(21カ月齢以上の牛を検査)および危険部位の除去を行ったことの証明を求める」という。

 ステータス評価に基づいて輸入条件を決めるという考えが出てきたことは歓迎する。ただし、法案内容がこの発表かぎりのことだとすれば、これは欠陥法案だ。

 第一に、「指定国」の条件が分からない。国際獣疫事務局(OIE)の新基準では、ステータスは「無視できるBSEリスク」、「制御されたBSEリスク」、「決定されないBSEリスク」に3分、各国をそれぞれのステータスに区分けするための条件を定めている。区分けの最も基本的な条件は飼料規制の有効性だ。

 「指定国」とは、後の二つのステータスの国のことを言うのだろうか。そうではなさそうだ。もしそうならば、この二つのどちらに分類されるかで輸入条件は違ってくる。ところが、法案が定める輸入条件には、「国産牛と同じレベルの検査(21カ月齢以上の牛を検査)および危険部位の除去を行ったことの証明を求める」という画一的条件しかない。とすると、「指定国」というのは今までにはどこでも定義されていない概念であり、「BSEが発生する恐れが相当程度ある国」を定めるためのまったく新しい条件が考案されねばならない。それについては全然言及がない。これは極めて重大な問題だ。これは、法案が目的とする国産牛肉と同等の安全性の確保にかかわるからだ。

 食品安全委員会は、20ヵ月以下の国産牛については、検査なしでも特定危険部位(SRM)を除けばその肉の消費からくるリスクは微小(ゼロに近い)と結論した。逆に言えば、「国産牛と同じレベルの検査(21カ月齢以上の牛を検査)および危険部位の除去を行ったことの証明」があれば、21ヵ月以上の牛の牛肉も安全ということになる。しかし、その前提には、何よりも日本の飼料規制の一定の有効性の確認がある。

 あるいは、この発表では言及されていないが、法案には「指定国」を決める条件に、国内と同等の飼料規制の有効性が含まれているのだろうか。それならば、食品安全委員会の基準に従うかぎりで(それ自体に問題がないわけではないが)、検査済みの21ヵ月以上の牛のSRMを除いた牛肉、無検査の20ヵ月以下の牛のSRMを除いた牛肉は、国産牛肉と同等に安全とすることができる。

 ただし、「指定国」の中に「決定されないリスク」の国も含まれるのだとすれば、このような国からの肉も「国産牛と同じレベルの検査および危険部位の除去を行ったことの証明」があれば輸入を許可することになり、OIEの最低限の安全基準を満たすかどうかも不透明になる。OIE基準では、このような国からの(SRMを除去した、あるいはSRMに汚染されていない)「生鮮肉と牛肉製品」が由来する牛は、固体ごとに「BSEのケースと疑われないか、確認されない」、「肉骨粉と獣脂かすを給餌されなかった」、「生前・死後の検分を受けた」ことなどが証明されなければならない。どれだけいるかも分からない感染牛を排除するための2重、3重の措置だ。BSE対策の基本は、SRMを排除することだけではなく、感染牛そのものを排除することだ。

 野党3党は、20ヵ月以下の牛についてはこれは無用、21ヵ月以上の牛については、このような条件は「検査」でクリアできると考えているのだろうか。このようなステータスの国では、20ヵ月以下の牛にどれほどの感染牛がいるか分からないし、検査をすり抜ける21ヵ月以上の感染牛がどれほどいるかも分からない。20ヵ月以下の牛については論外だし、現在の検査技術を前提とするかぎり、検査によってこれらの2重、3重の措置以上に感染牛を排除できるどうかは分からない(これは検査によって一部感染牛を排除することの意味を否定するものではない。それで万全とし、これらの措置を無視することには大きな危険があると言うだけだ)。

 法案の内容が発表された以上のものでないとすれば、これは欠陥法案と言わざるを得ない。

 ちなみに、OIE旧基準に準じるEUの現行規則(新基準に対応する規則は未制定)では、BSE暫定清浄国も含めたすべてのリスク国からの生鮮牛肉・牛肉製品の輸入には、最低限、「哺乳動物由来の蛋白質で反芻動物を飼育することが禁止されてきて、かつこの禁止が有効に執行されてきたこと(欧州委員会、有効な飼料禁止:第三国のためのガイダンス・ノート(改訂版),04.7.3)を立証する国際動物保健証書の提出」を義務付けている(EUの狂牛病(BSE)関連輸入規制,03.7.15)。