vCJD潜伏期間は50年を超えることも 最近の予測を大きく上回る発生の恐れー英国の研究

 農業情報研究所(WAPIC)

06.6.23

  ロンドン大学インペリアル・カレッジのジョン・コリンジ教授等の研究チームが、狂牛病の人間版とされる変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)の潜伏期間は50年を超える可能性があるという研究結果をランセット誌に発表した。

 John Collinge et al,Kuru in the 21st century—an acquired human prion disease with very long incubation periods,The Lancet 2006; 367:2068-2074Summary

 従来は、この潜伏期間は通常は8年から10年、最長でも20年程度と考えれらてきた。そうであれば、1996年に厳格な人間の感染防止措置が取られた英国におけるvCJD患者の発生は、そろそろ退潮に向かうはずだ。それは、およそ160人に達した現在の英国のvCJD患者が大きく増えることはなさそうだという楽観的予測につながってきた。

 しかし、50年もの潜伏期間があり得るとすれば、なお多数の潜在感染者が存在し、長期にわたり発症が続く可能性があるだろう。今後、従来の楽観的推定を上回るvCJD患者が発生する 恐れがある。輸血や手術を通じての潜在感染者から人→人感染の可能性も考えれば(隠れたvCJDがすべての遺伝子型の人に伝達、人→人感染根絶は困難ー新研究,06.3.27;英国 輸血を通してのvCJD感染3例目 輸血はvCJD伝達の”効率的”メカニズムである恐れ,06.2.10;英国のBSE問題世界的権威 vCJD退潮の結論は時期尚早、将来は不確実と警告,05.9.26)、今後の発生数は従来予測をはるかに超えることになるかもしれない。

 この論文と同時に掲載された編集者の論説(Lessons from kuru)は、「vCJD発生率がピークに達し、この悲惨な病気の最悪の局面を脱しつつあるといういかなる考えも、今や極度に懐疑的な態度で扱われねばならない」と言う。

 この発見は、vCJDと同様な病気であるクールーの研究に基づく。クールーはパプア・ニュー・ギニアに特有の伝達性海綿状脳症(TSE)で、死者の脳などを食べる食人儀礼を通じて広がったと考えられている。その発生は、1950年代にこのような儀礼を オーストラリア当局が禁止して以来、着実に減ってきた。

 研究者は、クールーが人間のTSEを理解するための基本的な経験を提供すると考え、パプア・ニュー・ギニアでのサーベイランスを 改めて強化、クールー患者の潜伏期間、病因、遺伝的感受性を調査したという。

 多くのクールー患者は既に亡くなっているが、現場調査チームは1996年7月から2004年6月までに、なお生存している11人のクールー患者を発見した。 これら患者の調査で、潜伏期間は最低で34年から41年と推定された。しかし、男性患者の潜伏期間は39年から56年である可能性が高く、さらに最大7年長かった可能性もあるという。そして、大部分の患者の遺伝子型は、潜伏期間の長期化とプリオン病への抵抗性に関連する と言われるコドン129同型遺伝子型であった。

 研究チームは人間のプリオン病潜伏期間は50年を超える可能性があり、人間への狂牛病伝達においては種間の壁があるから(クールーは人→人感染だが、vCJDは牛→人感染)、潜伏期間の平均値と幅はさらに大きくなるだろうと言う。

  これまで確認されているvCJD患者の遺伝子型はすべて、メチオニン同型の遺伝子型(MM型)であったが、これ以外の遺伝子型でも感染する可能性があることは既に明らかにされている。この場合には潜伏期間がMM型の場合よりも長いだろうとは言われてきたが、どれほど長くなるかについては知見がなかった参照:vCJD発生率の正確な定量評価は現状では不可能ー英国海綿状脳症委員会小委員会,06.2.7;VV型の人のvCJD感染確認 感染者数は予想以上、人→人感染のリスクも高まる,06.5.19

 なお、英国と世界における現在までのvCJD患者数は、新変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)患者数(世界)(2006.6.16更新)を参照のされたい。英国jで161人、世界全体で187人となる。オランダ当局が22日、昨年死亡した女性が同国二人目のvCJD患者と診断されたと発表したという報道がある(Dutch report second "mad cow" human case,Reuters,.6.22)。これを加えると、世界全体で188人ということになる。