フランス:殺虫剤フィプロニルで蜜蜂大量死

農業情報研究所WAPIC)

03.6.9

 フランス南西部・ミディ・ピレネー地方(州)で、今年3月23日以来、蜜蜂の突然の大量死が起きた。ミディ・ピレネー農林部(フランス農水省の地方部所)植物防疫局は、この地方の5県にまたがる七つの養蜂場でこの大量死を確認した。局は、原因分析のために、死亡した蜜蜂・生きている蜜蜂の14の標本を採集、農業薬剤製品研究州際試験所(GIRPA)に送った。4月28日に農水省に伝達された最初の分析結果によれば、殺虫剤活性成分のフィプロニルとその代謝物質を2.1μg/kgから14.3μg/kg検出した。この結果は他の地域や季節に一般化はできないが、農水省は430日、この結果を評価するために、毒性研究委員会の諮問に付した。521日に確認された委員会の意見は、蜜蜂の死がフィプロニルへの直接的暴露による急性毒性に因るものであると結論した。

 しかし、蜜蜂のこのような高濃度のフィプロニルがどこから来たのかは確認できないという。フランスでは、フィプロニルは、主に種子処理のためのRegent TS、土壌処理のためのSchussと呼ばれる農業用殺虫剤、ノミ、ダニ、ゴキブリ、アリなどを防除するための獣医薬、家庭用殺虫製品に含まれている。意見は、暫定的に次のように結論している。

 第一に、季節を考慮すると、ヒマワリの種子を包むフィプロニルを経由してヒマワリ畑の雑草の花粉と花蜜が汚染された可能性が考えられるが、農業慣行と薬剤分子の特性を考慮すると、この仮説は現実的でない。

 第二に、播種機から出た揮発分子による汚染が考えられるが、これも観察された徴候の重大性と急速性を説明できない。

 Schussによる裸地土壌の処理の後に発生した薬剤の霧(ガス)に因るという第三の仮説が最も現実的という。

 農水省は、この問題に関する経緯を明らかにし、委員会の意見の概要を伝えるとともに、リスクへの暴露の現実的シナリオの確立は今後の課題であり、ミディ・ピレネー当局は、追加分析の結果を待たずに関係地域でのフィプロニル(及びこの事件に関連があり得る農薬)の利用に関する詳細な調査を行なうというコミュニケを発表した(Communiqué de presse de la direction générale de l'alimentation à propos des mortalités d'abeilles en Midi-Pyrénées)。この発表に対するメディアの反応を受けて、農水省は、6月3日、この問題に関するさらに詳細な情報を発表した(Communiqué de presse : Mortalités d'abeilles en Midi-Pyrénées)。それは、製品の販売許可は独立科学専門家で構成される毒性調査委員会の申請者提出書類を評価の後に出されたもので、委員会の「蜜蜂」班は適正使用条件の下ではリスクを示す要素はないと判断したと主張する。1996年に販売許可が出され、2000年に更新、2005年12月31日まで有効であり、Regent TSの活性成分は現在、EUレベルの再評価の対象となっており、2005年にその結果が出るという。

 しかし、農民同盟は、GIRPAの分析にもかかわらず、蜜蜂がフィプロニルに殺されたと認めさせるために、養蜂業者がなぜ闘わねばならないのか、人間の健康に重大な影響があることが明らかにされるまで待たねばならないのか、蜜蜂の死で十分ではないかと、予防原則に従ってフィプロニルの即時撤収を要求している(農民同盟プレス・コミュニケ:La Confédération paysanne exige le retrait immédiat du Fipronil,6.2)。

 フィプロニルは日本でも1996年4月に登録され、これを含む薬剤は、稲の育苗箱施用や播種時土壌処理用として多様な商品名で販売されている。家庭用殺虫剤(ゴキブリ用)にもこれが含まれているものがあるし、犬猫のノミ・ダニ駆除に極めて簡便で有効な獣医薬(フロントラインー背中肩の部分の中央の毛を分け、一滴たらすだけで効果は1-2ヵ月持続する)としても広く普及している。急性毒性に関しては劇物指定(1%以下は指定なし)、魚毒性は最高のD類に次ぐC類に分類されている。メーカーは変異原性、催奇形性はないとしているが、試験データの詳細は不明である(『農薬毒性の事典・改訂版』三省堂、163頁)。まったくの蛇足ではあるが、筆 者と10年間起居を共にしたゴールデン・レトリバーのPaw君(このホームページのトップページの写真参照)は、昨年5月、白血病で逝った。朝晩の散歩の途中の道端・荒地・駐車場などに何の配慮もなく撒かれた除草剤、遺伝子組み換え品などどんな有毒成分が含まれているかわからないドッグフード、何が原因か特定しようもないが、フロントラインを愛用しており、これとの関連を疑うわけではないが、気がかりなことの一つではある。

 関連情報
 欧州委員会、農薬残留状況2001年報告、減らぬ農薬使用,03.4.25
 
滅入る養蜂業者(02.9)