米国議会上院、温室効果ガス排出規制案を拒否

農業情報研究所(WAPIC)

03.11.4

 1030日、米国議会上院は発電所その他の工場から排出される二酸化炭素(炭酸ガス)などの温室効果ガスの量に上限を課す法案の初めての採決を行った。結果は5543で提案を退けたが、ブッシュ政府の方針に逆らって温室効果ガス排出の強制削減を求める声が着実に高まっていることを示すものとして注目に値する。上院が地球温暖化問題で最初に行動したのは1997年であるが、このときは京都で交渉されていた国際気候変動条約の基礎となる原理を950で拒絶した。今回の投票結果は、義務的削減をめぐる政治的雰囲気に激変が生じつつあることを示している。

 アリゾナ選出の共和党・マケイン議員が法案の提案者に名を連ねたのを始め、6人の共和党議員、中立議員1人(ジェフォード議員)が法案に賛成する民主党議員に加わった。これら共和党議員は、経済的損失が大きすぎ、途上国に削減義務を課していないから不公平だと京都議定書批准を拒否し、一層の研究と自主的な排出抑制を求めているブッシュ大統領に反旗を翻したことになる。反対者は、これら議員は環境保護派の票を狙っただけと見ているようだが、賛成者には主要工業・石炭生産州の民主党・共和党議員も含まれており、必ずしもそうとはいえない。

 この法案が目指す目標は京都議定書が米国に課した目標にはほど遠い。京都議定書では、米国は温室効果ガス排出量を2010年までに1990年のレベルから7%削減することとされていたが、法案は企業に1990年と同じレベルにとどめるように義務付ける。支持を増やすために、自動車産業・農業を義務的削減対象からはずずという譲歩も行った。このような法案が上院を通ったとしても、下院が同様な法案を通すことは当面あり得ない。それでも、今回の投票は、いつかは米国も温暖化ガス削減に向けての世界の流れに乗ってくるかもしれないという希望を膨らませる。

 各種世論調査は米国民が排出抑制の支持に傾いていることを示している。ガソリンなくしては暮らせない米国民がガソリン代上昇につながるような規制を受け入れるはずがない、そんなことをすればどんな政府ももたないというのがしばらく前の一般的見方であった。だが、最近のニューヨーク・タイムズ紙の調査では、調査された675人の成人の17%が地球温暖化について何らかの知識をもっており、80%は気候変動と汚染のリスクを減らすために乗用車とトラックの燃費基準改善を支持、69%が車の値段が高くなってもそのような基準を支持すると答えたという。汚染と地球温暖化の抑制のためにガソリン価格がガロン当たり25セント上がるのを支持するかどうかの問には、なお50%が「No」だったが、「Yes」も46%にのぼったという。先頃、12の州も温室効果ガス排出規制を求めて連邦政府を提訴する動きに出た(米国12州が温室効果ガス排出規制を求めて連邦政府を提訴)。

 ハリケーンの大型化、頻度と強度を増す竜巻・旱魃や熱波とそれに伴う大規模山林火災・大洪水、季節はずれの豪雪や寒波、これらの温暖化との関係は科学的には未確認だが、人々は身近に迫る大災害が温暖化のせいではないかと疑い始めている。温暖化がもたらす被害が確かさを増すにつれて、人々の姿勢はますます変わっていくであろう。

 気候変動が米国農業に与える悪影響は今まで以上に大きいという精細な研究が”Climatic Change”誌最新号に発表された。米国を31平方マイルのグリッド(従来は186平方マイル)に分けた新たな精細なモデルによって気候変動の作物への影響を研究したところ、二酸化炭素の排出が2060年まで倍になる傾向が続けば、米国農業の中心地である南東部の農業経済は、農民が作物転換などの対応を講じないかぎり3分の1が失われ、対応を講じたとしても5分の1が失われるという結果が出た。この地域では、綿を除く作物は困難になる。全体的には10の農業地域のうち、5地域に悪影響が出る。失われる利益は以前の予想の10倍になるという。今後、作物への影響だけでなく、様々な影響が同様に確かめられていくであろう。

 関連ニュース
 Senate Rejects Mandatory Cap On Greenhouse Gas Emissions,The Washington Post,10.31
 Senate Defeats Climate Bill,but Proponents See Silver Lining,The New York Times,10.31
 Study:Climate Change Threatens U.S. Frams,Discovery,10.29

農業情報研究所(WAPIC)

グローバリゼーション 食品安全 遺伝子組み換え 狂牛病 農業・農村・食料 環境