米国飼料業界 BSE飼料規制強化案にコメント 30ヵ月以下リスク牛の脳・脊髄の利用を認めよ

農業情報研究所(WAPIC)

05.12.20

 アメリカ飼料産業協会(AFIA)が19日、狂牛病(BSE)拡散を防止するための飼料規制強化にかかわる食品医薬局(FDA)の提案への最終コメントを発表した。それは、FDAが禁止しようとしている30ヵ月以下の死亡牛やへたり牛の脳と脊髄の利用は許すべきだ、記録保存はレンダリング産業にのみ義務付けられるべきで、飼料産業はその義務を負うべきではない、FDAとその他の連邦機関は実際的で責任ある代替方法を開発するとともに、この提案のもとで新たに利用が禁止される屠体と特定危険部位(SRM)の処分のための資金を提供せよと主張している。

 http://www.afia.org/img/assets/30/AFIA_BSE_comments12-15-05.pdf

 コメントの対象となるルールは、今年10月4日に提案されたもので、ペットフードも含むすべての動物飼料への一定の高リスク物質の利用を禁止するというものだ(米国FDA 新たなBSE飼料規制を発表 なお抜け穴だらけ カナダの規制とも格差,05,10,5)。ここに言う高リスク物質には、

 @30ヵ月以上の牛の脳と脊髄、

 A検分で人間消費が許されなかったすべての月齢の牛(死亡牛や起立・歩行が困難な牛=へたり牛など)の脳と脊髄、

 B脳と脊髄が除去されなかった場合、検分で人間消費が許されなかった牛のと体全体、

 C牛脂[タロー]が0.15%の非溶解性不純物を含む場合、この提案されたルールで禁止された物質に由来するタロー、

 Dこの提案されたルールで禁止された物質に由来する機械的分離肉、が含まれる。

 この提案は、1997年フィードバンで許容された血液・血液製品、残飯の利用を禁止し、さらに反芻動物飼料への養鶏場廃棄物(ポールトリーリッター、チキンリッター)の利用も禁止、交差汚染防止のための設備や施設の専用化も義務付けるという昨年1月の提案(米国食品医薬局(FDA)、新BSE対策を発表―飼料規制強化,04.1.27)、すべての動物飼料にSRMを利用することを禁止し、また反芻動物飼料にすべての哺乳動物・家禽蛋白質の利用を禁止するという昨年7月の提案(米国FDA、BSE感染防止ルール強化を発表、なお抜け穴、実施も何時のことか,04.7.10)からも大きく後退したものであった。一部SRM(眼・扁桃・回腸遠位部など)は禁止対象とならず、血液・血液製品、残飯、チキンリッターの利用は相変わらず許され、設備・施設の専用化も義務化されない。

 それでも、AFIAは、新ルールにより量が大きく増加することになる屠体とSRMの処分のコストを懸念する。処分される屠体と物質の量を最小限に減らすために、30ヵ月以下の死亡牛、へたり牛の脳と脊髄の非反芻動物飼料への利用を許するように要求した。そして、そもそも30ヵ月以下の牛の脳や脊髄はSRMとして除去を義務付けられていないし、30ヵ月以下の牛のBSEは滅多に発見されていないと、この主張を正当化する。これは、個々の牛の月齢の正確な決定という要件を満たさねばならないが、乳用牛については牛群の記録でこの要件を満たすことができるし、フィードロットの子牛も明らかにこの要件を満たすと言う。

 さらに、処分にかかわる連邦プログラムは存在しないし、産業に対するガイダンスも存在しない現状では、大量処分は人畜共通感染症の伝達と土壌・水のさらなる汚染につながる恐れがあると脅かす。このようなルールを実施するのなら、連邦政府は責任をもって処分に取り組まねばならないと、処分問題に取り組むための各州の獣医当局者を含むハイfレベルの州-連邦タスクフォースを設置、処分の選択肢を開発し、これら選択肢の実行のための資金供給メカニズムを確立せよと要求する。

 次なる懸念事項は、脳と脊髄の除去を検証するための検査の欠如だ。このルールを実施するなら、レンダリング製品中の脳と脊髄を検出するための検査が開発されねばならない。FDAが検証手段として使ってきた記録の保存は重要だが、牛の脳と脊髄の検査の開発がルール遵守状況の検証を大いに助けると言う。しかし、検査開発にかかわる専らの懸念は、飼料工場の内部や近辺での大気に含まれる牛の蛋白質を検出する検査の感度が高すぎ、禁止された哺乳動物蛋白質を扱わない工場で偽陽性が出ることのようだ。そのような極度に感度が高い検査の利用は支持しないと言う。

 脳・脊髄の除去の記録文書の保存義務については、FDAは、レンダリング産業以外への拡張の是非を聴いていたが(ただし、自身はその必要はないと認めている)、AFIAは当然のごとく、レンダリング産業の下流部門での記録保存は重複手続であり、無用としている。大元で除去が確認されれば、飼料に脳や脊髄が含まれることはあり得ないというわけだ。

 これらすべての主張の底にあるのは、安全性への関心よりも、提案されたルールの経済的影響に対する懸念である。AFIAは、新ルール実施を最終的に結論する前に、FDAが既存の経済的影響分析を再考するように要求する。この分析は、影響を受けるすべての産業から提出される適切なデータに基づき、すべての産業への全体的経済影響を考慮せねばならないと主張する。

 AFIAは、米国飼料の75%を製造する600の企業を糾合する。FDAはこの団体のコメントを無視するわけにはいかない。恐らくはさらに後退した新ルールが最終的に決まるのは、一層遅れるだろう。あるいは、永久に放置されるかもしれない。日本が飼料規制とはまったく無関係に(20ヵ月以下の牛からのSRMを除去された肉・内臓であることさえ検証されればよい)米国産牛肉の輸入再開を決め、実際に輸入も始まった今、米国が飼料規制強化を急がねばならない切迫した理由はない。

 食品安全委会が犯した最大の罪は、SRMが廃棄されるどころか、それを含む肉骨粉飼料が利用されている国の牛肉が、SRMを完全に廃棄し、肉骨粉を全面的に禁止する国と同等に安全だいうお墨付きを与えてしまったことだ。これでは、SRM廃棄や肉骨粉禁止に真面目に取り組む国はなくなってしまう。

 ところで、英国では、肉骨粉利用を全面禁止、貯蔵・輸送設備の洗浄・消毒も終えた1996年8月以後に生まれた牛のBSE(BARBのケース)が、11月20日現在で114件報告されている。英国の海綿状脳症委員会(SEAC)は11月、BARBの三つのクラスター(集中発生牛群)を確認、これらの農場の調査は、これらの牛が飼料貯蔵庫に残留する古い(9年以上も前)飼料に汚染された飼料を与えられたことを示唆していると認めた。農業者はこの潜在リスクを除去するように要請された(Summary of the 90th SEAC meeting:http://www.seac.gov.uk/summaries/seac89_summary.pdf)。スコットランドの獣医主任・Charles Milne氏は、「実験では、BSEに感染した脳組織1mgでも子牛を感染させるに十分だった。これら一部牛群では、飼料は1996年8月以前に利用され、洗浄されなかった貯蔵庫に貯蔵されていた」と言う(Ongoing U.K. BSE cases linked to dirty feed bins,The Scotsman,12.14)。

 このように徹底した飼料規制の下でも、BSE感染源を完全に除去することは難しい。まして米国流の飼料規制など、決して許されてはならないことだ。